【 ハナコさん再び 】
日本に帰る日の朝。
チェックアウトをすませると、間もなくＪＴＢの大型バスがやって来た。
「おはよーございます」
どっかで聞いた声？ ‥と、
うわっ出た。ハナコさんだ。
あちこちのホテルに寄ってはお客を乗せ、満員のバスは一路空港へ。
空港へ行く短い道すがら、ハナコさんがマイクで喋る。
「ケアンズはね、去年も人気が世界一でした。それで、本社から表彰されました。
あたしたち、みーんなメダルを頂いたんですよぉ」
「ケアンズでは1000万円で敷地 300坪から 400坪の３ＬＤＫが買えるんですよ。
この間、あたしのお友だちも買ったの。
お庭にプールを作るって言ってましたよ。
皆さんも、老後はオーストラリアで過ごしたらいかがかしらぁ？
冬はこっちで過ごすの。暖かくって、いいわよねぇ‥」
空港に着くと、ＪＡＬで帰る人とカンタスで帰る人とに分かれてチェック・イン。
ＪＡＬのカウンターは日本人で長蛇の列、でもカンタスはスカスカ。
これも行き同様のＪＡＬ／カンタス共同運行便、
結局みな同じ飛行機で成田まで帰るのだけれど。
男性係員に連れられたＪＴＢの団体客がもう一群いて、ロビーは見事に日本人ばかり。 これが、ハナコさんの言う「人気が世界一」状態なのね。
チェックインカウンターの前に行くと、ハナコさんがつつっとやってきて、
世話をやいてくれた。
「席は真ん中の連続した４座席でいいわねぇ？」と言うので、うさぎは慌てて言った。
「ノー、ウィンドーシート（窓際の席）プリーズ！ １・３でも２・２でもいいですから。
ね、パパ、その方がいいわよねえ。グレートバリアリーフが見えるから」
「ＯＫ」カウンターの金髪女性は言った。「ではアップステアーズはいかが？」
「アップステアーズ？」うさぎは聞き返した。二階？ 二階って何のこと？
「あら、二階席？ いいじゃなぁい？ もしかしてビジネスクラース？」とハナコさん。
「ノー。エコノミー」とカウンターの女性。
だが、うさぎは急いで言った。
「ＯＫ、アップステアーズ、ＯＫ！」二階席なんて初めて！
飛行機に二階席なんて、そんなのあるんだー。初めて知った。
今日のハナコさんは黒っぽいスーツ姿で、ビジネスっぽいいでたちだ。
彼女はツアー客に大人気で、若い旅行客が10数名ほど、
出国手続きの前で名残惜しそうにハナコさんを囲み、いつまでも盛り上がっていた。
なんかこうしてみると、けっこういい人だったかも‥。
ちょっとばかりエキセントリックなのは否めないけれど。
ケアンズにハナコさん在り。
だれしもハナコさんのことを決して忘れまい。
胸にケアンズの思い出ある限り‥。
もしもケアンズで、
目の下にまでアイシャドウを塗ったエキセントリックな係員に出会ったら。
それはハナコさんその人かも知れない‥。