前回「先生が眠そう」と書きましたが、最近、スペイン語でも話が弾むようになりました。ブログに書いたのが良かったのかな? 不思議と、悩みや問題って、ブログに書いただけで解決します。書くことで、問題が整理されるからかな?
今回もその効用を信じて書いてみます。
予期せぬ質問
先日、初めてのメキシコの先生と話したとき、ロシア語を学んでいると言ったら「どうしてロシア語を学んでいるの?」と訊かれました。それに対し「ロシア語が話せれば、ロシア語圏の人々と話ができるから」みたいな答えを返したら、「・・・いや、そういうことじゃなくて。・・・ほら、ロシアはいま戦争しているでしょ? 日本だってロシアと領土問題を抱えているでしょ? そういう国の言葉を学ぶのはなぜなのかなーと・・・」
なるほど、この質問の意味は「どうしてわざわざロシア語なんか学んでいるの?」ということなのですね。先生がものすごーく気を遣って言葉を選んでいたので、これはセンシティブな話題なんだなと感じました。
この質問、すごく面白いと思ったのですが、残念ながらレッスンの終わり頃のことで、返答を練る時間がありませんでした。なので「戦時だからこそ、ロシア語でニュースが読みたい」と、どっかから借りてきたような紋切り型の答えを返し、「それにロシア語ネイティブとロシア語でプーチンの悪口を言い合うのが楽しい」と茶化してレッスンを終えました。
予期せぬ質問だったので、十分に考えた答えを返せず、残念でした。次に同じ話題になったら、どんな風に答えたものかな、と思ったので、ここで整理してみたいと思います。
考えてみた答え
この質問、具体的には「ロシアによるウクライナ侵攻によりロシアに失望し、ロシア語への意欲を失うことはなかったのか」と聞かれているのかなと思いました。
1年前、ロシアのウクライナ侵攻が始まったとき、ロシア語学習をやめようかと悩む人々の姿をネット上のあちこちでお見掛けしたからです。
わたし自身はそのときロシア語をやめようとは全く思いつかなかったのですが、それは一体なぜなのだろうと考えました。
一つは、わたしにとって「ロシア語=ロシアの言語」ではないからだと思います。ウクライナや中央アジアにも母語話者がたくさんいて、むしろわたしには、そっちの関わりのほうが深い。ロシア語学習でロシアの先生にお世話になったのは100回くらいですが、中央アジアはもっと多く、ウクライナは300回以上。ロシア語は大好きなウクライナの先生方との絆なので、やめるわけがありません。
また、現実のロシアにもともと思い入れがないので、失望のしようもありませんでした。わたしが憧れるロシアは絵本の挿絵の中のロシア。「真っ白な雪の大地に玉ねぎ型屋根の教会。三頭立ての馬橇に金髪碧眼のスネグーラチカ。森の中で焚火を囲む十二月の精」というイメージです。ロシア語学習を通じて得る雑学も、そのイメージを補強するのに都合の良いパーツだけを選んで残す。簡素なダーチャで湯気を立てる料理。ペチカ脇のテーブルには、ホフロマ塗りのサモワール。森ではハリネズミが遊び、摘んだベリーで作るヴァレーニエ。マスレニツァのお祭り・・・。わたしのロシアはもともとが幻想か時代錯誤。だから幻滅もしないのです。
悩める学習者は今
1年前、ロシア語学習をやめようかと悩む人々の姿をお見掛けしたとき、やめないといいな、と内心思っていました。仲間が減るのは寂しいので。
あれから一年、あのとき悩んでいた方々は今どうしているでしょうか。
実は、やめた人は案外少ないのでは、と予想しています。気を取り直して学習を続けておられる方が多いのでは、と。
なぜなら、言語を学ぶ過程で様々な「かすがい」が生まれるからです。
たとえ最初はロシアへの興味から学習を始めたとしても、何年も学んでいれば自然と中央アジアやコーカサスなど他のロシア語圏の地域に馴染みができるし、たとえば最初はバレエへの興味だけだったとしても、そのうち自然と文学や音楽、料理、絵画といった他の分野に興味が湧いたり、リアルの知り合いができたり、有名人の推しができたりで、最初は一本しかなかった学習意欲の柱がいくつも生まれる。そうすると、たとえ意欲の柱の一つが倒れたとしても、他の柱で持ちこたえる。そこが外国語学習の素敵なところです。
学習期間が長ければ長いほど、たとえ一時は意欲が低下したとしても、結局気を取り直し、むしろウクライナ侵攻をバネに、持てるロシア語スキルを生かして何か自分にできることはないか探している人のほうが多いのではないでしょうか。
やめていないといいな、と勝手に願っています。
ロシア語学習者は減ったか
・・・あ、今いいことを思いつきました。ロシア語能力検定の受験者数を見れば、ロシア語学習者が減ったかどうか分かるのでは?
早速データをエクセルに打ち込み、グラフにしてみました。
おお、受検者数が下降気味なのは3、4級だけですね。上位級は減っていない。2018年とほぼ横ばい。2019年と20年が大きくえぐれているのは、台風やコロナの影響で試験が一部または全面的に中止になったからです。2021年の受検者数の大幅な増加もその影響とみられます。その影響から脱した2022年はきわめて堅調と言えるのではないでしょうか。
中級以上のロシア語学習者は減っていないんですね! わーい!
もうひとつの答え
ここまでいろいろ考えてきたのですが(実は一週間くらいこのブログを書いている)、ちょうど馴染みのセルビアの先生のレッスンが取れたので、この話をしてみました。
すると。
「政治と生活は完全に別の話よぉ。わたしなんか子どもの頃、NATOに爆弾落とされて、アメリカなんて大嫌いと言いつつ、アメリカのテレビドラマは大好きだし、なんなら英語を教えてる。メキシコだってアメリカに差別されて高い壁なんか作られて隔てられて、それでもその講師だって英語教えてるんでしょ」。
・・・え。
そ、そうかー、そんなものなのかー。
拍子抜けしました。今まで「ロシアがウクライナに侵攻したのにロシア語を学び続けている理由」を真面目に探していましたが、一言「¿Por qué no? (なんでやめる必要があるの?)」で良かったのかもしれません。