Palau  パラオ

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【 刑務所ギフトショップ 】

刑務所ギフトショップ

1億2千万人の人口を要する日本には犯罪者がいて、刑務所があるが、 2万人の小国パラオにも、刑務所はある。 そして、日本の刑務所が、模範囚の作った刑務所作業品を売って経費のタシにするのと同様、 パラオの刑務所も、刑務所作業品を作って売っている。

名づけて「刑務所ギフトショップ」。 それは街中の警察署のそばに、ごく普通の建物のような顔をして建っていた。

おかげでこっちはさんざ道に迷ってしまった。 ほんの数十メートルの長さの脇道を行ったり来たり。 何度も人に道を聞き、最後に「ほらそこ、目の前にあるじゃないか」と指し示されてやっと、 その入口が分かった。

扉を開けると、腰に銃を帯びた目つきの鋭い看視だか警官だかが狭い詰め所にズラリ。 ドアを開けたらこぎれいな売り場が広がっているとばかり思っていたうさぎは一瞬、たじろいだ。 入ったが最後、出られなくなりそう‥。

勇を鼓して「ギフトショップはどこですか」と尋ねると、 無愛想な看視はそっちだ、とアゴをしゃくってみせた。 そっちのほうを見ると、なるほど、詰め所の奥に狭い廊下があり、 その向こうにこれまた狭い部屋があって、そこに工芸品が並んでいるらしかった。

ここで工芸品というのは、ストーリーボードのことだ。 島に伝わる伝説をモチーフに、マホガニーなどの木材に彫りこんだもので、 こればかりは、パラオ独自にして唯一の工芸品なのである。

◆◆◆

ここで少し、ストーリーボードの話をしよう。

その歴史は意外に浅い。 古くから受け継がれてきた工芸でなく、実は一人の日本人が教えたものなのである。

それは、かつてパラオが日本の植民地だった先の大戦前のこと。 土方久功という一人の若い日本人がパラオにやってきた。 絵画や彫刻を手がける芸術家であった彼は、 タヒチに渡ったゴーギャンに憧れていたのである。

彼は、何年もの間、島民の間に混じって生活し、 島民に伝わる神話や、山に打ち捨てられた土器の破片などを収集した。 そればかりではない、彼は遺跡調査や社会制度の研究まで行った。 その研究は、今でもその分野の最前線である。

当時のパラオには、文字がなかった。 伝統的な社会制度である酋長制の崩壊とともに、 神話や伝説は日に日に失われ、今や風前のともし火となっていた。 彼は伝説や神話をなんらかの形で残す必要を感じ、島民に木彫りを教えた。

それは同時に、産業の育成ともなった。 彼は「先生」と呼ばれ、島民に愛された。 パラオが親日的なまま今に至るのは、彼の功績によるところも大きい。

◆◆◆

刑務所の詰め所の奥にある、その狭いギフトショップは、 右を向いても左を向いても、ストーリーボードでぎっしりだった。 バイの形を真似た置物やら、魚や亀の形をした壁掛けやら。 超大作がないのが寂しいが、品揃えの数から言うと、街のお土産屋も敵わない。

ギフトショップの奥には、なにやら人がたくさんいる中庭のような広場があった。 囚人たちの作業場だろうか。 愛想の良い看視が早口の分かりづらい英語でなにかうさぎたちに話しかけると、 その中庭へと入って言った。 自分について来いと言っているのだろうか。 作業場を見せてもらえるのかもしれない。 うさぎたちも彼についてその広場に入った。

そこは奇妙な空間だった。 灰色のコンクリートに囲まれ、殺風景なそこは、 屋根のない広場の周りを、壁はないが屋根だけある部分が取り巻いており、 十数人ほどの人々が日の光を避けてそこに腰をおろしていた。 どの顔も、暑さにつかれているのか、うつろな表情をしている。 頭上にはロープが何本も張られ、洗濯物が万国旗のようにかけてあった。

高速道路のガード下のようなにおいが鼻を刺す。 尿のにおいだ。 一体ここは‥?

「ここはなんですか?」 案内人の背中に話しかけると、彼は飛び上がらんばかりに驚いた。 ついてこいといわれたように思ったのは、どうやらうさぎの勘違いだったらしい。 彼は慌ててうさぎたちを押し留めると、「ここは立ち入り禁止だ」と言った(ようだった)。

おそらくそこは監房だったのだろう。 脱獄しようと思えばいつでも逃げられそうだが。 ――でもどこへ? この狭い国のどこへ逃げても、あまり逃げおおせたような気はしない。 船で外国へ逃亡しない限り、またつかまることは目に見えている。

一坪二坪しかないギフトショップの商品をひとしきり眺めたあと、 看視の詰め所を通って外へ出ると、思わず深呼吸をした。

そのあとガイドブックを取り出し、改めて「刑務所ギフトショップ」のページを見た。 そこには、楽しげに作業する模範囚の姿と、整然と並んだ商品の写真があった。 うさぎは、今自分の目で見てきた光景を思い出し、複雑な心境になった。

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