2012年7月、アラビア語検定3級に合格しました。 判定は、筆記C、聞き取りB、会話C (A~Cが合格、Dが不合格)でした。
アラビア語検定三級に向けて、どんな準備をしたのかをまとめてみました。 今後、受検を考えていらっしゃる方の参考になれば幸いです。
この体験記は、かつて存在したアラビア語検定の受験体験記です。実用アラビア語検定は、日本アラビア語検定協会が2007年~2017年に実施していたアラビア語の検定試験で、事業継続が困難となり2017年を最後に休止、2021年8月9日をもって主催者であるNPO法人も解散しました。
出発点
2007年に発足して以来、4級~6級試験は毎年開催されてきましたが、3級試験は2012年が4回目、2年ぶりの開催でした。
今年も開催されるかどうかは謎でしたが、開催された場合に備え、4月の中頃からボチボチ準備を始めました。公式サイトに「7月1日に開催」の告知が出たのは4月の下旬。ここ数年、アラ検は8月下旬か9月に入ってからの開催で、今年もそういう日程で行われるものと思っていたので、これには慌てました。
4級を取得して以来の二年間、アラビア語に関してやったことといえば、週1~2度のクラスへの出席と、テレビのアラビア語講座、あとはたまに絵本などを読むくらい。かなり放置に近い状態だったので、「2か月ちょっとの準備期間で、合格は無理かな」と思い、とりあえずやってみて、それでもダメそうなら見送る方向で、準備を始めました。
「見送る」といっても、検定試験の開催はせっかくの学習チャンス。なので3級でなくとも、何かしらの級を受けようとは思っていました。4級をもう一度受け直すか、受けたことのない5級か。なので4級・5級の過去問題もやりました。
アラビア語検定、級によらず、難しいですね。5級でもちょこちょこ間違え、4級ともなると、もうボロボロ。
それでも3級を受験することにしたのは、4級でも「絶対受かる」とは言い切れなかったから。「同じ落ちるなら、3級のほうがいい」と思った(笑)。 そんな状態からの出発でした。
過去問
3級受験準備として行ったのは以下の2つです。
- ネットで公開されている過去問題を3回分解く。
- NHKワールドのアラビア語ニュースに触れる。
過去問を解いて良かったことは、時間配分を決められたことです。アラビア語検定はいつも時間がギリギリ。公式サイトには3級の受験時間として「80~90分」と書かれており、正確なところが分からなかったので、時間が足りなくなったときに備え、何を優先し、何を切るか、予め考えておきました。
具体的には、3番目くらいにある「並び替え」を切り、最後の「アラ問アラ答」を優先することにしました。なぜなら並び替えは時間がかかる割に配点が低いからです。
実際には筆記に90分与えられ、どの問題も犠牲にせずに済みましたが、優先順位を予め決めておいたおかげで、焦らず、落ち着いて解くことができました。
ちなみに最初に過去問を解いたのは、5月の上旬、2回目が5月の中頃、3回目が6月の上旬です。過去問を解くことで、ニュースを聞く際、どんな言い回しに注意して聞けばいいのかなど、指針が得られたので、早めに解いて正解でした。
とはいえ、試験の一週間くらい前にもう一度解いてみたら、最初の穴埋め問題がもうボロボロ。全然身についていなかったんだなとわかり、呆れました。
NHKニュース
過去問のほかにやったことといえば、息抜きに、絵本やアラブの小学校の教科書、ごく短い小説を読んだくらいで、二ヶ月間、ほとんどニュースばかり読んだり聞いたりしていました。
具体的には、毎日NHKワールドのアラビア語ニュースに触れていました。アラビア語のニュースは、アル・ジャジーラやイギリスのBBCなどでも聞けますが、NHKの外国語放送は海外のラジオ放送と違い、ほぼ同じ内容のニュースが日本語で読める、つまり和訳が手に入るのが魅力です。
放送は一日に二度。ウィークデイは一回14分、週末は一回につき9分の放送です。テキストとストリーミングは、毎日午後の4時前後と、夜の9時~1時頃に更新されます。
ニュースに触れ始めた最初のうちは、耳で聞いてもチンプンカンプン。何のことやらさっぱりわからなかったので、テキストをワードにコピペしたのをプリントアウトして読んでいました。知らない単語も多かったので、赤ペンで訳を書き入れていました。
平均1分半くらいのニュースを一つ読むのに1時間以上かかることもあり、毎日ひとつ読めればオッケー、二つ読めたら上出来、くらいのペース。パソコンを立ち上げてプリントアウトするのもけっこうな手間なので、数日に一度、一気に数日分プリントアウトしていました。
最初のうちはすべてのニュースを追うのは無理で、アラブ関連のテーマに絞って追っていました。ニュースは連続ドラマ。同じテーマを追うと、内容をおおよそ想像でき、使われる語彙も毎日似たりよったりで次第にラクになってきます。ラクになった分、徐々に読む量を増やしました。
読むニュースの数が増えると、テキストをプリントアウトする手間がバカにならないので、次第にスマホの画面でそのまま読む方向へとシフトしていきました。
ニュースを読み続けるうち、徐々に辞書なしでもある程度内容が理解できるようになったおかげで、 6月の半ば頃には、昼と夜に流れるNHKのアラビア語ニュース(各14分)を全てチェックできるようになりました。
また、ボキャが揃い、読んで分かるようになると、自然と聞けるようにもなってくるんですね。最初は全然分からなくてイヤだった「聞く」ことも、だんだん億劫でなくなり、 以下のようなパターンが出来上がりました。
- 1、2度目は耳で聞き、3度目は聞きながらサラッと読む
- 4度目は、辞書を引きながらじっくり読みこむ
- 5度目はサラッと聞き読み、最後に音だけ聞いて、オシマイ
このパターンで全部の記事を読み始めた最初の三日は、丸一日、記事と格闘しなくてはならず、それはそれはたいへんでしたが、 4日目あたりから急にラクになり、時間がかからなくなりました。
知らない単語が減ってきて、「じっくり」の部分もちょろっと辞書を確認する程度。 14分のニュース一回分につき、2~3時間程度で、内容が把握できるようになりました。
更に6月の終わりごろには、エジプト大統領選挙の結果が一度聞いただけで完璧に分かる、という経験もしました。アラブ世界の一大関心事ですから、アナウンサーがいつになく熱をこめて報道していたということもあるでしょうが、一度聞いたくらいではほとんど何も分からなかった4月の頃を思うと、夢のようでした。
ニュースに触れ続けたことにより、アラビア語全般に慣れ、以前よりもだいぶ読めて、聞けるようになりました。
単語帳
ニュースを読むにつれ、覚えかけの語彙が増えてきて、頭の中が混乱してきたので、整理するため、単語帳を作りました。
要らなくなった紙をA5判の大きさに切りそろえ、白い裏を再利用した、粗末なものです。 パンチで穴をあけ、ファイルに整理し、最終的に200ページほど作りました。
単語のまとめ方は様々。 名詞の複数変化が同じものばかり集めたページもありますし、 同じ前置詞をとる動詞ばかりを集めたページもあります。 3形動詞の動名詞ばかり書き連ねたもの、 音やスペルが紛らわしい単語の比較ページ、 「犯罪」とか「内戦」など、シチュエーション別に分けたものもあります。
その中で一番多いのは、シチュエーション別。100ページほど作りました。
たとえば「エネルギー」のページには、「電気 كهرباء」「燃料 وقود」「石油 بترول نفط」「石炭 فحم」「原子力 نووي」「天然ガス الغاز الطبيعي」「地下資源 موارد الأرض」「原子力発電所 محطة نووية」「再生可能エネルギー الطاقة المحددة」「水力 مائي」「風力 ريّح」「火力 ناري」「太陽光 شمسي」「省エネ توفير الطاقة」などといった語彙が並びます。
紛らわしい単語のページも数十ページあります。
たとえば「職業 مهنة」「試練 محنة」「奨学金 منحة」とか。「流れる سال」と「流れる・行く سار」と「なる・達する صار」も紛らわしい。 スペルが似ているだけでなく、意味まで似てる。「延期する أجّل」と「急がせる عجّل」もイヤですねえ。意味は逆のイメージなのに、スペルと音がそっくりで。
読みやすさを考え、1ページ10単語くらいを目安に作っていましたが、実際には20単語以上書いてしまい、ゴチャゴチャのページもあります。
単語はほとんどがニュースで見たもので、 何度もお目にかかり、だいたい意味がとれるようになったものだけ書きました。 知らない単語は単語帳に書いたところでどうせ覚えられないし、一度や二度出会っただけの単語なんて、 そもそも覚えるべき単語かどうかも分からないからです。
行きずりの単語に手間ヒマかけるより、しょっちゅう出会う単語を大事にして ほかの単語との関係を確認したいと思ったのです。
検定協会のウェブサイトには、3級のレベル内容および出題内容の目安として「習得語彙数:2000程度」とありますが、 実際には「見れば意味くらいは分かる」レベルの単語が6000くらいはないと、3級の長文を読むのは到底無理だと思います。
見出し数4700の初級パスポート辞書の見出し語をチェックしたところ、4月の段階でもすでに9割は意味くらい分かりましたが、5月にやった最初の過去問では、知らない単語が目白押しでした。
最終的にはニュースに触れることで、なんとか6000語くらいは意味がとれるようになったのでは、と思っています。 ただし、それは読んだ場合の話。実際に自分が書くとなると、辞書を引かなくても使えるのは、せいぜい2000~3000語というところだと思います。
スペルがあやふやだったり、複数形が分からなかったり、うしろにとる前置詞が分からなかったりと、「読めても書けない」単語は相変わらず多いです。
今読んで分かる単語を、自分でも使えるようにするのが、今後の課題です。
試験当日
東京会場は、いつもと同じ、水道橋駅近くの小さな塾でした。 ただし、実際に使われたのは隣のビルで、その3階の小さな小部屋でした。
今回の受検者は5人。うち4人が、同じ学校(アラブイスラーム学院)の仲間でした。
筆記試験は90分。 リスニングは35分~40分くらいで、あわせて2時間ちょっとでした。
筆記は、予め考えていたとおり、「並び替え」問題を飛ばし、最後までやりました。 その時点で残りが20分ほどあったので、戻ってきて10分で「並び替え」を解き、 5分で全体の見直し、あとの5分をリスニングの予習にあてました。 正誤問題の一度しか読まれない部分を中心に。
リスニングは、サンプル問題のところは、非常に聞き取りやすかったのですが、 問題に入った途端、くぐもった感じの声に変わり、聞き取りづらかったです。
二次試験は一次試験が終わってから約10分後に、受験番号1番から順番に行われました。 個別の面接開始時刻が、あらかじめ受験票に書いてありました。
まとめ
「入門テキストや初級テキストはそれなりにあるのに、中級テキストともなると、ごく僅か」という状態に心細さを感じておられる方も多いと思います。わたしも実際そうでした。4級受検のときは、準備といったって、一体なにをどう学べばいいのか、さっぱり分かりませんでした。
でも、ニュースが分かるようになればもう大丈夫。ネットでいくらでも、しかもタダで、アラビア語が聞けて読めるから。学習教材の空白から逃げ切れたことに、ホッとしています。
一度聞いただけで内容をキャッチするのはまだ無理。何度も読んだり聞いたりして、やっと意味が分かる程度ですが、特定の教材に依存せず、自分のペースで学べるようになった開放感を感じています。
検定試験を機会に、ここまで来られて本当によかったと思います。元々、日本語でもあまりニュースなど読まないほうでしたので、検定試験がなかったら、きっと読まなかったと思います。
アラビア語検定はまだ歴史の浅い検定で、世間における認知度が低く、資格としての意味はまだあまりないように思います。しかも私見では英検の準1級と同じくらいの難易度と思えるこの級が「3級」という名前。英検や仏検の3級と同じ印象で捉えられることを思うと、ソンしてる感が拭えません。
でもこれを短期目標にすることで、集中的に学ぶ「アラビア語強化週間」を作ることができる。検定試験には、資格取得以外にも、そんな意味があるのだと思っています。