2003年4月23日 ピロリ菌を追え!!(その1)

その騒動は今朝の朝刊から始まりました。第一面に並ぶ見出しが目を引いたのです。

胃潰瘍治療
何よりもピロリ菌退治
厚労省が初の指針

詳しく読んでみると、こんなことが書かれていました。

ガイドラインは、 国内の患者約百万人のうち、九割を占めるとみられるピロリ菌が原因の胃かいようについて、 抗生物質で菌を死滅させる「除菌療法」を「他の治療法より再発率が低い」として、 「最優先」と明記。 研究班は、これで患者の激減が期待できるとしている。

実を言うと、うさぎは腹痛持ち。子どもの頃から胃が痛むのはしょっちゅうのことで、 「十二指腸潰瘍」という病名で、病院で投薬治療を受けていたこともあります。
潰瘍という病気は、命が危険にさらされる可能性は低いのですが、 慢性化しやすく、これまで完治するのは困難とされてきました。 うさぎ自身、直ったかと思えばまたひどくなるの繰り返しで、一度ひどくなると 一月ほどは夜となく昼となく痛み、何も手につかなくなります。

今朝も胃が痛み出し、午前中はずっと寝ていました。 それでお昼ごろようやく起きて新聞を手にとったら、この見出し。 これはうさぎにとって千期一遇のチャンスでした。

ピロリ菌退治は数年前から脚光を浴び始めた新しい療法で、 うさぎもこれを受けてみようかと考えたことはあったのですが、 先延ばしにしてきました。 だって、痛むときには、痛みに耐えるのが精一杯で病院に行くどころではないし、 痛くないときには、病院に行く必要性を感じないんですもの。 うさぎって、喉元すぎれば熱さを忘れる性分らしくって。

ところが今日はここ数週間の断続的な痛みに弱りきっていたところで、 しかも新聞を読んだときにはちょうど小康状態だったという、グッドタイミング!
先日、中学の懇談会の役員決めの席で、そのストレスに胃が耐え切れず痛み出し、 その痛みに耐えかねて、思わず役員を引き受けてしまったという 苦い経験からもまだ日が浅い。そんなわけで、

病院に行こう!
そしてピロリ菌を退治する抗生物質をもらって、胃の痛みとは永久におさらばしよう!

と、うさぎは今朝唐突に決意したのであります。 そして、善は急げとばかり、さっそく近くの診療所に電話をかけて、 この抗生物質を処方してもらえるかどうか尋ねました。

ところが。
「ピロリ菌が検査で検出されないと、処方はできません」とのこと。 抗生物質を処方してもらうには、総合病院でそれ用の検査を受ける必要があるのだそうです。

――そうか、薬をもらうのには検査が必要なのね。
でもまあいいや。 ピロリ菌検出の検査は簡単なのだと友達に聞いたことがあります。 試薬を飲んだあとに、風船状のゴムの中に息を吐き出すだけでいいんですって。 すぐに薬を手に入れられないのは残念だけれど、胃の痛みから永久に開放されるなら、 それくらいの検査を受けるのに、やぶさかではない。 そう思いつつ、うさぎは今度は総合病院に電話をかけました。

ところが。
「検査を受ける前に、まずは一度受診していただかないと。 その上で、ピロリ菌検査の予約をしていただきます」とのこと。

――そうか、検査の予約は、受診しないと受け付けてもらえないのかぁ。それは面倒ね。
でもまあいいや。 胃の痛みから永久に開放されるなら、受診するくらい、やぶさかではない――。 うさぎはすぐに着替えて、病院に赴きました。

ところがお医者さま曰く。
「ピロリ菌退治の治療を受けるには、まず潰瘍を患っているという前提が必要です。 ピロリ菌に侵されていたとしても、潰瘍を患っていないことには、 ピロリ菌退治の治療に健康保険が適用にならないんです。 ですからね、うさぎさん、まずは胃カメラにて、潰瘍の検査をさせていただきます。 内視鏡で細胞を取ってくれば、ピロリ菌の検査もできますのでね」とのこと。

――ガーン、胃カメラ?! うさぎは思わず椅子ごとあとじさりました。
でも‥でも! それで胃の痛みから永久に開放されるなら、胃カメラくらい、い‥胃カメラくらい‥ やぶさかではない――。うさぎは胃カメラを飲む苦汁の決断をしました。

ところが。
「あとですねえ、うさぎさんはだいぶ貧血がひどいようですので、 血液検査を受けていただきます。 それに胆石とか、そういったほかの病気が腹痛の原因となっている場合もありますのでね、 うさぎさん、腹部エコーもとらせていただきます」とのこと。

なぜだかこのお医者さま、なにか一言言うたびに、うさぎの名前を呼ぶの。 べつにそれはいやな感じじゃないのよ、むしろ親しみがこもっていて いい感じなんだけど‥。 ただなぜだか、名前を呼ばれるたびに、だんだん思考力が低下していくような気がする。
「なんだかだんだん、お薬ゲットが遠くなっているような気がするのは気のせいかしら〜?」 と、ぼんやり思いつつ、いつの間にかうさぎはお医者さまのペースにはまっていきました。

お医者さまがそうするのが良いとおっしゃるなら、 血液検査も腹部エコーもやぶさかではございません。 とっていただきましょうとも‥!
胃カメラと腹部エコーの検査の日どりを5月2日に決め、 血液検査を受けて、うさぎは病院をあとにしました。

でも家に帰る道すがら、急に不安になってきちゃった。
だってよく考えてみたら、 胃カメラを飲んで潰瘍であることが分かっても、 ピロリ菌が検出されなければ意味がないわけでしょ?
胃カメラまで飲んで、"あなたの場合、原因はピロリ菌じゃありませんでした"なんて 言われた日には、一体どうすればいいの?

もしかして、まずピロリ菌の検査をしてから、 潰瘍かどうかを検査するのが筋だったんじゃあないかしら? 血液検査だの腹部エコーなんて尚のこと必要なかったのでは?
だって、うさぎが知りたいのは、自分がピロリ菌をおなかの中で飼っているかどうかで、 自分の腹痛が、潰瘍という病名で呼ばれるものかどうかではないんだし。 ましてや、貧血かどうか、胆石があるかどうかなんて、この際関係がない。

‥でもさっきお医者さまの前では、なぜかそういうことを全然思いつかなかったのです。 お医者さまの言うとおりにする以外の選択肢がまるで見えなかった。 もともと医者と弁護士には逆らいにくいものだけれど、 名前を連呼されてるうちにますます判断力を失っていったような気がする。 ちょうど名前を言い当てられると力を失う昔話のオニみたいに。

‥あーあ。
こうなったら、ピロリ菌が検出されることを願うのみ。
ついでに、"潰瘍"の診断が下り、保険が効きますように。

――さあ、この先はたしてどうなることやら。
5月2日の日記に、乞うご期待!

つづく