2003年6月27日 それぞれの体育大会

昨日はネネの通う白鳥学園中学校(仮称)の体育大会でした。
白鳥学園広報委員会写真班の一員であるうさぎは、 一日中グラウンドを走り回って生徒たちの写真を撮りました。 本当は中学校の体育大会なんて興味なかったのですけれどね。 さらに言うと、広報委員になりたかったわけでもなく‥。

でもまあしょうがない、今日はお仕事だったので、学校へ行ってまいりました。
で、結果から言うと、けっこう楽しい一日になりました。
まず最初に好感したのは、校長の挨拶。

「体育大会のスローガンはそこに書いてあります。
このスローガンにのっとって、みなさん、頑張りましょう!」マル!

これでおしまい。とっても短い。
ああ、なんていい校長先生なのかしらね!
校長の挨拶なんて誰も聞いちゃいないんだから、短いに越したことはないわよね。

カメラを構えつつ、開会式の様子をベランダから見下ろしていると、 隣りにいた仲間の委員さんが教えてくれました。
「見てて。そのうちきっと"ドラえもん"が現れるから」
「?」首をかしげるうさぎ。「現れる‥って、着ぐるみか何か?」
「ううん、ドラえもんのメイクをした子が、毎年必ずいるの。 ここ10年の恒例みたいよ」
「へえー」"どらえもんメイク"を頭に描きつつ、うさぎは言いました。 「そんなメイクを許すなんて、けっこうやるじゃないの、この学校も」
「あら。許されてはいないのよ。メイク、アクセサリー、指定の体操着以外着用禁止。 服装規定を守らない子は、競技に参加しても失格になるの。 100メートル走で一等を取っても、クラスの点数にならない。 でもそれでも、ドラえもんは走るのよ」
ふーん、そうなんだ。これは面白そう! うさぎはなんだか楽しみになってきました。

さて、最初の競技は50メートルハードル走でした。 うさぎはゴールテープ付近に陣取って、写真をパシャパシャ撮りました。 ドラえもんはいるかしら、と探したのだけれど、残念、今はいないみたい。
でもこれ、けっこういいお仕事だわ。 だって、普通の父兄は入れないところでもどこでも、 好きな場所に陣取って写真を取れるんですもん。 あとでネネの写真も至近距離の特等席で撮っちゃおうっと♪

カメラのファインダーから覗いて見ると、いろんな子がいました。 同じハードルを飛ぶのでも、人それぞれなのね。 真剣な表情で必死になっている子、 ニコニコ笑いながら楽しそうに飛ぶ子、 むっつりつまらなそうに飛ぶ子‥。 中には、一緒に手をつないで嬉しそうに飛んでいる 女の子同士の仲良しさんの姿もありました。
競技をする子が様々なら、整列係の表情も様々。 一人、すごく生き生きと整列係をやっている女の子がいたので、 競技者をさしおいて、その子の姿ばかり追ってしまいました。

"ドラえもん"が現れたのは、3年男子の100メートル走のときのことでした。 顔に黄色のペインティングを施した男の子がゴールテープをきったの。 でもやっぱり得点にはならず。
「さあお前は行った行った!」と、1位の旗の前から追い払われてしまいました。

‥それにしても。 うーむ、あれをどうして"ドラえもん"と呼ぶかなあ??
どっちかって言うと、本人はキャッツメイクのつもりだと思うんですけど‥。

黄色い顔をした"ドラえもん"の姿を目で追っていくと、他の"ドラえもん"も集っていました。 赤い髪に黒い顔をしたドラえもん、金髪にオレンジ色の顔したドラえもん、 顔を白と黄色に塗り分け、髪を青く染めたドラえもん。 あとで聞いた話なんだけど、このペインティング、なんとポスターカラーなんですって。
服装はもちろん体操着なんかじゃなく、わざと規定から外れた格好。 赤い髪に黒い顔をしたリーダー格のドラえもんは、ラッパ型の黒いズボンをずり下げて履き、 白いシャツの前をはだけ、鮮やかな赤のTシャツを見せていました。 なかなかのこだわりファッションです。
よく見ると、みんな腕にもなにやら文字が書いてある。
「爆走天使」‥暴走族を気取っているのかしらね。
「打倒! アンパンマン」‥アラ、やっぱり本人もドラえもんのつもりなのかしら?? どうでもいいけど、打倒の「打」の字が間違ってる。

ドラえもんたちの健闘ぶりには目を見張るものがありました。
自分たちが走り終わった100メートル走では、スタート地点に戻り、そこで声援を送る。 本当は、生徒は自分の席におとなしく座って応援しなくてはならないのだけれど、 リーダードラえもんだけはピストル係の教師の隣りに立って応援していました。 ピストル係が話せる先生でよかったわね。

学校の外を走る駅伝では、正門を出て行った選手たちとしばらく伴走し、 途中でショートカットしたものの、裏門でまた選手を待ち構え、また伴走。 そして、次の選手に付き添ってまた走り、また裏門で待ち構える。 3分間跳び続けた者の数で得点を競う縄跳び競争でも、 並んだ選手の端っこに特別出演して、一緒に跳んでいました。

写真班のうさぎは、彼らの写真を撮らせてもらいました。 撮ってもたぶん広報誌には載らないけれど。 PTAのお偉いさんたちに却下されるに決まってる。 だって彼らはアングラ。建前上は、いてはならない存在だから。

個人競技では自分たちのスタイルを通したドラえもんたちも、 クラスの団体競技を失格にするわけにはいかなかったと見えて、 メーキャップを落とし、体操着に着替えて、参加していました。
ドラえもんリーダーだけは別でしたけれど。 リーダーは、団体競技に参加せずに見送りました。
化粧を落とした他のドラえもんたちは、それでも普通の体操着は嫌だったらしく、 学校指定のジャージのズボンを、体操着のハーフパンツと同じ形に加工したものを 最初はいていましたが、担任とさんざ押し問答した挙句、 結局折れて、普通のハーフパンツに履き替えました。 さすがにクラス対抗の団体競技にはどうしても出たかったのね。

保護者は「オフクロは見に来るな!」と息子や娘からクギをさされるにも係わらず、 かなりの数が見にきていました。 で、100メートル走やリレーなど、走る競技では声援や拍手を送るの。
めっぽう足の速い子が走り抜けると、保護者は拍手も忘れて夢中になり、 「おお」とも「ほう」ともつかない感嘆の声でわざめきます。
普通の足の速さの子たちが団体で走りぬけると、普通に拍手をします。
足の遅い子には、なぜか拍手もゆっくり。 拍手というよりはほとんど手拍子の世界です。
「はい、頑張ってるのね、お母さんたちには分かりますよ。偉い、偉い」みたいな手拍子。
この手拍子ってどうなのかなあ、とうさぎは思いましたね。 足の遅い子にとって、お母さん方の温か〜い手拍子って、少しでも励みになるんだろうか。 むしろ、重荷になるんじゃないかな、ってちょっと思った。 いっそ見て見ぬフリをしててくれた方がありがたいんじゃないかなあ、って。

さて、ネネたち2年生の団体競技は、例年恒例の「タイヤ綱取り」。 大きな円陣の真ん中にタイヤと綱を積み上げ、それを5つの各クラスが取り合う争奪戦です。 これは面白かったですね。一本の綱を何十人で取り合っているかと思えば、 誰もマークしていないタイヤをちゃっかり一人で二つも小脇に抱え、 自分のクラスの陣地まで運んでいる子もいる。 実はその子、うさぎは知ってるの。 走るのが苦手なものだから、昨日まで体育大会に出るのが嫌で嫌で、 どうやってズル休みをしようか考えてたんですって。 だけど、その子がどう? この団体競技では殊勲賞モノでしたね。

PTA競技は、母親VS教諭の綱引きでした。 気合いの入っているお母さんたちは、軍手持参。 一人、モデルのようなボティラインで、 安室かアユか、っていうようなオッシャレ〜な人がいたんだけれど、 その彼女も、華奢なミュールを脱ぎ捨てると、はだしになって綱引きに参加しました。 髪は金色、スレスレのミニスカート。かっこいい〜! 思わず見とれてしまいました。
「一体誰のお母さん?! とても中学生の子がいるようには見えないけれど」と思って あとでネネに尋ねたら、
「ああ、あれは誰のお母さんでもないわよ。去年卒業した先輩なの」ですって。
ええっ! てことは16歳?! 母親の世代にも見えないけど、ティーンエイジャーにも見えない‥。
ネネ曰く、 「きっと高校は行ってないのね。だってしょっちゅう学校に遊びにくるもん」ですと。

クラス毎に集計される点数は大差がつきました。ネネのクラスは最下位。 優勝したクラスの半分も点が取れませんでした。
「一体何が悪かったの?」とあとで聞いたら、 「女子リレーで失格になったから」ですと。
「あら、トップでゴールを切ったのに、どうして失格になんか?」と尋ねたら、
「アンカーの子がピアスしてたから。せっかくあたしがトップでバトンを繋いだのに」 とネネ。 さすがに悔しそうです。
「アンカーってたしか、最初走る予定だった子が骨折して出られなくなって、 その補欠だった子が熱を出して出られなくなって、それで3人目に役が回ってきた子?」
「そう。でもその子がピアスしてるのにはわけがあったの。 耳が膿んじゃって取れないんだって。 で、担任の先生にも事前にそれを伝えて了解をとってあったんだよ」
「じゃどうして失格になったの?」
「担任の先生は、了解済みだって言ったらしいんだけど、他のクラスの先生に "そんな理由は認められない"って押し切られちゃったらしい」
‥あららら、さもありなん。 ネネのクラスの担任、いまいち弱気だからなあ‥。
昨年の体育大会でも「タイヤ綱取り」の際、 他のクラスがズルをしたと言い張り、他の担任が取りあわなかったものだから校長に直訴し、 首尾よく自分のクラスを勝利に導いた担任がいたっていう話です。

教訓:白鳥学園の体育大会で勝つには、政治力が必要である。

とまあ、そんなところでしょうか。