2004年8月26日 最初から原稿用紙に向っちゃダメ!

昨日、人様のサイトで誤字脱字のあるコメントを投稿してしまい、ちょっと落ち込んでいるところです。 直そうと思った途端、誤ってエンターキーか何かを押しちゃったんですよね。 minatsuさん、ゴメンナサイ‥。

多少の誤字脱字があっても、意味はだいたい通じるとは思うんですけれどね、 書きなぐったような、乱暴な印象を相手に与えてしまうのが怖い。 意味は通じても、気持ちが伝わらないような気がして‥。

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文章を書いているとき、よく思い出す人がいます。 高校時代の親友です。

彼女とわたしは大の仲良し。 いつも手をつないで一緒にトイレに行くくらいの仲良しでした。 登校から下校まで、いつも一緒。 周りから「あの二人、なんか怪しくない?」とウワサされたものです。 当時のわたしは数学が得意で国語が苦手、彼女は国語が得意で数学が苦手。 勉強を互いに教えあう、良きコンビでありました。

国語に関して言うと、わたしの苦手さ加減もちょっとしたものでしたが、 彼女の得意さたるや、並や一通りではありませんでした。 当時、Z会添削の国語といえば難しいので有名で、 一週間机にかじりついても30点取るのがやっと。 彼女にそう言ったら笑うから、 「だったらやってごらんなさいよ。ホントに難しいんだから!」と言い放ったら、本当に始めた彼女、 初回から悠々ランキング入りしてましたっけ。

彼女と「古文の交換日記」を始めたときなんて、 まるで平安時代から生きてるヴァンパイアなんじゃないかと思わせるほどに、 つらつらと古文を書き連ねてきたものです。 だいたい彼女はネイティブスピーカーのごとく、いくらでも古語でしゃべリ続けられる人だった。 こっちは古文といえば「むかし男ありけり」止まりだったから、当然の結果として2日で挫折。 今でも会うたびに言われます。
「うさぎちゃんたら、自分から"古文で交換日記をしよう"って言い出したのに、 2日で挫折したのよね」って。
‥ハハハハ、それは苦手の古文を克服しようと思ってだな、えーと‥。

とにかく国語に関する武勇伝には事欠かない彼女、 お習字なんてお稽古ごとでやってたわけでもないのに書道展で入賞するし、 作文に到っては、小論文模試で模範解答になったことがあるくらいのツワモノでした。 わたしも中学生の頃は作文が得意なつもりでいましたが、高校に入って受けた模試ではサッパリ。 入試で小論文を課す大学もあるので、ある日彼女に尋ねたものです。
「ねえ、どうしたらそんなに上手に文章が書けるの?」と。

そしたら彼女はこう聞き返してきました。
「もしかしてうさぎちゃん、一度書いた文章、ちゃんと推敲してる?」って。
「えっ? 推敲って、するものなの?」とわたし。
「そりゃあ、しなくちゃダメよ。中学の時、推敲は大切だって習ったでしょ」
「まあ習ったけど、でも学校で習ったことをマジで実行してる人がいるとは思わなかったわ」
「やだ、それじゃあいい作文が書けるわけがないでしょ。推敲は必要よ。絶対必要なんだから」
「でも、書いたり消したり面倒だし、紙が汚れるし」
「だからー、最初から原稿用紙に向っちゃダメなの。 まずは別の紙に下書きを書いて、何度も推敲して、最後に原稿用紙に書き写すんじゃなくっちゃ」
「ふーん、そうかー、そういうものかあ‥」

それでわたしが、翌日から心を入れ替えたかというと。

――もちろん、入れ替えましたとも!
すぐさま、入試に小論文を課す大学を、志望から外しました。

絶対、推敲なんかできないと思ったのです。 文字で原稿用紙を一度埋めるだけだって面倒くさいのに、 なんで何度も何度も書き直さなくちゃならないわけ? 冗談じゃないわ。そんなことをするくらいなら作文なんか苦手で結構! ‥そう思ったのです。

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その後、違う大学に進学した彼女と会うことはほんのたまにしかなくなりました。

でも折に触れ、何かちょっとした文章を書くたび彼女のことを思い出す。 友達への手紙、自己紹介文など。 筆をとる小さな機会あるごとに、 「推敲は絶対必要」、「最初から原稿用紙に向っちゃダメ」というその言葉を思い出しました。

ともかくも、最初から清書用紙に向うことだけは避けよう、と思い始めました。 いきなり突撃をかけてはいけない。
‥そう思いつつ、大学の卒論はぶっつけ本番で指定の原稿用紙に万年筆で書き出し、 紙を何十枚と無駄にした挙句、修正液だらけのみっともない原稿を提出したのですけれどね。

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いまや時代は変わり、紙や筆記用具を使わなくとも文章が書けるようになりました。 キーボードを打つことは、紙に文字を書き連ねるよりはるかにラク。 マウスの操作一つで削除も挿入も自由自在。推敲・校正も思いのままです。 この文明の利器を手にしてから、わたしも推敲が苦にならなくなりました。

でもね、そんな今でも彼女の言葉を思い出す。
「最初から原稿用紙に向っちゃダメ」という。

だから、掲示板に書き込むときでも、ちょっと長くなるときはまずメモ帳を開きます。 そして、そこで充分推敲してから、掲示板の入力フォームにコピペする。 検索エンジンへの登録依頼や、誰かへの頼みごとならなおのこと、 メモ帳で何度も何度も推敲を重ねたのちに、入力フォームに書き込みます。 昨日の失敗は、それを怠ったせいです。

文字の丁寧さで誠意を伝えられる手紙と違い、ネット上でのやりとりで気持ちを示せるのは言葉だけ。 だからその言葉をできるだけ丁寧に書きたい。 何をするにも雑でやぶれかぶれだった自分と違い、 いつも、何をするにも誠実で丁寧だった彼女の姿を思い出すたび、そう思います。