スペインで買ってきたカタルーニャ語の絵本を読みました。コレです↓
まず、表紙の絵とタイトルのCOLORという部分を見ただけで、「色」に関係するお話では?と察しがつきます。
スペイン語を知っていると、もう少し細かいことが分かります。
De quin color és un petó?
というカタルーニャ語のタイトルが、
¿De qué color es un petó?(petóって何色?)
というスペイン語に見えてくる。
ただこの petó の意味が分からない。petó って一体なんだろう?
その興味に引っ張られて、この本を最後まで読むことになりました。
各ページに書かれている文はこんな感じ:
ご覧の通り、活字に混じって、文字が一部、手書きになっています。手書き文字は二種類あって、白抜き(Groc)がまず目にとまり、次に普通の手書き文字(gira-sols)が目に入ります。
パラパラめくってみると、どのページも同じ感じ。それぞれのページごとにテーマカラーが決まっていて、白抜きが一つと、普通の手書き文字がいくつか出てきます。
手書き文字の中には意味が推測できるものがあります。たとえば上の文にある gira-sols は、スペイン語の girasoles(ヒマワリ)にそっくり。同じページにはヒマワリの絵も描かれているので、普通の手書き文字はモノの名前に対応しているんだな、分かります。
すると、白抜き文字は色の名前かな? ――そう確信できればもうこっちのもん。
Groc? M’encanta el color dels gira-sols…
という上の文はもう、
¿Amarillo? Me encanta el color de los girasoles…
(黄色かな? ひまわりの色、だーい好き)としか読めなくなる。
・・・こうして主人公のモニカちゃん(愛称はミニモニ!)は、「petóって、赤かなあ? 黄色かなあ?」と考えていきます。
でもこっちにはまだ彼女の言う「petó」っていうのがなんだかさっぱり分からない。
ただし、ヒントはちょこちょこ出てきます。
els petons són dolços com la mel
Però els petons són càlid
とか。
どうやら、petonsというのはpetóの複数形のようです。スペイン語に直せば
los petons son dulces como la miel
Pero los petons son cálidos
ってとこでしょうか。petons は、はちみつのように甘美で、暖かいらしい。
もっとヒントがあったかな?と、絵本を行きつ戻りつ、何度もパラパラしながら考えます。
一体 petons ってなんだろう?、いい加減知りたくなったところで、最後に絵で petons の正体が明かされます。
いやー、面白かった! よく出来てました。
しかしこの本、一体、誰のために書かれたんでしょう?
子どもの絵本売り場で見つけたので、カタルーニャ語を母語とする子ども向けかな、とも思えます。でもそれにしてはどうも出来すぎな気が・・・。
カタルーニャ語話者なら子どもでも、petó が何か知っているはず。なのにこの本は petó の正体を絵で明かさず、ヒントを小出しにして最後まで興味を引っ張る。まるで読者が petó(複数形:petons )の意味を知らないことが前提であるかのよう。
もしかしたらこの本、カタルーニャの子どもだけでなく、スペイン語話者に読んでもらいたいと思って書かれたのかもしれません。
この本はスペイン語を知っていれば、推測で9割理解できます。color(色)、bicicleta(自転車)、casa(家)、pintar(描く)のようにスペルが全く同じ単語もあれば、és や són(いずれもbe動詞の変化形)のようにアクセント記号がついているだけのもの、cosas(モノ)が coses、más(もっと)が més、pero(しかし)が peró、madre(お母さん)が mare、porque(なぜならば)が perquè のように、ほんのちょこっと違うだけのものが大半だからです。
amarillo と groc(黄色)、rojo と vermell(赤)のように全く似ても似つかぬものもありますが、そこは書体を変えることで、単語の対応を見失わないように配慮されています。絵も理解の助けになります。
読者はこの本を見ながら、スペイン語とカタルーニャ語の対応に自然に慣れていくことができます。
たとえば定冠詞:
スペイン語 | カタルーニャ語 | |
---|---|---|
男性単数 | el | el |
女性単数 | la | la |
男性複数 | los | els |
女性複数 | las | les |
単数は男女共にスペイン語と同じ、複数は異なるな、と分かる。整理してみると、上の文でスペイン語なら de los になる部分が dels になるのも納得。e を一つ省略したのですね。
スペルの対応関係もうっすら見えてきます。スペイン語よりも子音で終わる単語が多く、スペイン語よりも有声音が少ない印象。スペイン語の d がカタルーニャ語では t 、z が s、l が ll に変わる場合も多いみたい。
スペイン語では x で始まる単語は稀ですが、カタルーニャ語でチョコレートは xocolata。ちなみにこの x をどう読むんだろうと思って forvo で聞いてみると、フランス語のchのように「シュ」と読むんですね。
スペルも、ç(セディーユ)があったり、アクサンがついている単語が多く、ちょっとフランス語っぽい。vent(風)のように、スペイン語よりむしろフランス語とスペルが同じ単語もありました。(しかも最後の t を読まないらしい!)。
グラナダから初めてバルセロナに降り立ったとき、カタルーニャ語に関して、何も知りませんでした。空港の案内板で何か違和感のあるスペルを見たときも、スペイン語以外が書かれているとは考えつかなかった。「plaça(広場)」という単語を見て初めて、「さすがにこれはスペイン語じゃない。なら何語だ?」と考え、カタルーニャ語かと思い当たったのです。
空港からホテルまでの移動中は、重い荷物を携え自由に動けない状態で、頼りの案内板がもう一つはっきり理解できないのに参りました。特に「 amb 」という単語。よく見かけるのですが、最後まで意味が推測できなかった。この単語を目にするたび、言葉のわからない不安に襲われました。
その amb がこの本にも何度か出てきて、その使われ方から、どうやらスペイン語の en や con にあたる前置詞らしい、とわかりました。
爽快でした。amb が何か分かった今、カタルーニャ語は「全く知らない言語」という気がしなくなりました。
なんどもページを前に繰り、後ろに繰り、「ああかな、こうかな」と推測しながら、半日かけて読みました。ちょっと高いかな、と思ったけど、買ってよかった。これだけ楽しめば、16€の値段の元もとれたかな、と思います^^。