Indonesia  バリ島芸術の村ウブド

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【 アラムジワの朝 】

田んぼ

蚊帳に守られた寝心地の良いベッドで迎えたバリの朝は爽快だった。 高原の空気は暑くもなければ寒くもない。ちょうどいい気温だ。

北側の窓からカーテンごしに光が差し込んでいる。 カーテンを勢いよく引いたら、ライスフィールドの瑞々しい緑が目に飛び込んできた。 きれいに生え揃った明るい緑色の稲。 眩しいほどの明るい緑、初夏の風景だ。

窓の下の方から水の音が聞こえる。 下を見下ろすと、深い渓谷を横切って、細い水路が 田んぼからこちら側へと渡っていた。 姿は見えねど、ガチョウの声も聞こえる。 ガアガアガア‥。 あとでチャアと探しに行こう。

階段の向こう側、南側の窓から見えるのは、黄金色の稲と乾いた地面だった。 初夏と初秋。家の向こう側とこちら側、まるで季節が違うみたい。

玄関にかんぬきをかけ、朝食をとりにレストランへ。
「おはようございます」「ごきぶんはいかがですか」と、 スタッフが代わる代わる日本語で話し掛けてきた。 みな日本語が上手だ。

レストランには先客がいた。 上品な若い日本女性が一人。 その脇に西洋人の一家。 小さな女の子とまだベビーの坊やに振り回されて、 お母さんとお父さんは代わりばんこに食事をしている。

レストランには他の席より1メートルほど高くなった一画があり、 スタッフに勧められるまま、そこに席を取った。

そこはなんとも不思議な居心地。 他のお客を見下ろす上座の位置に困惑したのもつかの間、 4人にはぴったりな広さと床に座る気軽さに、すぐ寛いだ気分になった。 それにここはとっても見晴らしがいい。 明日からもここに座ろう。

傍らのスピーカーからは、飄々とした音楽が流れてくる。 心地よい音色、旋律。 聴いたことはないはずなのに、体に馴染んでくるような感じがするのはなぜ? 風のような、この自然な感じは何? まるでここの景色みたい。 珍しいのに懐かしい。 異国情緒と郷愁を同時に感じるなんて不思議。

朝食が運ばれてきた。 こんがり焼けたトーストと刻まれたフルーツ、それにタマゴ料理。 フルーツがこんもり盛られた素朴な器を、うさぎは手の平で包んで撫で回した。 どっしりとした土っぽい石っぽい褐色の器、手に馴染むちょうどいい大きさ。 むかし、梅干しの入ってきた器が、ちょうどこんな感じだった。

頭にトレーを乗せた女性スタッフが、花を飾りにやってきた。 優しい笑顔で楽しそうに、花飾りを配ってゆく。 テーブルごとに一つづつ。 庭の石像さんにも一つづつ。 あがりがまちに一つ、棚の上にも一つ。 外に置く花には一本づつ、お線香を添えている。 控え目な笑顔、丁寧な指先、優雅な物腰。 日本人の美意識にぴったりくる動きだ。

そのゆったりとした動作に見ほれ、ついこちらまでのんびりしてしまった。 今日はこのままここで一日中ぼんやりしていようかと、 うっかりそんな気分になってみたりもして。

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