Guam  親孝行の旅

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【 マネキネコタクシー 】

さて、オプショナル・ツアーの予約を入れて、午後からの予定は決まった。
本当はそれまで部屋で休みたいところだが、ここでベッドに横になってしまったら最後、 眠ってしまってツアーに参加しそびれそうなので、マクドへ行くことにした。 諸外国でマクドナルドを見学するのはうさぎの趣味である。

グアムにマクドは数カ所ある。その中でここから一番近いのは、ハーモン店である。 その姿は昨夜、空港からホテルまでの道すがら、すでに目にしている。

そこまでの距離は、ホテルから3キロくらい。
でも、この3キロが「たかが3キロ、されど3キロ」なのだ。 どうやってそこへ行くか、って言うと、タクシー以外に道はないんだな、これが‥。 グアムは車社会で、鉄道はないし、バス網も充実していないのだ。

そんなわけで、うさぎはタクシーを拾うことにした。 マクドへタクシーで乗り付けるとはこれまた超ゴージャスだが、仕方がない。
ホテルのエントランスのドアを開けると、タクシー専従屋(??)が早速近づいてきて、
「どちらまで? デューティー・フリー?」と声を掛けてきた。
「ノーノー、ハーモンのマクドナルドまで」と言うと、彼は「あいや、分かった」とばかり、 近くに止まっているタクシーまでうさぎたちを案内し、「さあどうぞ」とドアを開けた。

昨夜からチップに関してナーバスになっているうさぎは、ここぞとばかりに札入れからさっと一ドル札を取り出し、 彼に渡した。
彼はにーっこりと人なつこい笑顔で笑い、「サンキュ〜♪」と言った。その笑顔を見ただけでも、

チップを渡してよかったな、
一ドル分の価値はあったな、

とうさぎは思った。
だが一方、この「チップを渡す」という行為は、

何だか高慢な感じがして嫌だなあ

とも思った。「チップ」は人を使う側と使われる側とがはっきりしていた頃の名残、 階級社会の産物なのだということを、実感してしまったのだ。

タクシーに乗り込むと、中華系の運転手がこれまた愛想よく迎えてくれた。 赤信号で車が足止めを食うと、早速彼は、自分の名刺を差し出した。見ると、

『マネキネコタクシー』
お帰りの際も呼んで下さい

と書いてある。

「へええ、呼ぶと来るのね。だから招きネコなのねー」とうさぎが言うと、ままりんが笑った。
「あら、でも招きネコって、普通はネコの方が招いて、お客の方が来るのよ。これは逆。 お客が招くとネコが来るんだもの」
‥あらら、確かに。でも、とっても気の利いたネーミングね。

「マクドからの帰りはどうなさるおつもりで?」と運転手が聞くので、
「マクドの店内でハンバーガーを買ってくるから、待っていて。帰りはマイクロネシアモールで下ろしてね」 と頼んだ。

その会話は英語だったが、彼がタクシー仲間と無線で交わした会話は、英語ではなかった。 中国語でもなかったし、しいて言えばスペイン語に近い感じがした。きっとあれがチャモロ語なのだ。

マクドで買い物をしている間、彼は車を店の戸口の真ん前に置いていた。 そしてうさぎたちが店から出てくると、車から下りてドアを開けてくれた。

マクドからマイクロネシアモールまではほんの一キロ。その一キロの間に彼はよく喋った。
マクドは日本でも安いか、あそこに見えるレストランは5ドルで食事ができるぞ、ベトナム料理の店もあるぞ ――等々。

マイクロネシアモールに着いて料金表示を見ると、15.60ドルだった。
「タクシーのチップは料金の15パーセントよ」と勉強家のままりんが耳打ちしてくれたが、 15.60ドルの15パーセント増しって一体‥?? 暗算してみたが、よく分からない。 それに、日本で両替してきたばかりなので1ドル札のほかは20ドル札しかない。そこでうさぎは、
「チップ込みね」と言い、20ドル札を渡した。「ツリは取っておけ」というヤツである。 ヒュ〜、カッコいい〜!!
ちょっと多かったかもしれないけど、いろいろよく喋ってくれて親切だったし、 タクシーのドアを開けてくれただけのオジサンに1ドル渡したんだし――などと自分に言い訳してみるが、 とどのつまりは親のすねっかじりだからできたこと。
ああ、こういうヤツがいるから日本人は相場を知らないなどと思われてしまうのだ‥。

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