英語

アメリカ人にとっての「普通」

 昨年の11月頃からアメリカのドラマを見ています。ドラマ好きの夫がGleeを見ていたのが面白そうだったので、わたしも一緒に見るようになりました。

英語字幕、日本語音声

 一日1時間半。一話約45分のエピソードを一日に二つずつ見ています。

 音声は日本語。英語字幕をつけて見ています。英語学習のためにドラマを見るというと、英語音声に日本語字幕をつける人が多いと思いますが、夫はドラマを楽しむこと、わたしは夫と共通の話題を得ることが第一目的で、ついでにちょっと英語のたしにもなればいいな~くらいの感じなので、このパターンに落ち着いています。

 なので英語学習としての効果は期待していなかったのですが、実際は字幕を追うのが速くなりました。英語字幕を見ながら日本語音声を聞いて、「おお、このセリフをこう訳すのか!」などと思ったり。これからもこのパターンで見続けようと思います。

 昨年中にGleeをシーズン3まで見終わり、今はチャームド 〜魔女3姉妹〜のシーズン4を見ているところ。グリーもチャームドも日本で放映されたことがあるようですが、夫もわたしも見るのは今回が初めてです。

 DVDを購入し、居間のテレビで見ています。いつもDVDをセットして見ようと誘ってくれるのはドラマ好きの夫。わたしはそれほどドラマ好きではないので、もし夫がいなかったらこの日課は続けられないでしょう。ペースメーカーがいて大助かりです。

 これも夫主導なのですが、たまに気に入ったエピソードがあると、音声も字幕も両方英語にしてもう一度見ます。

 一度日本語で見た上に、また字幕をつけて見るわけですから、完璧に分かりそうなものですが、実際は、それでもよく分からないセリフがたくさんあります。よく英語の最終目標として「ドラマが字幕なしで分かる」ことが挙げられますが、わたしはそんな贅沢は言わない。「字幕つき」で理解できたら、わたしはもうそれで充分。それでも道は遠いなあと感じます。一度日本語で見た上に、二度目に字幕つきでもまだ分からないところがある。

 ただ、ドラマによって難易度がかなり違うようです。Gleeは、登場人物の思考回路が突飛で、特にスー・シルベスターのハチャメチャな論理の長い悪態など完全にお手上げですが、チャームドはそれに比べると登場人物が常識的だし(?)、一つ一つのセリフが短いので、ついていきやすい。gossip girlフレンズも最初の数話だけ見ましたが、チャームドと同じくらいの難易度のようでした。

フレンズの利点

 英語学習といえばフレンズですが、他のドラマと見比べると、その理由がよく分かります。

 まず、一話が短いこと。フレンズは20分、他のドラマの約半分の長さです。隙間時間にちょこっと一話だけ見られるし、まとまった時間が取れるならば、字幕や音声の言語を変えて同じ話を繰り返し見ることもできる。何かと便利です。

 それから一つ一つのセリフが短いこと。長い独白がほとんどなく、短いセリフの応酬で話が成り立っているので、難易度が低い。

 三つ目は、常に誰かが喋っていること。Gleeは頻繁に歌が入るし、チャームドは魔物との戦闘場面がけっこうありますが、フレンズはひたすら会話。英語教材として効率が良い。

 四つ目は、観客の笑い声が入っていること。これはアメリカ人が笑う場面が確実に分かるので便利です。まあフレンズの場合、一体何がそんなに可笑しいのか、最初から最後まで笑いっぱなしくらいの勢いですが。

 英語学習という観点でもドラマ視聴に興味が出てきたので、チャームドを見終わったら、次はフレンズを本格的に見ようかなと思っています。他にもThe O.C.sex and the cityなどのDVDをどっさり買い込んであるので、当分見るものには困らなさそうです。

字幕つきでも道は遠い

 通常、海外ドラマの視聴における最大の難関は「英語を聞き取る難しさ」だと思いますが、先ほども書いたように、わたしには「字幕つきでも、理解への道は遠い」と感じます。それはなぜでしょうか。何がネックになっているのかを考えてみました。

 一つは、長いセリフとなると字幕でも早くて追えないことです。でもこれは完璧ではないにせよ、徐々に克服していかれる気がします。字幕を読む速度がこの数か月の間にもだんだん早くなってきているからです。

 第二に、知らない単語が出てくること。こっちはちょっと問題。

 わたしが愛読する本には

『SACS(Sex and the Cities)』の全セリフの約80%がたった350個の単語からできている

海外ドラマはたった350の単語でできている

2000個の単語があれば、『SACS』のセリフの90%をカバーできる

海外ドラマはたった350の単語でできている

と書かれています。

 確かにそれはそうだと思う。ほとんどのセリフは、ほんとに簡単なことしか言っていない。

 ただ、理解したいセリフに限って難しい単語が出てくる気がします。

 理解したいセリフというのは具体的に言うと、笑いをとるセリフです。アメリカ人が笑うところで笑えないのは悔しい。そもそも英語でドラマを見る醍醐味ってそこじゃないですか? ドラマの筋を英語で理解したいというよりは、アメリカ人が笑うところで一緒に笑いたい。それが達成できないんじゃドラマの面白さ半減です。

 じゃあアメリカ人はどんなセリフで笑うかというと、

  1. 場違いなセリフ
  2. 固有名詞

が多い。

場違いなセリフは難しい

 1の場違いなセリフは難解なことが多いです。まず突然場違いなことを言い出すわけだから、前後の話の脈略から内容が判断できない。しかも難しい単語が使われていることが多い。何か長い病名とか、特殊な専門用語。たとえば登場人物がちょっとした不都合を大げさに受け取り、「私、〇〇病かも」と言いだすとか。もしかしたらそういう病名は、ネイティブにもよく分からないのかもしれないけれど、でも少なくともネイティブならそれが病名だということくらいは分かると思うんですよね。ところがこっちは、病名だということも分からないから、突然なんの話をしているのかさっぱり。悲しい~。

 例えばチャームドに「levitation」という単語が出てきます。「空中浮遊」という意味で、主人公の一人が会得する超能力の一つなのですが、こういう単語を見たとき、ネイティブならたとえそれが初めて見る単語であっても、字面からなんとなくイメージできるのだと思います。でもこっちは語彙力が限られているのでそういう推測ができない。これに関しては、あとで「ああハリポタに出てくる呪文のWingardium Leviosaのleviか」と思いつきましたが、そういうシナプシスが瞬時につながるまでには、まだまだ長い長い時間がかかりそうです。

固有名詞を知らないと笑えない

 2の固有名詞というのは、有名なデパートとか有名人の名前などですね。どういうわけだかアメリカのドラマって固有名詞をよく使ってくる。たとえば日本のドラマならただ「これデパートで買ったの」と言うところを、アメリカのドラマだとわざわざ「これブルーミングデールズで買ったの」などと具体的なデパート名を出してくる。たぶんその人物のライフスタイルや志向をより詳しく描き出すために、ただデパートじゃなく、高級デパートなんだよ、という付加情報を付け加えているのでしょうけれど、アメリカ人ならBloomingdale’sと聞いて「ははあ、彼女金持ちだからね」と笑えるところ、こっちはBloomingdale’sがどんなデパートなのか知らないどころか、そもそもデパートであるということすら知らないのだから、笑いから取り残されてしまう。

 人物名もしかり。例えばチャームドで、「好きな野球選手は誰」と隣人に聞かれ、不老不死の登場人物がうっかり「ジョー・ディマジオ」と答え、正体がバレてしまう場面があります。ディマジオは往年の名選手。日本で言えば長嶋茂雄みたいな人で、これはわたしも知っていたから笑えた。

 でもGleeで「ジョン・ステイモス」が出てきたときには、一体それ誰?って感じでした。スターなのか、政治家なのか、歴史上の人物なのか、それすら分からない。あとで調べたところ、ジョン・ステイモスというのは、フルハウスでジェシーおじさん役をやった俳優さんなのですね。きっとアメリカでは誰でも知っているような俳優名なのでしょう。でもこっちはフルハウスを見たことがあってさえ、俳優名までは分からない。

 ことほど左様に、アメリカのドラマを見て笑えるようになるには、英語力だけでなく、こういうアメリカ人の常識を知らなければならないのだから、つくづく道は果てしなく遠いなあと感じるのでした。

知ってる単語の落とし穴

 固有名詞や病名など以外にも知らない単語はちょこちょこありますが、頻出する単語であればそのうち覚えていくのではないかと楽観しています。

 むしろそれより「知っている単語」のほうが問題。「そういう意味で使うのか」と思う場面が山ほどあります。

 例えば、ただ「The door」の一言で、「帰って」という意味だとは、連想ゲームか、って感じ。

 それから「cleared」。これが「住民の退避完了」という意味だとは、日本語で説明されなかったら分からない。しかも同じ「cleared」が何度も出てきて、その時によって「準備完了」だったり「作戦完了」だったり、何が「cleared(完了)」したのかが説明もなく、いちいち異なる。こういうのはほんとに難しい。こういうのが分かるようになる日がいつか来るのか?と疑問に思います。

 英語そのものだけでなく、言葉の背後にある膨大な「アメリカ人にとっての普通」を知らない。そこが「アメリカ人と一緒に笑う」までの果てしない道のりを感じる理由だと思います。

 まあでもドラマを見ること自体、「アメリカ人にとっての普通」を知る一歩なのだから、つべこべ言わずに見続けようと思っています。わたしはどちらかというと現代ドラマよりも歴史ドラマ、アメリカよりもイギリスに興味があるのですが、Gleeがきっかけで、アメリカの常識(=アメリカ人が普通に知っていること)を知ることにも興味が湧きました。

アメリカ人の「普通」

 今見ているチャームドも面白く、英語に関してはこっちのほうがためになるし、ドラマとしても好みなのですが、「アメリカ人にとっての普通」を知る面白さを教えてくれたのは、グリーです。

 グリーは、ストーリーが面白いというより、登場人物の一人一人が魅力的なのと、あと何と言っても歌が良かった。1エピソードに7~10くらいの歌が入っているのですが、これが往年のアメリカのヒット曲ばかり。日本人でも馴染みの曲が多いので、おそらくアメリカ人なら全部知っているんじゃないでしょうか。言わば「アメリカの懐メロ集」。Glee一つ見れば、戦後アメリカのポップ音楽史がざっと概観でき、アメリカ人が普通に知っている歌を一気に網羅することができる。

 日本語音声で見ても歌だけは吹き替えなしだったので、まずはDVDでハマり、気に入った歌はyoutubeで探して何十回、何百回と浴びるように聴きました。去年の11月から12月はもう、朝から晩までGleeの歌三昧。ドラマはシーズン3までしか見ていませんが、歌はシーズン4~6のも聴きました。

 しかしアメリカって、すごい国ですねえ。一つの高校にもいろんな人がいる。白人、黒人、ユダヤ系、ヒスパニック、アジア系、ネイティブアメリカン・・・。個人差が日本などとは比較にならないほど広い。ことほど左様に、文化も様々なら、信じている宗教も様々。まずグリーを見始めて感じたのはその個人差の大きさです。個人差がありすぎて、アメリカという国は、一つの文化としてくくることが難しい。

 でもだからこそ余計に、誰もが共有できるものの存在が必要なのかもしれません。アメリカ人としての「普通」が必要。それが、まずは英語という共通の言語であり、ヒット曲であり、有名人の名前なのでしょう。同じドラマの同じセリフに笑うことで、アメリカ人は自分がアメリカ人であるという自覚を得る。フレンズなど古めのドラマによく笑い声が入っているのも、もしかしたら新しい市民(子どもや移民)にアメリカ人として笑う場面を教える教育的配慮なのかもしれません。

世界共通の話題

 今やアメリカに限らず、世界中の人がアメリカ文化に触れています。アメリカのヒットソングの一部は世界的にヒットし、アメリカのドラマは世界中で放映されている。

 グリーにハマったとき、夫以外の人ともグリーについて語り合いたくなりましたが、その相手を探すのに全く苦労はありませんでした。なぜってオンライン英会話で「グリー」を知っている人に高確率で出会えたからです。若い女性の先生ならドラマを見たことがないまでも、たいていYoutubeで歌を聴いたことくらいはあり、「ドラマを見るのが趣味」とプロフィールに書いてある先生ならなおのこと、「登場人物で誰が好き?」「歌は何が好き?」とすぐ盛り上がれる。

 ちなみにフィンやカート、ブリタナの二人(ブリトニーとサンタナ)あたりが人気なようです。一方わたしのお気に入りはパッカーマン。タフでセクシー、ワルなクセに愛情深くて、母性本能をくすぐられる。女の子はクイン。美の化身かと思うほど綺麗で、しかも地に足がついた努力家。容姿が美しすぎて、彼女がやることは何でも許せてしまう(笑)。教師陣ではフィギンズ校長ですかねえ。なんだかんだ言って、この人が一番生徒思いな気がします。

 わたしもカート・ハメルは好きで、カート役の俳優クリス・コルファーが書いた小説があるのを知り、読みました。The Land of Storiesの一巻目、The Wishing Spellです。日本語訳も出ています。この本も「アメリカ人が普通に知っているおとぎ話」がざっと概観できるところが魅力です。

 遠い国の人と共通の話題で盛り上がれるって、とっても幸せ。オンライン英会話の先生方と話題を共有できただけでも、アメリカのドラマにハマった甲斐がありました。
 

 最後に、わたしが特に気に入っているGleeのパフォーマンスを貼っておきます。

Paradise By The Dashboard Light

これぞNew directionsの真骨頂。主役のフィンとレイチェルのコンビが素晴らしい。

I Love New York / New York, New York mashup

地方の高校生が初めて大都市ニューヨークにやって来て大はしゃき。その楽しさが伝わってきます。

Stop! In The Name Of Love/Free Your Mind mashup

めっちゃカッコイイ♡♡♡ わたしの個人的な好みかと思ったら、DMMの先生も一人、400もあるパフォーマンスの中から、これを最高のお気に入りに挙げていました。

Sing! from A Chorus Line

アジア系二人による可愛いパフォーマンス。見ている側の表情も素敵。

Sweet Transvestite from The Rocky Horror Show

歌詞の一部がオリジナルとは変わっています。transvestile、Transylvaniaと頭韻を踏んでいるtransexual(性転換した)をsensationalにわざわざ変えている。きょうびtransexualは差別用語なのでしょうか。

Summer Nights from Grease

恋バナに夢中な高校生たちが可愛すぎる♡ カートがちゃっかり女子に紛れ込んでいるのもツボ♡

 他にも、New directionsの原点Don’t Stop Believin’、こんな解釈があるのかと驚いたビートルズの I Want To Hold Your Hand、主力メンバーが抜けてもこれだけ楽しいジャクソンズのABC、美の化身クインが歌うNever Can Say Goodbye、カートによるブロードウェイミュージカルLe Jazz HotNot The Boy Next Door、これもロッキーホラーショーからTime Warpなどなど、素晴らしいパフォーマンスが目白押しです。

タイトルとURLをコピーしました