中央アジア→タジク語(ペルシャ語)という流れでいろいろ調べていたら、こんな表現を見つけました。
متشكرم، چشم شما قشنگ ميبيند
柴田武編『世界のことば小辞典』 p.411
(ありがとう、あなたの目がきれいなのよ)
褒め言葉に対する決まり文句だそうです。
ここで言う「目がきれい」とは、「モノの見方が好意的」という意味でしょうか。なんとも美しい表現ですね。
褒められた時ってけっこう返答に困ります。英語だったらThank you for the compliment.(お褒めの言葉ありがとう)と言えますが、日本語だと「えー、そうかなー? ありがとう。てへっ」みたいな? どうもしまらない。それに比べ、ペルシャ語の表現のなんと気が利いていることか。こういう定番の「返し」があると便利ですね。
調べたところ、ペルシャ語には他にも「ターロフ(タアーロフ تعارف taarof)」と呼ばれる社交辞令、もしくは気配り的な慣用表現がたくさんあるようです。
دست شما درد نکنه
(あなたの手が痛みませんように)
これは誰かに何かしてもらった時にかけるねぎらいの慣用表現 (forvo発音)。東外大言語モジュールのスキットにも出てきます。
こう言われた人は、
سر شما درد نکنه
(あなたの頭のほうこそ、痛みませんように)
と言って、逆にその気遣いをねぎらう (forvo発音)。
トルコ語でも食事などを作ってもらった際、以下のように言います。
Elinize sağlık.
(あなたの手が健やかでありますように)
これも同じ発想ですね。
イランで人の家を訪問する際に花を持って行くと、こう言われるそうです。
چرا زحمت کشیدی؟ خودت گلی
(なぜ気を使うの? あなた自身が花なのに!)
日本でも「気を使わないで。来てくれるだけで嬉しいんだから」と言うことがありますね。それと同じなのでしょうが、「あなた自身が花」とは、自分が言われたら気恥ずかしい。
また、ペルシャ語圏では人に背を向けるのは失礼らしく、人に背を向けざるを得ないときは「失礼」と挨拶するそうです。それを言われた人は、以下のように答えるのだそう。
بفرمائد، گل پشت و رو ندارد
(いえいえ、花には後も前もありませんから)
そういわれた方は、相手をナイチンゲールに例えて返す。
بلبل پشت گل میشینه
(花の後ろに夜鳴き鳥)
・・・いやはや、社交辞令もここまでくると芝居がかっていますね。
こういう新しい発想が学べるから、ついいろんな言語に手を出したくなるのです。
外国語を使うというのは、日本語の音を、ただ別の音に置き換えることではない。日本語にない表現、概念を含んでいるから、外国語は面白いなあと思うのです。