Hawaii  大家族でバケーション

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【 待ちぼうけ 】

空港のレンタカー駐車場にて

検疫犬から逃れ、一行は空港ビルの外に出た。

空港の外に出るのは、ある意味危険な賭けであった。 どんな過酷な条件が待ち受けているか分からないから。 いきなり真夏の炎天下に投げ出されるかもしれないし、座るところなどないかもしれない。 ただ、ホノルルの空港に降り立ったのはこれが二度目で、 少なくとも13年前にきたときにはベンチがあった。庇もあった。 うさぎは自分のその記憶に賭けた。

実際に空港の外に出てみると、13年前の記憶とはだいぶ様子が違っていた。 もしかしたら場所も違ったのかもしれないが、とにかく、ありっ? こんなだったっけ?という感じだった。 けどありがたや、庇もあるし、少し離れたところにベンチもある! まずは高齢の両親の座る場所を確保し、源三郎が出てきたときを見失わないよう、若者が交代で出口付近に立つことにした。

それと、まずは家主さんに到着が遅れると連絡を入れなくては。 有難かったのは、そこに日本人向けの携帯電話貸し出し業者が待機していたことだ。 これだけの大人数、これからも携帯は必須となるだろう。 その業者のシステムは貸出料は無料、通話料だけ取るというもので、 要するに、万一使わなければタダ。 その分、着信にも料金がかかるのと、通話料が少々高めに設定されてはいたが (‥と書きつつ、その料金体系を全く覚えていないのだが)、 長話をするわけでなし、そう気にすることもあるまいと思い、3台借りた。 帰りに空港で返却できるという手軽さも気に入った。

しかしこのうさぎさん、携帯電話というものをいじったことがない。 係の人が簡単な操作は教えてくれたが、その上日本語の簡単な使用説明書が添えられてもいたが、 そんなものを見てもさっぱり分からない。 「これ一体どうするよ?」と言ったら、互いの電話番号の設定から家主さんに電話をかけるところまで、 子供たちが全部やってくれた。

けれどそれでも英語で電話をかけるというのは、ただでさえうさぎにとって最も気の重い作業の一つであった。 しかもここは、車の往来やら人々のざわめき、飛行機の飛び立つ音やらで騒々しい。 うさぎは高望みをせず、最低限の方針を決めた。 「相手の言うことを100%聞き取ろうなんていう大志は抱かない。 とにかくこちらの状況を相手に伝えること」。

家主さんにはすぐ電話が繋がった。
「ハロー、こちらはウサギ・キリウです。 イミグレでちょっとしたトラブルがあり、まだ空港にいます。 2時間ほど到着が遅れますので、よろしく」 うさぎは電話めがけて大声で怒鳴った。 正確に言うと、英語に「よろしく」なんて言葉はない。 到着が遅れます、マル。である。 この辺が日本人には気持ちが悪い。 よろしく、に当たる英語をつい捜してしまう。

あ、それから携帯電話の番号を伝えておかなくちゃ。 うさぎは馬鹿でかい声で電話番号を読み上げた。 電話の向こうで家主さんがその番号を繰り返し、更に何か言っている。 でも周りがうるさくてよく聞きとれない。 「ワ〜ッ?! アイカントヒアユー! コーズイッソーノイズィーヒア! ソーリー!」うさぎは怒鳴った。 すると家主さんも細かい話は諦めたようだ。 「アイシー。シーユレイター! バーイ!」で締めくくってくれた。

電話を切ると、どっと疲れが出た。でもホッとした。 とりあえずここ一番の山場を乗り切ったよ〜。

ところで、源三郎はいまだに姿を見せなかった。 1時間半くらいとは言っていたけれど、 書類の作成にそんなにかかるものだろうか? 楽観的な性格ゆえ、うさぎは、実際は40分くらいで帰ってくるものと、タカをくくっていた。 けれどもその予想に反し、源三郎は1時間経っても、1時間半経っても現れなかった。 こんなところで無為に時間を潰すのも何だから、先にレンタカーを借りちゃおうか?という話にもなったが、 予約の詳細は源三郎が持っているというし、 源三郎が運転する車を借りるには本人の運転免許証とサインが要るはずだ。

夜成田を発って、朝の現地到着。ただでさえ皆疲れている。 子供たちは借りたケータイでゲームができることを早速発見し、遊んでいるからいいけれど、 問題は高齢の両親だ。ベンチに腰掛けているとはいえ、先が読めないこの状況は、それだけで疲れる。

ようやく源三郎が出口に現れたのは、限りなく昼に近い時刻のことだった。 一行は朝ホノルルに到着して、ここで午前中を丸々費やしてしまったのだ。

一体なぜこんなことになったかというと。 入国審査官によれば、源三郎は、十数年前に米国を訪れたきり、ずっと米国にいることになっているらしかった。 米国内にいるはずの人間が入国審査の窓口に現れたのだから、不審に思われたのだった。 要するに、十数年前に米国を訪れた際の出国審査がうまくいっていなかったらしいのだが、 その事実は本人も今回初めて知ったことで、 米国にはその後何度も出入りしているのに、今まで一度も指摘されたことはなかったそうだ。 なのになぜいまさら突然、という感じだが、 今回はロンドンテロ事件の直後で厳戒態勢にあったことが関係しているのかもしれない。

本人に何一つ落ち度はなく、帰国後よく調べてみたら 航空会社の係員の出国手続きミスであったのが明らかになったそうだが、 皆が空港の出口付近で待つ間、本人によれば、 取調べの別室で以下のようなドラマが展開されていたらしい。

・1時間ほど事情調取
・右手を挙げて宣誓し
・英語で調書を取られて一枚ずつにサイン
・指紋と顔写真を取られ
・$65 払って仮釈放

つまり、「無罪放免」ではなく「前科一犯」の仮釈放扱いだったのだ!!

いたわしや源三郎、米国では前科者とは‥。

米国の出国手続きは日本やアジア諸国などと比べると非常に簡便である。 入国の際パスポートに貼り付けられた紙片を出国のチェックインの際、航空会社係員がただ窓口で回収するだけ。 その紙片がその後どうなったかなんて、出国者本人は知るよしもない。
「先日米国を出国したのですが、その手続きはうまくいっているでしょうか?」なんて各個人がいちいち 大使館に電話して確かめた日には電話回線がパンクしてしまうだろうが、 これからはそうしたほうがいいかもしれない。 米国でお尋ね者にならないためには。

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