アラビア語

アラビア語を始めたわけ

 子どもの頃から、アラビア文字に憧れていました。アラビアンナイトの異国情緒が全て詰まったような、不思議な文字。いつか読めるようになりたいと、語学の本売り場をよくウロウロしていたものです。

 でも当時、英語以外の言語の学習書はとても数が少なく、非常に高価でした。それもフランス語ドイツ語ならまだしも、アラビア語となると、大学書林から四週間シリーズが出ているっきり。価格はなんと7000円! 子どもにはとても手が出ませんでした。

 ところがある日、父がアラビア語のテキストを一冊買ってきたのです。それは、当時の語学学習の常識を覆すような本でした。

 まず値段が安い!! たしか、3000円くらいだったと思います。イラスト満載! しかも二色刷! それに文字が大きい!

 今ではどれも普通のことですが、当時としては本当に画期的なことでした。30年前、語学の習得というのは、つまらなくて難しいのが当たり前。テキスト代に金がかかるのも当たり前。楽しげで簡単そうで、気軽に始められそうな語学テキストなんて、どこを探したってなかったんです。

 その本はわたしの宝物になりました。白いきれいな紙にくっきりと大きく描かれたアラビア文字をよく眺めていました。ほんの少し、覚えたりもしました。

 ところが大人になって結婚する際、転居のどさくさに紛れて、あろうことか、わたしはその本をなくしてしまったのです。たぶん実家のどこかにあるに違いない。でも実家に帰るたび探すのに見つかりませんでした。

 20年もそうやって、その本を探してきました。最後に探したのは数ヶ月前。で、そのときふと思ったのです。「これってひょっとして、家の中を探すより、家の外を探したほうが早いのでは?」と。つまり、図書館か古本屋で探せばいい。バカですねー。そんな簡単なことに気づくのに、なんで20年もかかるんだか・・・。

 まずは図書館で探しました。書名を忘れてしまっていたので少しは手間取りましたが、アラビア語のテキストなんて数が限られていますからね、割とすぐに見つかりました。図書館で予約を入れ、久々に手にしたときは、本当に嬉しかった。

 次に、アマゾンのマーケットプレイスで探しました。なんと、ほんの500円くらいで中古が手に入りました!

 嬉しくなって、アラビア語はともかく、文字だけでも読めるようになりたいと思いました。そこで、文字に特化した本を図書館でまた借りてきました。

 その本を四六時中持ち歩き、ちょっとした合間を見ては開いていたら、一週間くらいで一通り覚えてしまいました。だって、28文字しかないんですものね。一つの文字に対し、読み方は一つしかないし。

 でもこれで、アラビア語で書かれたあの『千夜一夜物語』の中から「シェラザード姫」の名前を探すことができる! 「シンドバッド」や「アリババ」の名前を、アラビア語で書ける! 嬉しかったですねえ。

 そんなわけで、目的達成。そこでひとまず学習はおしまい――になるはずだったのですが、始めたら面白くてハマってしまいました。

 しかも。 もしや「アラビア語検定」なんてのがあるんじゃないか?と思って検索をかけたら、あった!! ホントにあった! 半年前に出来たばかりの、できたてホヤホヤの検定がありました!

 ああもう、こうなりゃ文字を読めるに留まらず、アラビア語をやるっきゃない!と思いました。

―― 後日談 ――

 アラビア語検定に向け、すっかり学習が軌道にのったつい先日、また用事があって実家に行きました。そしたらなんと、くだんのアラビア語の本があるではないですか。なんのことはない、本棚の、いとも分かりやすい場所にごく当たり前に入っていました。一体なぜ20年も見つからなかったんだか・・・。

 本にはびっしり父の字で書き込みがありました。もはやこれはわたしの本ではない。もう一冊買ってソンはありませんでした。

 でも、こうなったら手ぶらじゃ帰らない! その隣に別のまっさらなアラビア語のテキストが買ってあったので、それを借りて帰りました。

 不思議なめぐり合わせもあるものです。 もしアラビア語の本が最初から簡単に見つかっていたら、今ごろアラビア語をやっていなかったかもしれません。

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