Hawaii  オアフ島ワイキキビーチ

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【 孤独なルアウ 】

さて、バスはルアウの開かれる場所に着いた。時刻はもう6時。あたりはもう真っ暗だった。 ママはガッカリした。だって、"ルアウ"っていうのは、まだほの明るい夕方に、海から地引網をみんなで引き上げたり、 土の中でおイモや肉を蒸し焼きにするのを見たりするものだと思っていたから。 "ルアウ"なら何でもそうだと思ってた。でも違うのかも。 そういうことするのは40ドル支払ってオプショナルツアーで参加する"パラダイスコブ・ルアウ"だけだったの?

それでもママは、そういうハワイっぽいイベントを期待して待った。 けれど、ほんの少しばかりのフラダンスの後、砂場に造られた仮設ステージで始まったのは、またさっきのバスの中のような、 「やあみんな、盛り上がってるかい?」の世界だった。やってることはバスの中とおんなじだけれど、ここでは規模が違う。 あちらこちらから10台ほどのバスが連れて来た、さっきの10倍のアメリカ人が、10倍の盛り上がりを見せているのだ。
そして、ここでも我らは唯一の日本人。 その孤独に耐えかねて、会場内を一生懸命見回して日本人はいないかと捜したけれど、日本人はいなかった。 ビュッフェの食事をとりに行った時、一度だけ日本人の家族連れらしき人がいたけれど、 近くで耳を澄ましていたら、英語で喋っていた。

いつまで待ってもハワイらしいイベントが始まらず、がっかりし始めたママの横では、パパが、それ見たことか、 という顔をしていた。 せめて料理ぐらいハワイっぽいのが出てくるかな、と期待したけれど、マッシュしたタロイモがあったくらいで、 ほかにには特に変わったものはなかった。

けれど、まわりの人々はみんなとても楽しそうだった。 特になにかすごく楽しいことがあるわけでもないのに、みんなわれがちに舞台に上がり、歌ったり、踊ったり、 実に楽しそうだった。 ママはどうしてみんなこんなに盛り上がれるのか、全然分からなかった。 これが一人や二人なら、世の中には異常にノリのいい人もいるんだな、と思って納得できるけれど、 何百人もの人が一斉にノリまくっているっていうのは、もう不思議以外の何物でもなかった。 なにしろ、およそ、ママの目の届く範囲でしらけているのは、ママたちと、それからたった一人、 ふてくされた顔でベンチに腰掛けたきりの、10歳くらいの太った女の子だけだったのだから――。

ハワイの文化を見たくてここにやってきたのに、完全にそのアテが外れたママは、もうガッカリして、 内心泣きそうになっていた。でも、そんなママにも救いがやってきた。 ねねちゃんが音楽に合わせて、楽しそうに踊り出したのだ。 ママはそれを見ると、心の中に小さなロウソクの火が灯ったような気がした。 きっとパパもおんなじ気持ちだったに違いない。 遠くのステージで盛り上がっているのとは全然別世界だったけれど、ねねちゃんを中心に、パパとママも静かに盛り上がった。

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