2003年6月23日 駐輪場の経済学

先日、我が家の住むマンションの管理組合から、今年の駐輪場使用料の請求がありました。 当マンションでは、駐輪場の使用は一年ごとの更新です。使用料を支払った自転車には、 そのしるしとして、マンション名と項番の入ったステッカーを貼る仕組みとなっています。

さてこの駐輪場使用料、昨年までは自転車一台につき500円、 バイク一台につき1000円でしたが、今年から値上がりしました。 今年は自転車一台につき1200円(子ども用は600円)、 バイク一台につき2400円になったのですと。

物価の値上がりというのはたいていの場合、腹立たしいものですが、 ことこうしたマンションの設備使用代に関しては、ちょっと違った気分です。 意味なく高いのは問題だけれど、安ければ安いほどいいかというと、そうでもない。 安すぎるのも問題なんですね。 そもそも数年前、それまで無料だった駐輪場代を徴収するという話が持ち上がったとき、 当初200〜300円くらいと考えていた理事会に対し、 「最低500円はとるべき」と主張したのはうさぎです。

なぜかというと。
駐輪場代の徴収理由は、表向きは「増設した駐輪場の建設費を捻出するため」でしたが、 実際はそれ以上に、 「これ以上自転車を増やさないために、不要な自転車の処分を促すため」 だったからです。 維持費をかければ、処分しようという気にもなるだろうと考えたのです。
うさぎが主張した「最低500円」という根拠も、 自転車の処分費用が500円だったことにありました。 維持費が処分費よりも安いのでは、あまり効果があるとは思えませんでしたのでね。

当時駐輪場には何ヶ月も何年も全く乗った形跡のない、埃だらけの自転車がかなりあり、 それどころか、パンクしたまま、或いはブレーキが壊れたまま放置してあるものすら 散見されました。
まったくどうして使わないものをいつまでも処分しないでとっておくのでしょう。 こうした自転車がただでさえ狭い貴重な共用スペースにのさばっているのはいい迷惑で、 美観も損なわれます。
毎年維持費がかかれば、さすがにこうした自転車は処分されるのではないかと踏んで、 駐輪場代請求はスタートしました。 ステッカーを貼っていない自転車は駐輪場から出され、 処分もしくは駐輪場支払いの選択を迫るため、目のつくところに並べられました。

ところが。 年額500円の維持費の請求は、まったく功を奏しませんでした。
今にもバラバラになりそうな自転車にまで 新しいステッカーが貼り付けられているのをみて、 うさぎは苦笑したものです。 せめてステッカーを貼りにきた際に、埃を払うくらいのことをすればいいのに それすらしない。 埃をかぶったままの自転車に、500円出して買ったステッカーを貼り付けるって、 うさぎには理解できません。 処分費の500円がかかるのは一回、それに引き換え維持費500円は毎年毎年かかるのにねえ‥。

それでも2年目にもなれば効果が現れるかと思いきや、自転車の数は増える一方でした。
「これは維持費云々の問題ではないのではないか。 皆が惜しんでいるのは処分費ではなく、処分する"手間"の方ではないか」と理事会は考え、 自転車処分キャンペーンを張りました。 一定期間内に、処分したい自転車を指定の箇所に置いておけば、 処分費用も手間も一切かからずに処分できるというものです。 たまたま建物の修繕の際、廃材がトラック一台分出たため、 ついでに自転車も持っていってもらっちゃおう、という策でした。

ところがそれでも、さして自転車は減りませんでした。 このキャンペーンに乗り遅れた人のために、管理人室には粗大ゴミシールを常備し、 リクエストがあれば処分手続きを管理人さんが代行するというところまで気を遣いましたが、 それでもダメ。こうなると、もう手のつくしようがありません。
「他人から見たら使用不可能に見える自転車でも、 持ち主にとってはきっと処分するにしのびない大事な思い出の詰まった自転車なのだろう」 と思って納得するよりほかはありませんでした。

もはや駐輪場は100%を超える飽和状態。どうきれいに並べてみたところで 駐輪スペースに全ての自転車を収めることは不可能となりました。 著しく埃をかぶったものや壊れているものは、どうせ滅多に乗らないだろうからと、 タテに並べたほかの自転車の奥に、横置きにしました。 それでも持ち主から苦情が出なかったところを見ると、 やはり全く使用していないのでしょう。 ここまでしても全ては並べきれず、5台、10台は常に 庇のない駐輪場の脇にはみ出している状態となりました。

しかも、庇の外にあぶれるのは、えてして働き者の自転車たち。 駐輪場に入れっ放しになっている自転車は常にその場所をキープできるけれど、 出し入れの激しい自転車は 帰ってきたとき、元の場所が空いているという保障はどこにもなく、 運が悪ければ庇の外にはみ出すわけです。

◆◆◆

駐輪場使用料が年額1200円になった先月、 それを支払いに管理人室に赴くと、使用料納付の締め切り間際だったにもかかわらず、 項番が若いのにびっくりしました。
「21番? 今年はまだそれしか登録されていないの?」 と思わず管理人さんに尋ねました。
「そうなの。みなさんお忙しいのかしらねえ」と管理人さん。

でも、どうやら理由は他にあったみたい。
ある日自転車で帰ってきてみたら、 難なく駐輪場に自転車が置けるのに気付いてビックリしました。
ちょうどその日は天気の良い日曜日でしたから、 「きっとみんな自転車で遠出にでも出かけているのね」と納得しました。

けれど、翌日の月曜日、夜遅く自転車で戻ってみると、やっぱり駐輪場はガラガラ! どんなにきれいに並べてあっても、空いているところを探すのが一苦労、 庇のあるところに押し込められればラッキー、みたいな感じだったのが、 その日はただ空いているところを探して入れるだけ。 居並ぶ自転車の台数は、駐輪場許容量の90%くらいでしょうか。

一体何が起こったの?!と思い、ゴミ捨てに出るたびに駐輪場の様子を観察することに しましたが、 一月経った今でもその状態はかわらず。 ここでやっと、「どうやらこれは一時的な現象ではなく、 駐輪場の値上げによる、時流の変化らしい」と思えてきました。

それにしても、あれだけ手をつくしても減らなかった自転車が、 駐輪場の使用料を年額500円から1200円にアップしただけで、 こんなにも劇的に減るなんて!!
一体これはどうしたことでしょうね。
「500円ははした金、でも1000円を越えるとちょっと考えちゃう」 ってところなのでしょうか。 使用料支払いの出足が遅かったのも、皆が「考えちゃった」からなのかもしれません。

なんだかんだ言っても、結局カギは経済にあったんですね。
それも大金ではなく、たかだか1000円を巡る攻防に。