ドイツ語

振り出しに戻っても

 久々にドイツ語をやりなおして分かったことは、放置して振り出しに戻っても、またやり直せばいい、ということです。

 5年間、完璧なまでに放置していたドイツ語、ものの見事に、忘れてしまっていました。なんせ過去形の存在を忘れていたくらいですから、あとは推して知るべし。まず単語が全く思いだせない。「ich(わたし)」はなんとか思いだせたものの、「Sie(あなた)」がもう分からない、というくらいの忘れようでした。

 でも、そういうのは一度見れば思いだすんですね。・・・いや、体感的には、思いだしているかんじはしない。気分的にはまた一から学んでいるかんじ。でも不思議と、一度で覚えられる。・・・てことは、やっぱり思いだしていたのかな、と思います。普通は一度みただけで覚えられたりはしませんから。

 覚えている感じもなければ、思いだす感じでもない。気分的にはほんとに、もう一度最初から学んでいるかんじ。だけれどその学ぶ速度が異常に速い。見る見る間に単語を覚え、アッという間に文の形に慣れていく。

 特に最初の2週間くらいの勢いたるや、すごいものでした。猛スピードでドイツ語がどんどん読めるようになっていく。「これはまだ難しくて読めない」と脇に押しやった本が、2、3日後にはもう読める。そんな自分に、「ひょっとしてわたしは天才か?!」と思ったものです(笑)。

 カンペキに忘れているとはいえ、一度通った道。だから抵抗が少なかったのでしょう。面白いようにスイスイグングン突き進んでいかれました。読むテキストは前回とは違うものでしたから、中にはこれまで知らなかったことも相当混じっていたはず。でも勢いがついているせいか、新しく学ぶことまで一緒に巻き込んでいく。

 結局、どれが一度は学んだことで、どれが新規に学ぶことやら区別もつかないまま、台風の目のような勢いで突き進み、気付いたら、どう考えてもこれまでに到達したことのない領域に足を踏み入れていました。

 ・・・とこう書くと、なんだかすごい実力に到ったかのようですが、まあ以前の実力の頂点というのが「動詞は現在形のみ」「語彙数500」ですから、超えるのはわけなかった。

 一度転がり始めた石は、簡単には止まらない。未踏の領域に達してからも、2か月間、そのままコロコロコロコロ転がり続けました。時間が経つにつれ、徐々に勢いが衰え、スピードが落ちていきつつも、慣性でコロコロコロコロ。いやー、楽しかったです。

 こういう経験をしたので、わたし、忘れることが怖くなくなりました。以前は、一度学んだ言語でも、何年も放置すると、どんどん退化するのが、もったいなくてしょうがなかったんです。この退化をなんとか食い止める方法はないものかと思い、外国語学習に関する本を山ほど読んで探したものです。

 以前もご紹介しましたが、ある日「外国語の学び方」という本(絶版)に、こんな記述をやっと見つけ、以来、これだけを心のよりどころとしていました。

 ある水準にまで達しないうちに中止した外国語は、何年かやらないでいると、結局ぜんぜん習わなかったのと同じことになり、また始めからやりなおさなければならないことになります。ところが、ある水準まで(少なくとも小学校上級程度)習っておけば、たとえ10年ぐらい中絶しても元どおりすぐに使えるようになります。

外国語の学び方

 手っ取り早く言えば、「放置できるレベル」というのがあるということです。そのレベルまで一度持っていきさえすれば、いくら放置しても大丈夫、という。だからわたし、この放置レベルを目指していました。

 でもね、今回みたいなことを経験してしまうと、「また始めからやりなおし」っていうのも悪くないな、と思います。だって本当に楽しかったから。この楽しさは、一度全部忘れて、また最初からやり直しだったからこそ経験できたこと。覚えていたら経験できなかったのだから。

 第一、5年も放置したということは、その間ずっとドイツ語を必要としていなかった証拠。必要としてもいないものに執着し、後生大事に溜めこもうなんて、欲張りもいいところ。とっくに飽きちゃったおもちゃを弟に譲れない子どもと同じ。そんなに大事なものなら、せっせと磨けばいい。磨く手間を惜しむなら、それはきっとそんなに大事じゃないのだ、と。

 長らく放置した言語は潔く忘れ、また必要になったら、もう一度最初からやり直せばいい――そう思いました。

 実をいうと、今すでに、一か月前に比べ、本が読めなくなってきています。今だって決してドイツ語に全く触れていないわけではないのですが。毎日少しは何かしら読んでいる。それでもドイツ語のみにどっぷりだった頃に比べると、多言語な今、付き合いの浅いドイツ語は、他の言語に負けてしまうのでしょう。

 ほんと最近、不思議なくらい、ドイツ語が読めない。すぐ近くにあるように感じられた単語の網が、まるでケシゴムで消したみたいに薄く、遠くに感じられる。

 でもま、いっか。またドイツ語にハマる日がきたら、きっとまたすぐ読めるようになるから。

 そしてまたターボエンジン全開!で邁進し、ついでにまた新しいことまで巻き込んでいけたら・・・なんて虫のいい期待をしています^^。

ドイツの家庭菜園クラインガルテン。
地方自治体が低料金で貸し出す100坪程度の土地。
都会ほど人気が高く、10年待ちのことも。

巡礼すれば病や怪我が癒えるという奇跡の教会ヴィースキルヒェ。
野のなかにポツンとあって、中は豪華絢爛でした。

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