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【 ブルネイ旅行記5 ブルネイへ 】
アンバサダーホテルをチェックアウトしたのは朝の8時。
搭乗券はもう持ってるし、出国などの手続きは必要ないけれど、
よく考えてみると、9時の搭乗開始時刻まで、そう余裕があるわけでもない。
とにかく朝食を食べなくちゃと思い、
ハンバーガーを買い、搭乗口まで持っていって食べることにした。
搭乗口の待合室には、セキュリティチェックを受けないと入室できないようになっていた。
バッグの中には小さなハサミを入れていたので、
チェックがスムーズに済むようにと思って、バッグから出し、別にした。
ところがこれがヤブヘビ!
ハサミは機内に持ち込めないと言われてしまった。
ではどうすればいいのかと尋ねると、「荷物と一緒に預かりましょう」。
けれど、それはできない相談だった。
今日は王宮参賀の最終日。
少しでも早くホテルに着きたい。
変則的な預け方をした出てくるかこないか分からない荷物を、
到着空港のバゲージクレイムでちんたら待ってるヒマはない。
だから答えは決まっていた。ハサミを諦めるしかない。
ゴメンね、ハサミ。小さなハサミ。
20年前から愛用している黄色いハサミ。
余計なことをしさえしなければ、一緒にブルネイへ行かれたかもしれない、
プラスチック製の小さなハサミ。
あなたを異国の地のゴミ箱行きにしてしまって、本当にゴメン‥。
ああ、これがもし成田だったら。
日本語のパスポートを所有した日本語ペラペラの日本人というだけで、
ある程度の信用が勝ち取れるのに。
しかも正直に申告しているんだもの、情状酌量があってもおかしくはない。
だけどここでは異邦人。何らよるべのない異邦人。このマレー人係員に、
自分がハイジャッカーにはなりえないことを、一体どうやって証明すればよいのだろう。
ハンバーガーセットについてきたコーラが飲みきれないので、
捨てる場所を係員に聞きに行くと、ハサミはまだそこに置いてあった。
うさぎは、「持ってっちゃダメ?」って係員に目で訴えてみた。
だけどそんなの、通じるわけがない。
その後も未練がましくハサミの側をウロウロしてみたけど、
結局ハサミを救うことはできなかった。
ブルネイ行きの飛行機の待合室は、褐色の肌をした人たちばかりだった。 肌の黄色い東洋人はほとんどおらず、欧米人もいない。 まだシンガポールにいるのに、これからシンガポール航空に乗るのに、 もうブルネイにいるみたい。
だけど飛行機に乗り込んで窓の外を見ると、 シンガポール航空機とシルクエア機がずらりと並んでいた。 やっぱりここはまだシンガポールだ。
搭乗して席に落ち着き、何か面白いものはないかとポッケの中を物色していると、 搭乗から随分時間が経っているのに、まだ離陸していないのにふと気がついた。
なぜだろう? 窓際の席でないため、外の様子がよく分からない。 何かトラブルでもあって、チェックでもしてるんだろうか。 でもそれにしては、ときどき少しづつ前に動いているような‥?
そうこうするうち、とつぜん機体がググっと旋回し、向きを変えた。
すると窓の外には、ずらりと並んだ飛行機の列が‥!
それでようやく訳が分かった。
渋滞してたんだ!
って。
機体が旋回したのは、滑走路に入ったため。
この飛行機も、ついさっきまで長い列の中で順番待ちをしていたとみえる。
飛行機が走り出すと、きりんとうさぎは窓の外に流れていく飛行機の数を数えた。
‥6、7、8、9!
我々の後ろの列に並んでいるだけで9機!
滑走路脇のスペースにはそれ以上並びきれず、
列の最後尾を目指してターミナルビル付近からのろのろ進んでくる飛行機が更に数機。
うさぎたちの飛行機の前に飛び立ったのまで数を入れると、
一体何機が渋滞してたのだろう。
「飛行機が渋滞するなんて、初めて知ったね」ときりんと二人で大笑い。
そういえば、さっき電光掲示板を見たとき、
シンガポール航空機だけでも8時半発の便がずらりと並んでいたっけ。
出発時刻が同じということは、準備が整った飛行機から順に、
早いもの勝ちで飛び立つということなのね。
さて、飛行機が離陸してしばらくすると、思いがけず機内食の案内があった。
「なーんだ、ここで食べられるなら、ハンバーガーを買う必要はなかったな」
と悔しがるうさぎ。
「ナシゴレンの方がいい方〜!」と、トレーを両手に抱えた男性クルーがやってきたので
もらってみた。だってこれからマレー人の国、ブルネイへ行くのだし。
ところがあんがい、ナシゴレンを貰った人は少なかった。 日本人のうさぎがナシゴレンに挑戦しているというのに、 ブルネイ人とおぼしき周囲の人々のほとんどは、西洋風のタマゴ料理なんか食べている。 窓枠には、ハリラヤ真っ只中の回教国へ向うというのに、クリスマスオーナメント。 なんだか拍子抜けしてしまった。
2時間ほどの飛行時間は、退屈するヒマなどあらばこそ。 機内食をゆっくり食べ、そのあとブルネイの入国カードの記入にかまけていたら、 アッという間に時間は飛び去った。
ところでこの入国カード、住所の欄はたったの30マス。 これでは我が家の長い住所はとても書ききれない。 仕方がないので、しばらく記入欄とニラメッコした挙句、 途中をはしょって書くことにした。
翻って、名前の記入欄はやたらと長い。 数えてみたら、40マスあった。
4人分の入国カードの記入が終わると、もうブルネイ到着は目前だった。
長い住所と短い名前を持ったうさぎたちは、いよいよ
短い住所と長い名前を持った人々の国に降り立つのだ。