Brunei  ブルネイ・ダルサラーム

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【 二つのモスク2 】

オールドモスク

写真を撮って車に戻ると、 運転手のカエリさんが「モスクの中も見ていくか」というので、 そうすることにした。

入り口で靴を脱ぎ、分厚いノートに記帳してそろりそろりと礼拝堂の中に足を踏み入れる。 カエリさんと、モスクの係員が一言二言言葉を交わした後、 うさぎたちには、案内役だかお目付け役が付き添うことになった。

長方形の礼拝堂の中には、真ん中の通路を除いて左右にびっしりと、 玄関マットくらいの大きさのマットが敷き詰められていた。 マットはいずれも同じ柄。 光沢のある白い地に黒でモスクの絵が織り込まれており、 絵柄の方向をそろえて行儀よく並んでいる。

数人の信者が、一人一人そのマットの上にヒザから下をぺったりつけ、 上体をひれ伏すような格好で祈りをささげていた。 なるほど、マットの大きさは、人一人が座ってひれ伏すのにちょうどいい大きさである。 ちょっと閃くものがあって「キブラ(メッカのある方角)はどっち?」と尋ねると、 案の定、カエリさんは建物の奥、つまりマットのモスクの絵の向いている方を指差した。

と、突然、お目付け役の男性が険しい顔で何かを言った。
カエリさんが慌ててチャアの手を引っ張った。 どうやらチャアはお祈り用のマットを踏んでしまったらしい。 うさぎはヒヤッとして、思わず顔が赤らんだ。 お祈り用のマットを異教徒が足で踏んでいいわけがない。 こういうことがあるからこそ、お目付け役がついてきたというわけだ。

◆◆◆

オールドモスクの礼拝堂を辞して時計を見ると、おりしも2時前。 カエリさんに頼んで車でニューモスクまで引き返してもらった。 2時から3時の間は、ニューモスクも異教徒の見学者を受け入れてくれると 古屋さんから聞いていたからだ。

ニューモスクはオールドモスクよりもはるかに広かった。 入り口を入るとすぐに本堂になっているオールドモスクとは違い、 入り口から礼拝堂までも、ちょっとあるのだ。

靴を脱いで幅の広い階段を数段上ると、階段の踊り場に受付があった。 いかめしい顔つきのモスクの係員が二人机の前に座って並び、 ネネとうさぎに、黒いローブをまとうように言った。 このモスクでは、成人女性はみなイスラムの戒律に従い、黒を纏わなくてはならないのだ。 「女性」とはみなされなかったチャアは、この黒いローブが羨ましそう。

薄暗い踊り場のらせん状の立派な階段を上り、弓なりの廊下を少しばかり歩くと、 3、4メートルはあろうかという立派な扉があった。 扉を開けて中に入ると、そこは丸い形の礼拝堂で、エアコンが効いて、 ひんやりと涼しかった。
ここも床にはやはりお祈り用のマットが方向をそろえて敷き詰めてあり、 入り口扉からドームの真ん中までと、壁際だけが通路として空いていた。 壁際はぐるりと棚があり、コーランがしまってある。 コーランをバイブルに置き換え、マットをしまって椅子を置いたら、 まるでキリスト教会だな、とうさぎは思った。 やっぱりイスラム圏は、東洋より西洋に近い文化なのだ。

真ん中が高くなったドームの丸天井は装飾的でとても美しく、 これが写真に撮れないなんて、勿体ないような気がした。 ブルネイのモスクの中はこんなに美しいのだと、異教徒に自慢したくはならないのだろうか?

礼拝堂の中から出ると、廊下はムアッと熱かった。 カエリさんは、車に帰るのかと思いきや、さっき来たのとは違う方へと廊下を歩いていった。 一体どこに行くのだろうと思いながらついて行くと、 先ほどの礼拝堂の扉よりもすこしばかり小ぶりの扉があり、 扉を開けると、さっきの礼拝堂よりも一回り二廻りばかり小ぶりの礼拝堂が現われた。
「ここは女性のための礼拝堂です」とカエリさんは言った。
男女七才にして(かどうかは知らないが)、席を同じうすべからず、というわけだ。

「それでは、礼拝堂が一つしかないオールドモスクでは、女性はどこで祈るの?」と カエリさんに尋ねたら、「あれは男性のためのモスクです」という答えが返ってきた。
「それでは、第二夫人のモスクは?」と問うと、これも「男性用」なのだそう。 モスクというのはもともと男性のための礼拝堂で、 女性は自宅で礼拝するのが普通なのだそうだ。 ということは、もしかして、第二夫人は、ご自分の所有されるモスクで礼拝をすることは できないのだろうか。

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