Minnesota  ホストマザーに会いに

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【 マムとの再会 】

ベリーの実

メアリーがうさぎたちにくれた大きなプレゼント、それはマムの家までの地図だけではなかった。 彼女はもう一つ、うさぎたちに素晴らしいプレゼントをくれた。 それは、携帯電話を貸してくれたことだった。

携帯電話など操作したことのない、前時代的なうさぎたちに、彼女は説明してくれたものだ。
「短縮ダイヤルを設定しておいたから、このボタンを押すだけでオッケーよ。 1はマム、2は我が家、3は私の勤め先、4がステラ、5がシンディに繋がるようになってるわ」 そう言って彼女は短縮ダイヤルの書いてあるメモをくれた。

地図と携帯電話、さあてメアリーがくれたこの二つの利器を持って、マムに遭いに出発だ! すでに昨晩、マムからは電話がかかってきていた。 尤もマムは、メアリーに電話したつもりだったらしい。 うさぎが電話に出ると、驚いていた。 それでうさぎは知ったのだ。 その携帯電話が、メアリーの常用している大事なものだということを。

マムは、相手がうさぎだと知ると、しゃべるスピードをぐっと落とし、 こまごまとした注意を述べはじめた。
「今夜はぐっすりお休みなさいね」
「わたしが明日、午前中は家にいないことを忘れないで」
「もし道に迷ったら、電話するのよ」
「くれぐれも運転には気をつけて」
「酔い止めは日本から持ってきた?」などなど。

生前の祖母がそうだった。 毎朝うさぎが勤めに出かけるたびに、 「今日は冷えるからもう一枚着ていきなさい」 「暑くなったら脱がないと汗が冷える」 「くれぐれも車には気をつけるように」 「人通りのない場所は歩かないように」など、 まるで子どもにするような注意を毎日山ほどくれたものだ。

ともかく、マムがくれた注意を胸に刻み、マムの家まで自力でたどり着かなくては。 うさぎは助手席に乗り込むと、ひざの上に地図を広げた。 なんだか手が汗ばんでいる。きりんも緊張した面持ちだ。 子どもたちは後部座席に神妙な顔で座っていた。

けれども実際は、皆の心配をよそに、一度も道に迷うことなくマムの住まいに到着。 いや、迷いようがなかったのだ。 何しろ、レブロンハウスからほんの2回ウィンカーを出しただけで、 マムの住む老人ホームに到着してしまったのだから。 まったく、なんて良いところに宿を取ったのだろう。 比較的近いと思って選んだとはいえ、まさかこんなに便が良いとは‥!

マムの住まいは、広い敷地に建つ、レンガ造りの大きな老人ホーム。 きりんがその駐車場に車を止めると、うさぎは早速マムに電話をかけた。 そしてしばらくすると、オートロックの玄関からマムが姿を現した。

懐かしいマムの姿。 記憶の中にあるマムよりもだいぶおばあさんになってはいるけれど、 足に補助具をつけ、手押し車を押しながらゆっくりゆっくりと歩いてくるけれど、 間違いなく彼女はマムだ。

「ああマム、あなたに合えて本当に嬉しい!」 型どおりの英語でうさぎが両腕を広げると、マムも手押し車をゆっくりと脇にどけ、 まるでそこが平均台の上でもあるかのように注意深く体のバランスを取ると、両腕を広げた。

うさぎの腕の中のマムは小さかった。 うさぎは自分の体重をマムにかけたりしないよう、気を配った。 28年前、体当たりで抱きついても大丈夫だった大きなマムが、今はこんなにも小さい。

久々の抱擁が済むと、うさぎはきりんと子どもたちをマムに紹介し、 マムはそれぞれといわゆる「ビッグ・ハグ」を行ったが、 うさぎはその間、気が気ではなかった。 この足で立っているのはさぞ辛かろう。 早くどこかに座らせないと、と思ったのだ。

ところがマムは案外元気だった。体のほうはどうあれ、気力は充分とみえる。 「車はどこに止めたの?」と尋ねるので、「あそこに止めた」と指差すと、 「あそこはよくない。身障者用のスペースだから。こっちに止めなさい」と言う。 そして、重たそうな補助金具をつけた脚を一歩一歩ゆっくりと踏み出しては、 段差のある駐車場のほうへと向かうのだった。 うさぎは慌てた。 「大丈夫。分かったから、そこのベンチにでも座っていて」とつたない英語で伝えたが、 マムは聞いちゃくれない。 「あそこからこういう向きで車を回しなさい。わたしがここで指示してあげるから」と言い、 実際、そうした。 「はい、そのままそのまま〜。そこでストップ。オー、グッジョッブ! ベーリーナイス、きりん」
‥すっかりマムのペースである。

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