Fiji  マナ島とフィジアン

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【 ルームメイド 】

花

徒然なるままに、ブレ付近の林を歩いていた時のこと。 ルームメイドがブレからブレへとワゴンを引きながら、渡り歩いているのに出くわした。

鉄製のそのワゴンは、見事なまでにサビサビ。よほど風雨に晒されたと見える。 と、ふと「ここのルームメイドは大変だなあ」と思えてきた。 ここはホテルではないから、部屋同士がくっついていない。 ブレとブレの間隔はかなり離れているし、雨風をしのぐ屋根もない。 ここ数日のように晴れていればいいが、雨の日はリネンを濡らさぬよう、各ブレに運ぶだけでも大変だ。

それに。ブレの中だって、窓をいつも開け放して風を通しているから、砂ぼこりやらなにやらで掃除が大変だろう。 寝室の一面に設えられたジャロジー窓は、完全に密閉することができない。 どうしても隙間が開くから、嵐なんかの後は、部屋の中まで雨や泥で汚れて、大変だろう。

そうか。 最初、なんだかやけに部屋が汚れているような気がしたけれど、開放的な造りの一戸建てだから、しょうがないんだ。 ホテルの部屋と同じようにきれいに保つのには、その何倍もの労力がかかるのだ。 古ぼけたカーテンも、ベッドカバーも、日の光や雨風に晒されたがゆえに違いない。いや、それだけではない。 サビサビのワゴンに載っているあれは、ベッドカバーじゃないか。 なんと、このリゾートでは客室のベッドカバーまで取り替えるのだろうか? それじゃ色が褪めるのも早いわな。 ベッドカバーまで洗うホテルなんて聞いたことがないけれど、ここは部屋の中まで砂が入り込むから、 そうせざるを得ないのかもしれない。

尤も、部屋の清掃が行き届いていないというのは、部屋の造りのせいばかりではない。 やっぱり、ルームメイドがのんびりしているせいでもある。

今まで泊ったリゾートでは、ルームメイドが入った後の部屋はびっくりするくらいきれいに片づいていて、 シーツなんか人間業とは思えないくらいピシッとしているし、 洗面所は誰も使ったことがないみたいに水滴一つ落ちておらず、 使ったタオルやバスマットは新しいものに数を揃えて変わっている。

でもマナのルームメイドは「人間的」。床の清掃はテキトーだし、バスマットの数が減っていたり。 そういう不行き届きには「やれやれ‥」とも思うが、肩がこらなくていいような気もする。 その証拠に、貝の印をドアノブに掛けず、毎日ルームサービスを受けている。 いつもの旅では「部屋に入らないで」の札をドアノブに掛けっぱなしにしているのに。
毎日、部屋に帰ってくると、新しい花が貝の水盤に生けてある。それがとても楽しみで、子供の頃を思い出した。 部屋の中はちらかり放題だったけれど、学校から帰ってくると、 祖母の生けた花が毎日出迎えてくれた子供の頃の家を。

夕方、やはりブレのちかくを歩いていると、歳をとったルームメイドが二人、道の端に腰を下ろして話し込んでいた。 一人は喋りながらも伝票に目を走らせていたが、もう一人は、お喋りをしながら、完全に「休め」の体制に入っていた。

まったく、このリゾートは変わっている。 働いているスタッフと同じくらい、「休んでいる」スタッフを見かけるのだから。 「効率」とか「向上心」などとは無縁の人たち。ゲストの前でも「仕事をしているフリ」すらしない。 でも、そこがいいのかもしれない。

スタッフまでが休み休み仕事をしているから、ゲストのうさぎも心置きなく休める

――というか、自分でも気づかぬうちに休んでしまう――のかもしれない。

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