2003年6月17日 バレエ社会(前編)

我が家では、うさぎ以外、3人がバレエを習っています。 娘二人はともかく、きりんのような成人男性がバレエを習うというのは珍しいですね。 「実は夫もバレエを‥」と言うと、「プロのダンサーなんですか?」とよく尋ねられます。 いえいえ、とんでもない! 40の手習いで始めた、ど素人です。

ところで先日、 あるバレエ団の公演ビデオをそのバレエ団から直接購入しました。
この秋に行われる勉強会(発表会の縮小版)で変わった演目をやることになり、 踊りの参考にするために同じ演目のビデオを探したのですが、なかなか見つからず、 ようやくネットで探し当てたのです。

メールでビデオ購入の意志を伝えると、 「本日発送いたしました」という返信がすぐに返ってきました。 サイトの説明には「代金の振り込みを確認後、お送りします」とあったので、 ちょっとビックリ。 素性も分からない人に、よく商品を先に渡せるなあ、と感心しました。

それにもう一つびっくりしたのが、
「未熟な舞台ではございますが、ご笑覧ください」の一言。
これには本当に驚きました。 仮にもバレエ団を名乗る団体が、「ご笑覧ください」とは。 よほど謙虚なのか、よほど舞台が稚拙なのか。
「ひょっとしてとんでもなくトーシローな公演のビデオを買ってしまったのでは‥?」と 不安になりました。 もしや、公演とは名ばかりの、発表会ビデオだったりして‥。

ともかくもお礼の返信を出しました。
「このたび発表会でやることになり、探していたので助かりました」と一言添えて。
すると、また先方から返信が届き、
「もしよかったら、当方が参考にした海外バレエ団の公演ビデオもお送りしますよ」 といった旨が書かれていました。

ハウ カインド オブ ユ〜!

な〜んて親切なんでしょ! な〜んてフレンドリーなんでしょう!
またまたビックリ仰天しました。

さて、送られてきた公演のビデオを早速見てみると‥。
"公演"の名に恥じない、どうしてどうして立派な舞台でした。
どうしてこれを"未熟な舞台"だの"ご笑覧ください"などと言うかなあ‥。

あれこれ不思議がっているうちに ふと思い出したのが、当方の名を夫婦連名で出したこと。
「もしやそのせいで、こっちもバレエ教室を主宰している夫婦と思われたのかも??」 と気付きました。

考えてみれば、 "マイナーなバレエ団からマイナーな演目のビデオをわざわざ取り寄せる買う夫婦者" なんていうのは、10中8、9、いや、100中98、9が バレエ教室を主宰している夫婦に違いありません。 だから、先方がそう思ったとしても当然です。

また先方が こちらをバレエ教室主宰者だと勘違いしているのだとすると、 すべての辻褄が合います。
バレエ関係者となれば、或いはかなり実力のある団体の主宰者かもしれず、 「未熟な舞台ではございますが、ご笑覧ください」と謙遜したくなる気持ちも分かる。
商品が先渡しなのも、手持ちのビデオまでお送りくださるというご配慮も、 バレエ団体の主宰者同士ということで、親近感を感じ、気を許したと思えば頷けます。 バレエの世界は狭いですから。

そう、バレエの世界は本当に狭いのです。 この狭さが、実に心地よかったりする。
狭いといっても、簡単に見渡せるほど狭くはなく、 さりとて果てが見えないほど広くもない。実に心地よい狭さです。

うさぎは、 次のメールで先方の勘違いを正そうかと思いましたが、結局そのままにしておきました。 先方のこの勘違いがなんともくすぐったく、嬉しかったからです。 自分も憧れのバレエ社会の一員になったような気がして。

きりんは更にうわてでした。 きりんが出した返信をあとで見たら、
「コンクール等ありまして返信が遅くなりました」などと、 むしろ勘違いを助長するようなことを書いていました^^;。
憧れのバレエ社会の一員を気取ったところで、バチまでは当たるまい―― きりんはそう思ったに違いありません。