Guam  丘の上のリゾート・レオパレス

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【 ハイアットのプール 】

ハイアットのプールは素敵だった。
プールエリアに入ってまず目に飛び込んできたのは、大きな噴水。水が空高くしぶきを上げて踊っている。
逆の方を見やると、岩陰や植え込みの合間のあちらこちらから、濃い青色のプールが顔を覗かせている。 どんな形のプールなのか、どのくらいの大きさなのかは、ここからではよく分からない。 でも、緑の茂みとプールの青とが入り混じったこの景色を見ただけで、もううさぎはワクワクが止まらなくなった。 早く探検に行きたい。水を追ってあの茂みの奥へ行ってみたい! 

プールの側に寄って、足の先をちょっと水につけてみると、温かかった。 これはいい。この水温なら、何時間も遊んでいられる。 うさぎは「タモンファンパッケージ」に入会すべく、早速ハイアットの監視員に話しかけた。
「これに入ると、プールにも入れるのよね?」と念を押すと、チャモロ人のお兄さんは「わが意を得たり」とばかり、 指をぱちんと鳴らし、"That's right!" (その通り!)と叫んだ。 それでうさぎたちは手首にショッキングピンクの紙の腕輪を巻き付けてもらい、 晴れて「タモンファンパッケージ」の会員となった。

ビーチタオルと浮き輪を借りると、ネネとチャアは水着の上に着ていた衣類を脱ぎ捨て、早速近くの水に飛び込んだ。 プールに入っているときの子どもたちの笑顔は他のシーンではなかなか見られないものだけれど、 水に飛び込んだ瞬間の笑顔はまた特に貴重である。 きりんがデッキチェアで伸びてしまって使い物にならないので、うさぎは右手にビデオ、 左手にカメラを持ってにらめっこしながら、まずはビデオを撮ることに決めた。
ネネとチャアはプールサイドの近くで大きな浮き輪ごとくるくる回って遊んでいた。 うさぎは構えていたビデオをカメラに持ち替え、存分にこの様子をカメラにも収めた。

仕事を終えてしまうと、うさぎは、子どもたちがこの遊びを切り上げて、 ジャングルのようなこのプールエリア探検に早く乗り出してくれないかなあ、と心待ちにした。 けれど、子どもたちはプールサイドの近くでいつまでもパチャパチャやっているばかりだ。
子どもたちのこういうところが、うさぎは何年親をやっていても、不思議でならない。 子どもというのは未知なるものへの好奇心に満ち溢れているはずだと、うさぎは思う。 けれど、好奇心に満ち溢れているのはいつだってうさぎの方で、当の子どもたちは、 よほど他に面白いことがなくならない限り、未知の領域に手をつけようなどとは思わないらしい。

確かに、子どもたちがプールの面白さに惹かれて勝手に冒険の旅へと出てしまったりしないのはいいことだ。 水は怖いから。でも、子どもたちがそこを離れない限り、うさぎもそこを離れるわけにはいかない。 きりんはすっかり眠っていて、子どもたちの監督を放棄してしまっているから。

しばらくして、うさぎはしびれを切らし、二人を冒険に連れだした。 本当は、子ども自ら冒険に乗り出して欲しいのだけれど。
このプールはやっぱり素敵だった。狭いところあり、広いところあり、トンネルあり、滝壺あり、 ジャングルのように勢いよく生い茂った植え込みの影から、様々な局面が現れては展開してゆく。 次は何が待ち受けるのかと、ワクワクしてしまう。 一度など、うさぎは川のように茂みの中を縫うプールの端に、ウォータースライダーの滑り口があるのを見つけた。 でも、一緒にいたネネとチャアは気付いていないらしい。 うさぎは歯がゆかったけれど、ガマンして二人に教えないでおいた。こういうのは人に教えてもらったのではつまらない。 自分で気付くのが楽しいのだから。うさぎはさりげなくその付近を二度三度往復して、二人が気付くのを待った。

しばらくすると、「あれっ? これってどこに続いているんだろ?!」とネネがついに気付き、 うさぎはやったぁ!と胸の奥で手をたたいた。けれど、ネネは後ろを振り返り、「ママ、滑ってみてもいい?」。
あーもー! そんなこと、いちいち聞くなよなー! 聞こえなかったフリをして、そっぽを向くうさぎ。 ネネはそのうさぎのしぐさをゴーサインだと受け取り、恐る恐る滑っていった。
ネネの後にチャアも続くか、と思いきや、チャアはまだウォータースライダーが怖いらしい。 うさぎはジリジリして、
「どうして滑らないの? すごく短いのに。全然恐くなんかないじゃないの」とけしかけてみるが、怖いものは怖いらしい。 子どもが危険なことをすると怒るクセに、こういう場面では、無鉄砲なまでに好奇心溢れる子どもが見たい、というのが、 うさぎの勝手な願望なのであった。

けれど、子どもたちは子どもたちのペースでこのプールを楽しんでいるようで、 すぐに体が冷えてホットジャグジーに隠居したうさぎを尻目に、いつまでもプールで水と戯れていた。 うさぎは水の中の子どもたちから目を離したくないので、 「あんまりプールに浸かってばかりいると体が冷えるよ」と言ってホットジャグジーに誘うのだが、 ネネたちはプールから出たがらない。
「勝手にその辺で遊んでるから、一人でジャグジーに浸かってれば?」とネネ。 そうしたいけど、まあ、そうもいかんのですよ‥。

ところでホットジャグジーは、ちょっとした社交場だった。 ここの大メジャーは幼児を連れた日本人主婦で、公園のお砂場みたいな小宇宙。 うさぎにも早速、2歳と4歳の女の子を連れた母親が話しかけてきた。
「ご主人は?」と彼女が聞くので「あっちでダウンしてます」と答え、「おたくのご主人は?」と返すと、 「日本で会社に行ってます」ですと。彼女が一人で子供二人を連れて個人旅行で来たのだそうだ。 子連れで海外は初めて、というのでビックリしてしまった。 今このプールできりんがダウンして、一人で子ども二人を見てなくちゃならなくなっただけで、 うさぎはタメイキをついているのに、一人で子ども二人連れてわざわざグアムにやってこようとは。 しかも2歳と4歳‥。たくましー!

また入学前の兄妹をつれた別の母親は、きりんがダウンしてしまった話をすると、自分もおととい下痢と腹痛で倒れた、 と話してくれた。
「なにしろ、ここで突然倒れて、スタッフに部屋に担ぎ込まれてね」と彼女。 その割には元気だな、と思っていると、「でも、一日ですっかりよくなりました」ですと。 すごい回復力! みんな元気ねえ‥。

ある母親は、ハイアットの部屋についてひとしきり文句を言ったあと、
「"オンワード"や"ターザ"に行ったらもっと子どもも喜ぶのかもしれないけれど、お金が掛かるからここでガマンだわ」 と言うので、うさぎは呆れてしまった。

この人ったら、なぁぁぁぁんて勿体ないことを言うのかしら!
こんな素晴らしいプールを目の前にして!

そして口に出してこう言った。
「幼い子供にとって、これ以上に魅力的なプールはないと思うわ」と。
すると「あら、そうかしら。‥そうね、そうよね」と周りを見回して彼女もいった。
「そうよぉ」とうさぎ。本当に、うさぎはそう思う。"幼い子どもにとって"なんて限定しなくたって、 こんな素晴らしいプールがそうそうあるとは思えない。 "ターザ"がどんなに楽しいかは知らないけれど、少なくともうさぎはこのプールを置いて、 別のどこかに行こうなんて気は全然起きない。 ジャグジーに浸かってこのジャングルみたいな周りの景色をのんびり見回しているだけだって、充分楽しいじゃないの。

‥と、ふとうさぎは居心地の悪い気分になった。もう一人の自分が、心の中でこう言ったからだ。

ちょっと、そういうアンタはどうなのよ?
あんなに素敵なレオパレスリゾートを置いて、よそのプールに来てるじゃない!

と。ああ本当に、困ってしまう。レオパレスリゾートほど素敵なリゾートは他にないと思う。 でも、プールに関して言えば、ここほどのものは他にない、とまた思うのだ――。

子どもたちのプールに付き合ってはジャグジーで暖まり、を繰り返していると、噴水の影から突然、 十数名の子どもたちがバラバラッと現れた。 キッズクラブの面々だろうか、と思ってよく見ると、どの子もチャモロ人らしい風貌。現地の子どもたちらしい。
引率している若い女性に尋ねると、彼らは近くの小学校から社会科見学に来たということだった。 小学校一年生くらいの彼らはやんちゃで、こんな高級ホテルにやってきたというのに、てんでに噴水の水に触ったり、 橋から身を乗り出したり。 若い女の先生はそれをたしなめるでもなく、ワイワイガヤガヤ楽しげにプールエリアを1周すると、帰っていった。
日本の小学校で社会科見学といえば、工場見学と相場が決まっていて、高級ホテルなどにはよもや足を踏み入れない。 ホテルの方だって、子どもの見学など願い下げだろう。けれど、ここは観光で食べている島。 おチビさんたちは、将来のグアムを背負ってたつホテルマンの卵だ。 子どもたちにホテルを見学させる教育的意義が充分にあるのだろう。
この素晴らしいリゾートを見学して、将来どんなホテルマンが育つのかと思うと、なんだかワクワクする。 願わくは、レオパレスとハイアットの間のジレンマを、彼らが将来解消してくれますように――。

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