言語学習に関するとても面白いページを見つけました。コレです↓
言語の天才まで1億光年 高野秀行(集英社インターナショナルマガジン)
昨年の秋から今年の夏にかけて連載されていたようです。
著者の高野秀行氏は、作家としては有名ですが、多言語話者としてはまだ穴場なのか、言語学習ブログで取り上げられているのを見たことがないので、ここでご紹介することにしました。この機会にぜひ、氏の多言語学習者・多言語話者ぶりをご堪能ください。「二重録音学習法」や「わらしべ長者学習法」など、独自の学習法も紹介されています。めっちゃ面白いです!
不死身の辺境作家
わたしが高野本にハマったのは3年前、謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリアを読んだのがきっかけです。
この本が面白すぎ、まずソマリ語にハマりました。
ソマリ語はすぐに挫折しましたが、高野さんの作品はよく読むようになりました。
高野さんはノンフィクション作家。自称「辺境作家」。作品はすべて辺境(というより秘境)に立ち入ったご自身の体験を書いたものです。
その体験というのがまあ半端ない。アフリカのジャングルにネッシーみたいなのを探しに行ったり、タイとミャンマーの国境地帯でアヘンを栽培し、挙句アヘン中毒になってみたり、20年内戦が続いているソマリアに潜入してみたり、アマゾン、ベトナム、中国、インド、クルディスタン、ほかにもいろいろ。
どの本一つとっても、読み終えてまず最初の感想は「無事に帰ってこられて良かった」です。たぶんわたしだけではなく、読者のほとんどがそう感じるに違いない。
しかも当人はその危険にあまり感づいていない様子。いつも飄々としている。読んでいるこっちは、ご本人の代わりにハラハラしてしまう。「・・・えっ、それって、実は相当ヤバいんじゃ・・・?!」と。映画で、主人公の後ろで猛獣が口を開けているシーンを見せられているようなものです。「後ろ! 危ない!」と叫びたくなります。
山賊、海賊、内乱、風土病、遭難事故・・・。秘境というところでは、あっちにもこっちにも、死が大きく口を開けて待っている。一歩踏み間違えただけで簡単に命を落とす。実際、作品中にもかつての仲間の訃報が出てきます。文字通り「命がけ」なわけです。
でも彼と彼の同行者は、いつも無事日本に帰還する。命を落とす人と落とさない人。その違いは何だろう?と考えてしまいます。
まあ一つは単純に「運が良い」のだと思いますが、もう一つは「語学力」じゃないかな、とわたしは勝手に思っています。著者は一言もそんなこと書いてはいないので、あくまでこれはわたしの想像ですが。
語学力で身を守る
12年前に友達とスーダンへ行ったとき、わたしはその友達にコーランの第一章「ファーティハ」の暗唱を特訓されました。「万一ゲリラに捕まった時、命を守ってくれるから」という理由で。旅行中、ヒマさえあれば暗唱させられていたので、今でもスラスラ言えます。
幸いゲリラには捕まらなかったので、そのお守りの効果のほどはわかりませんが、アラビア語に関わっていると、ゲリラに捕まった経験がある人に時々出会います。そして彼らに共通しているのは「アラビア語で身を守った」こと。アラビア語で真っ向からゲリラと理詰めで交渉した人、ゲリラとアラビア語で会話して親交を深めすっかり仲良くなって解放された人もいれば、アラビア語が分からないフリをして見張りの会話から密かに情報収集した人もいて、活かし方は人それぞれですが、何にせよ、語学が「身を助く」どころか「身を守った」ところは同じ。
だから高野さんの場合も、ご本人は気づいていないかもしれないけれど、実は、現地語ができたおかげで命が助かったことも、一度や二度あったのではないかと思ったりするのです。
11月は高野秀行月間
今回、冒頭のウェブ連載を見つけたきっかけは「リンガラ語」で検索をかけたことでした。
露検が終わってホッとしたところで、高野秀行著「幻獣ムベンベを追え」を読み、それがあまりに面白かったので、そこで話されている言葉「リンガラ語」に興味を持ち、もっと詳しい情報が知りたくなって検索をかけたのです。そしたらこの連載が検索にひっかかってきて、結局高野さんに戻ってきてしまったのです。
言語的特徴などについてもっと詳しく知りたかったのですが、高野さんが発信する以上の情報は結局見つからず。リンガラ語はスワヒリ語に次ぐバントゥー諸語のリンガフランカ。そんなにマイナーな言語ではないはずですが、まさか、日本でリンガラ語に詳しい人って、高野さんしかいないのでしょうか??
先週は「ムベンベ」の他にも、高野本を読んでいました。再読を含め、5冊読み終えたところで上記の連載を見つけたのです。書かれた時期がバラバラな本を行き当たりばったりに読み、時系列で並べるとどうなるんだろう?と知りたくなっていたところだったので、渡りに船でした。この連載によって、言語学習を軸に、氏のこれまでの人生がざっくり俯瞰できました。
高野氏の著作は、冒険譚としての面白さのみならず、文化人類学的に面白いです。それぞれの土地に住む人々がどんな言語を話し、どのような価値観でモノを見、どのような生活を営んでいるか。そうした観察が面白く、「そんな論理ってアリ?!」と、びっくりするやら、可笑しいやら。日本社会の論理だけで未来を予測するとにっちもさっちもいかなくて、お先真っ暗に見えてしまうことがありますが、高野さんの本を読むと、思わぬ突破口が見えて、楽天的になれます。
あと、言語学習の強力な動機付けにもなります。言語が話せると、目の前に立ちはだかる見えない扉を開くことができる。言語が話せないと、その扉の存在にも気づかないのですが。
まあ尤も、現地の言語を話すことで相手の懐に入ったつもりが、逆に相手に自分の懐に入りこまれることもある。連載ではそんな手痛い経験も正直に語られています。語学力とハサミは使いよう、ということでしょう。
まだ読んでいない本があるので、今後しばらく読み続けると思います。高野さんの書かれた本だけでなく、高野さんオススメの本も読み始めているところです。連載の中で触れられていたガルシア・マルケスや、YouTubeで紹介されていた「銀河の片隅で科学夜話」など。
ちょうど「今月はこれをやった」と思えるものを探していたので、この11月を「高野秀行月間」にできたらいいなと思います。
「メモリークエスト」に出てきた「ツナ飯」がめっちゃ美味しそうだったので、
わたしも作って食べてみた。
ツナ缶をごはんにのせて醤油をちょろっとかける。
アレンジでネギを上に載せてみた。
「何これ!」っていうくらい、めっちゃ美味しかった~!
12月29日追記:2021年11月に読んだ高野本メモ(読んだ順・ 再読を含む)
- 幻獣ムベンベを追え
- 怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道
- 怪獣記
- メモリークエスト
- 異国トーキョー漂流記
- 世にも奇妙なマラソン大会
- アジア未知動物紀行
- 腰痛探検家
- イスラム飲酒紀行
- ワセダ三畳青春記
- 巨流アマゾンを遡れ
- 未来国家ブータン
高野秀行オススメ本
・銀河の片隅で科学夜話