2004年1月8日 分かってきた! デジカメ♪ (3) なぜボケ味が出ないのか

(2)「カメラはすべて相似形」のつづき

デジカメはボケを出すのが苦手である

と最初に聞いたのは、初めてのデジカメであるnikon coolpix 2100を買ったときでした。 デジカメ売り場の店員さんがそう教えてくれたのです。

実際に買って使ってみると、確かに。 coolpix 2100で撮った写真はたいてい、見事なまでに隅々にまでフォーカスが合い、 ボケた部分がありませんでした。

これには参りました。わたしは、自分の見たいものだけを見たい性質(たち)なのです。 子供の笑顔を撮りたいときには、子供の笑顔"だけ"を撮りたい。 背景なんて邪魔なだけ。だから適当にボケて、 どんな風景なのかよく分からなくなってくれた方がありがたいのです。

背景がどの程度ボケるかは、「被写界深度」といって、 どれくらいの範囲にピントが合うかどうかで決まります。 一般に、開放(レンズを隅々まで使うこと)にすれば被写界深度は浅くなり、 背景がボケやすくなります。 また、ズームをなるべく望遠にし、被写体に近づいて、 被写体までの距離と背景までの距離の比を高くしてやるのも効果的。

こうした知識は、理論を学んで得たものではなく、 長年の経験からいつの間にか身についたものです。 だから銀塩をデジカメに持ち替えた途端、 背景が全くボケないという事態に遭遇したときには、 自分の常識が覆されていく恐怖を感じ、半ばパニック状態になりました。 そして、デジカメでも、なんとか背景をボカしたいその一心で、 デジカメの仕組みを理解しようと躍起になったのです。

なぜぼけが出ないか。 その答えは焦点距離にありました。 ピントが合う範囲は、焦点距離によって変わってくることが分かったのです。

被写界深度(正確に言うと、被写体の背後ボケを決定する後方被写界深度)は、

後方被写界深度
= 許容錯乱円径×絞り値×被写体距離2/(焦点距離2−許容錯乱円径×絞り値×被写体距離)

という計算式で算出されるのだそうです。( カメラの被写界深度の比較 参照)。

‥って、うーんむ、複雑な式ですねえ。 この式をちゃんと理解できるとはとても思えません。
でも浅い被写界深度を得るためには

  1. 焦点距離が長いこと
  2. 被写体までの距離が短いこと
  3. 絞り値(F値)が小さいこと

が肝要であるというイメージはなんとなく浮かびます。 特に、焦点距離の長さは重要。 なぜかというと、その2乗が係わってくるからです。 もっと言うと、被写体までの距離が短いことは更に重要そうですね。 なんせ分子で2乗される上にもってきて、分母でもマイナスされるのですから。 ちなみに、許容錯乱円径というのは、ピントが合っているように見える範囲のことで、 受光面の対角線の長さに比例します。

昨日書いたとおり、デジカメの受光面は狭く、 画角が同じなら、35ミリフィルムカメラより、焦点距離は短い。 特にわたしのデジカメは受光面であるCCDセンサーがとても小さく、 焦点距離は、35ミリフィルム換算で50ミリ相当の画角を得るのに、なんと6.5ミリで済む。 道理で被写界深度が浅くならなかったわけです。

35ミリフィルムの世界にいた頃、なんとなく 「広角より望遠の方が被写界深度は浅くなる」ような気がしていたのは 間違いではなかったけれど、正確ではなかった。 被写界深度は画角ではなく、実は焦点距離によって決まるものだったのですね。

さあて、受光面の小さなデジカメだとなぜボケ味が出にくいのかは、これで分かりました。 でも、受光面の大きさがどれくらいならどれくらいのボケ味が出るのか、 自分の意図するようなボケ味を出すためにはどんなスペックのデジカメを買ったらいいのか、 それも知りたい気がします。

これも、こうしたニーズにドンピシャリの素晴らしいページがありました。 焦点距離とF値と被写界深度の関係をグラフに示したページを見つけたのです ( 被写界深度の研究? )。 このグラフに、理想的なボケを出す状態(たとえば、手持ちの銀塩一眼レフの数値) をあてはめてみれば、別のスペックで同じボケを出すための条件が見えてきます。 但しこのグラフは、デジカメと35ミリフィルムを比較するために作られたものではなく、 35ミリフィルムと中判フィルムを比較するために作られたものなので、 コンパクトデジカメに使われるような短い焦点距離の部分は カットされてしまっているのですが。

たとえば、現在わたしの銀塩カメラのテレ端(最も望遠にした状態)は、 「焦点距離110mm、開放F値5.6」。 たとえば下の写真なんかは、だいたいそんな感じの条件で撮っています (かなり大雑把に言って)。 子供にピントが合い、背景がいい感じにボケているのがお分かりいただけると思います。

チャアのポートレート

では、現在ちょっと心惹かれているデジカメに これと同じボケ味が出せるかどうかを検証してみましょう。 ズーム全域において開放F値2.8という Panasonic製デジカメFZ2 を、被写体距離と許容錯乱円径の前提条件を同じと考え、表に当てはめてみます。

――残念、テレ端焦点距離55.2mmをもってしても、 上の写真相当の帯に達しないことが分かりました。

では、FZ2の上位機種 FZ10 ならどうでしょう。 こちらも「ズーム全域において開放F値2.8」という驚異的なスペックは同じ。 ただ、CCDの大きさが大きい分、焦点距離も長く、テレ端で72mmあります。

これだとテレ端ならでなんとか同じ色の帯の中におさまりそうです。 ああよかった。 ではワンランク上げて、FZ10をゲットしましょうか。

‥って、ちょっと待った。 「前提条件が同じ」ということを忘れてはいけません。 被写体距離:5メートルという条件を。

実はFZ10のテレ端は、35ミリフィルム換算で420ミリ相当の画角なのです。 つまり、110ミリに比して約4倍のズームだということ。 その画角で同じ距離から撮影するってことは‥。

チャアのドアップ

こんな感じになるわけです。

これって、ボケるもなにも、背景写ってないじゃん!!

では、いま巷で大評判の Canon EOS kiss デジタル はどうでしょうか。 こちらの受光体であるCmosセンサーはかなり大きめだという話ですから、 レンズの明るさによっては、イケるかもしれません。

先ほどの轍を踏まないよう、まず画角を揃えて考えてみましょう。 EOS kiss Dの場合、35ミリフィルム換算で110ミリ相当の画角が得られるのは 焦点距離が約70ミリのとき。 そのとき手持ちの銀塩と同じくらいの被写界深度を得るためには、 くだんの表によればF値が2.8以下。

そういうレンズは、まあ、あることはあります。 単焦点のレンズならけっこうあります。 でもやっぱり何かと便利なズームレンズが欲しい、となると――。

キャノンのレンズカタログで探してみたところ、一番それに近いのは、 EF24-70mm f2.8L あたりでしょうか。 重量はレンズ単体で950g(重っ!)、標準小売り価格22万円(高っ!)。 EOS kiss本体とこれをあわせるとなると、ちょっと考えたくない重さと価格ではあります。

気をとりなおして、ちょっとコーヒーブレイク。 被写界深度の差による仕上がりの違いを見てみましょう。 実は正月に、義理の弟(つまり妹の連れ合い)のデジカメを 試させてもらうチャンスを得ました。 彼の愛用機は Olympus C-5050。 ワイド端(最も広角にした状態)のF値が1.8、テレ端でもF2.6という、 きわめてレンズの明るいハイエンドモデル(高級機)です。 これと、わたしの愛用機 Nikon coolpix 2100 (ヤマダ電機で下から2番目の価格)による同じ被写体の撮り比べをしてみました。

coolpix2100による赤い実 C-5050による赤い実
左:Nikon coolpix 2100 焦点距離4.7mm(35mmフィルム換算36mm) F2.6
右:Olympus C-5050 焦点距離11.9mm(35mmフィルム換算60mm) F2.0

coolpix2100による白い花 C-5050による白い花
左:Nikon coolpix 2100 焦点距離4.7mm(35mmフィルム換算36mm) F2.6
右:Olympus C-5050 焦点距離21.3mm(35mmフィルム換算105mm) F2.6

F値と焦点距離がこれだけ違うと、かなり描写が異なることがお分かりいただけると思います。 右の写真のほうが、被写体が浮き上がってみえるのではないでしょうか。 左の写真は背景がうるさいですね。 正月早々こんな違いを見せつけられたものだから、 わたしは何が何でも、もう一台デジカメが欲しくなってしまいました。

(4)「もっと被写体に近づきたい!〜接写への熱い想い」につづく

1月9日追記:
「最小錯乱円を考え合わせると、 FZ2で215ミリ、FZ10で190ミリ、 EOS kiss DigitalでF2.8〜F4で同等の被写界深度が得られる」というご指摘をいただきました。 許容錯乱円径は、受光面の対角線の長さに比例しますから、 よく考えてみると確かに、CCDの大きさが小さければ小さいほど、その影響はかなり大きい。 許容錯乱円径を一律にして考えた前提条件下で出た先ほどの検証結果は極端すぎたようです (各種カメラ被写界深度比較 参照)。

FZ2で215ミリ、FZ10で190ミリということは、 FZ2でも下の写真程度の画角が得られ、FZ10なら更に広くなりますね。ちょっと安心^^。

チャアのアップ

そもそもあのグラフってよく見たら、後方被写界深度のグラフではなく、 前方被写界深度のグラフだったり‥(汗)。間違えました、スミマセン‥。

EOS kiss Digitalに関しては、もう少し探して、良いレンズをみつけました。 TamronのSP AF28-75mm F/2.8 (希望小売価格:55,000円 重量:510g デジタル対応)などはいかがでしょう? 許容錯乱円径を考え合わせて条件がゆるくなったところでは、 Sigmaの28-70mm F2.8-4 HIGH SPEED ZOOM (希望小売価格:35,000円 重量:245g) でもギリギリなんとかいけるかも(但し、デジカメとの相性は未確認)。 純正にこだわらなければ、こうした選択肢もアリかもしれませんね。