Essay  うさぎの旅ヒント

【 旅先で"暮らす"方法 】

うさぎは子供の頃からずっと、 どこか日本ではないところで暮らしてみたいと思っていました。
でもきりんの仕事柄、我が家には海外赴任のチャンスはなく、 海外に行くのは短期の旅行のみ。 ちょっと残念です。

でも短い日程でも、ちょっとしたことで、暮らしているような気分になれるんですね。 ここ5年、海外旅行によく行くようになって以来、 海外で"暮らす"コツがだんだん飲み込めてきました。

それは全く難しいことではないんですよ。ホントに簡単。

3日続けて同じことをする

だけです。ね? 簡単でしょ?

例を挙げると、たとえば「毎日同じレストランで、朝食に同じものを食べる」。 それを3日続けるだけで、なんとなくそこで暮らしているような気分になります。

たった3日で? 本当に?

と思われる方、ぜひ試してみてください。 ホントに、たった3日間、同じレストランで同じ朝食を取るだけで、 「非日常」であるはずの旅先が、面白いように「日常」に変わるんだから!

なぜでしょうね。あんがい人間は単純なのかもしれません。 幼い子供が"3"以上の数を"たくさん"としか認識できないのと同じで、 大人も、三日以上は"ずっと"、三回以上は"いつも"にまるめてしまうのでしょうか。
「三日坊主」「三日天下」など、「三日」というのは短い期間の例えに使われますが、 三日という期間は、案外長いんですね。

朝食のほかにも、「毎日同じ池の魚にエサをやる」とか、 あと「毎日同じルートを散歩する」なんていうのも素敵です。 要するに「日課」を作ることが大事なのです。

最初に歩いたときには見ず知らずだった道は、 2度目は「いつかきた道」、3度目は「馴染みの道」になり、 最初は見ず知らずだった人とは、 2度目に「やあ、また会ったね」という視線を交わし、 3度目にはお互い笑いかける。 ――そういう、"知ってる感じ"、"知られている感じ"が、現実感をはぐくみ、 日常感を演出するのでしょう。

フィジーに行ったとき、 バーのマスターは最初、オーダーさえ無視し、受け付けてくれませんでした。 けれど、それでも2日、3日と通ったら、3日目には向こうから話し掛けてきました。

1度目は「一見客がきたな」、
2度目は「なんだこの客、また来たのか」、
3度目は「あ、お馴染みさんがやってきた」

そのマスターは、そう認識したのだと思います。 そして、マスターにそう認識されたことによって、 わたしも自分がその店のお馴染みさんになったような気分になったのでした。

短い日程で滅多に行かれないところへ行くとつい、 あれもやりたい、これも見たい食べたい‥となって、 同じことを繰り返すのは時間の無駄のような気もしますが、 決して無駄ではないのです。 その場所に溶け込むための、大事なステップなのです。

結局のところ、旅の満足度を決定するのは、"経験の数"ではなく、 "経験の濃さ"なのかもしれません。 同じ日課を繰り返した旅は、経験の数こそ少ないけれど、なぜだか後味がよく、 強い印象が残ります。 やけに長くそこに滞在したような、その場所から存在を許されていたような、 いつもと違う景色の中で、違った人生をほんのちょっとばかり経験してきたような、 そんな印象がいつまでも残るのです。

2003年9月13日 うさぎ

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