今までツアー以外で海外にでかけたことはなかった。
	ツアーは安くて手間がない。
	条件の合うツアーが見つからなくて個人旅行を考えたこともあったけれど、
	経費を計算してみるとツアーより割高になり、
	結局少し妥協してツアーに落ち着くこととなった。
	
	今回は、はじめての個人手配旅行。
	――どうしてツアーじゃないのかって?
	それはずばり、行き先が、ツアーのほとんど出ていない国だったから。
	
行き先は「ブルネイダルサラーム王国」。 一般的にはあまり馴染みのない名前だと思う。 一年にこの国を訪れる日本人旅行者はたったの1000人ほど。 1日につきたったの3人。 飛行機で2時間しか離れていないシンガポールにはつい数年前まで 年間100万人の日本人が訪れていたというのに、その1000分の1である。
	だけれどあんがい、ブルネイと日本の関係は深い。
	ブルネイは産油国であり、その産出量のおよそ3分の1を日本に輸出しているという。
	更に天然ガスまで採れ、こちらはほぼ100%が日本向け。
	日本の側から見ても、石油の方は全体量が多いだけに割合は微々たるものだけれど、
	天然ガスの方は13%をブルネイ産に依存している。
	ブルネイにとって日本はかけがえのないお客様、
	そして日本にとっても、ブルネイはなくてはならない資源供給国なのだ。
	
ブルネイは千葉県程度の広さ、人口30万人程度の小国で、 1984年にイギリスから独立したばかりの新しい国である。 石油が豊富に出ることもあってか、イギリスが最後の最後まで手放さなかった。 北海油田が発見されなかったら、ここはまだイギリス領のままだったかもしれない。
	政治形態は「立憲君主制」。
	といっても、イギリスのような議会民主制を思い浮かべてはいけない。
	議会は一度も開かれたことがなく、首相および、大蔵大臣、外務大臣、国防大臣といった要職は
	王族もしくは王様ご自身。
	政治のみならず、石油がもたらす巨額の富も、すべて王様が一人で握っている。
	おかげで王様は、数年前まで世界一の大金持ち、
	ビルゲイツにその座を明け渡した今でも、世界有数の大金持ちであるという。
	
	そんなブルネイ王国へ行くことを、どうして急に思い立ったかというと。
	回教国には断食月というのがある。
	イスラムの戒律で、
	その一月間は、日の出から日没まで、一切食べ物を口にしてはならないのだそう。
	で、ラマダン月とも呼ばれるその月が終わると、"ハリラヤ"という祭りの時期に入る。
	辛い勤行のあとだけに、人々は解放感に満ち溢れ、祭りは非常に盛り上がるのだそうだ。
	
具体的には、その時期になると、多くの家が"オープンハウス"といって、 親類縁者はもちろんのこと、見知らぬお客をも招き入れ、ごちそうを振舞うらしい。 国によってその習慣には多少のバリエーションがあるようだけれど、 ブルネイではなんと、王宮さえもがオープンハウスとなり、料理とおみやげまで用意して、 不特定多数のお客を待ち受けるという。
	なんて素敵! なんて不思議!
	ぜひその時期にブルネイへ行って、いろんな人に会ってみたい!
	アラビアンナイトのようなこの国で、人々がどんなふうに暮らしているのか見てみたい!
	
うさぎがそう思ったのも、無理ないこととご理解いただけると思う。