ナイトサファリはその名の通り、夜の動物園である。 わざわざ海外までやってきて動物園?とも思うが、 夜であるということが珍しく、 シンガポールで最もメジャーな観光スポットの一つとなっている。 それでうさぎたちもご多分に漏れず、今夜ここにやってきた。
	まずはトラムに乗って園内一周。
	"トラム"というのは、園内を巡る数珠繋ぎになった客車のことである。
	動物の解説付きだというので、「日本語トラム」を選んで乗り込んだ。
	
	トラムは日本人でほぼ満席になると、やおら動き始めた。
	すでに日は落ちており、あたりは闇。
	最低限の灯りが点々とともっているだけで、ほとんど真っ暗である。
	「右手に○○が見えてきました」という解説にしたがって、その闇の中に目をこらすと、
	動物がそこにいる。動物観察には向いているとはいえない。
	暗くてろくに見えず、期待したトラムの解説も、たいしたウンチクにはならなかった。
	「もっと面白い話はないわけ?
	なんかどれも"絶滅寸前ですが、当動物園では繁殖に成功いたしました"ばっかじゃん」
	とはネネとチャアのご意見。
	座っているだけでいいのはラクでいいけれど、
	大勢の人の間に挟まって、遠くの動物の姿が流れていくのをただ眺めるだけというのは、
	テレビを見ているのとさして変わらない。
	おまけにトラムが動いているおかげで、写真もまともに撮れやしない。
	
	トラムから降りたあと、今度は園内を歩いて回ってみることにした。
	これはさっきとは打って変わった面白さだった。
	トラムのルートとは別の、徒歩専用の小道を歩く。
	人がすれ違える程度の幅しかなく、周りは熱帯の森。
	そんな森の中の小道をこんな真夜中に歩いているというシチュエーション自体に
	まずワクワクした。
	人影はまばらで、しかも暗くて見通しがきかないから、
	自分たちだけが森に包み込まれてしまっているような感覚になる。
	
どこがどう普通の動物園と違っているわけでもないのかもしれないが、 何しろ最低限の灯りしかないので、何を見ても幻想的。 動物の周辺というのは、どうしたって排泄物などで汚れ、きれいに保てないものだし、 檻や柵を全く作らないわけにはいかないだろうけれど、 そういう目ざわりはすべて都合よく闇に沈んでしまっていて見えない。 その分、動物を観察するのに向いているとは言いがたいけれど、 動物を"見る"というのは、必ずしも"観察すること"ではないのかもしれない。
	だって、闇に浮かぶきりんの美しかったことといったら‥!
	きりんがこんなに美しい動物だとは思いもよらなかった。
	"よく見る"ことが"よく知る"こととは限らない。
	動物園というのは動物を"見る"ために行くところだと思っていたけれど、
	ナイトサファリは違った。"見えない"ことが最大の魅力なのであった。