子供の頃に住んでいた家には、小人(こびと)がいました。 だってすぐにモノがなくなるの。 爪切り、定規、書きかけの手紙‥。 「確かにここに置いた」と思うところに、見つからない。
たとえばあるとき、模擬試験の前日に、 受験票や筆記用具を入れたバッグを分かりやすいところにちゃんと準備したはずだったのに、 朝になったら、ない。 30分ほど必死で探したけれど、見つからない。 家族みんなに聞きまわったけれど、誰も知らないという。 仕方がないので模試には受験票を持たずに行き、 係員に事情を話して会場に入れてもらいました。
受験票がバッグごと見つかったのは、その数日後でした。
妹の部屋のフックに何くわぬ顔でかかってた。
「一体どうしてそんなところに‥!」と思ったら、その犯人は母でした。
それは妹から借りたバッグで、
「あらこんなところにバッグを置きっぱなしにして」
と、母が妹の部屋に片付けてしまっていたのでした。
なのでうさぎは疑ってるの。
きっと他の小人の正体も、母だったんじゃあないか、って。
その証拠に、結婚してきりんと二人で住みはじめた新しい家には、小人が住んでいませんでした。 爪切り、定規、書きかけの手紙。 全ては自分が置いたところに、いつまでもちゃんとありました。 う〜ん、清清しい日々!
ところがね、最近この家にもどうも小人が住みついちゃったらしい。
それもパソコンの中にまで入ってくる。
だっておとといスパイダーソリティアをやろうとしたら、プログラムファイルが見つからないの。
スタートボタンの"すべてのプログラム"の中にすら。
きっときりんがどこかにしまったのねと思い、尋ねてみたけれど、「いや、知らない」。
「ホントに知らない? ホントにホント? わたしがゲームで遊んでばっかりいるので、
親心から隠したとか」としつこく尋ねるうさぎ。
「知らないってば。また自分でどっかにやっちゃったんでしょ」ときりん。
うさぎはきりんがどこかに隠したと思い、きりんはうさぎがどこかにやってしまったと思い‥。 ‥って本当かしら? やっぱりきりんが隠したんじゃないかしら? でもどこに? だって、「すべてのプログラム」の中にも見つからないのよ。 きりんたら、一体どこに隠したんでしょ。
‥いえ、別にいいんだけどねー、スパイダーソリディアがなくったって。 別にいいんだけど、ただ不思議でしょ? 一体どこに行っちゃったんだろう、って。
ところがところが、きのうの夜のこと、そのなくなったはずのスパイダーソリティアを
ネネが開いているではないの‥!
「ちょっとアンタ、それどうやって起動したの?!」
「えー? ただ普通にダブルクリックしただけ」とネネ。
「だって、最近行方不明だったでしょ? 一体どこで見つけたの?」
「どこに‥って、ネネちゃんのゲームフォルダの下じゃないの?」
「なんでそんなところに‥」
「なんで‥って、ネネがここに置いたからじゃないの?
簡単にドラッグして移動できるんだよ、ほらっ」
「‥ちょっと待った! それはプログラムファイルでしょうがっ!
ショートカットならともかく、実体プログラムを気軽に移動しないでよねっ!」
「えー? そうなのー? これ実体なんだー。ふーん、そうなんだー」
‥あーあ、無邪気な小人がここにも一人‥。 実はさっきもお風呂場に別の小人が出現したの。 お風呂場の床を真っ黒なホコリだらけにしていった。 尤も、そのホコリがどこからやってきたのかはすぐに分かった。 ドアの下の通気用ジャロジーの隙間から出てきたに違いないって。
でも問題は、「どうして突然、詰まっていたホコリが出てきたか」ってことよ。
気圧とかの関係で噴き出したのかなあー?
それともドアを勢いよく閉めたはずみで?
‥もうひとつ腑に落ちないわ。
そこでチャアにそれとなく尋ねてみたのよね、
「もしかして今日、誰かお風呂場のドアを掃除してたりなんかした‥?」って。
「ああ、やったやった。チャアが掃除したよ♪」と無邪気なチャア。
「‥ああそう、それはありがと。
でもできれば、掘り出したホコリを片付けるところまでやってほしかったわ。
お風呂場がホコリだらけよ」
「えっ、そう? ふーん、そうだったんだー。じゃああとで片付けとくよ」
ふう‥、まったく思いがけない展開だったわ。 この子ったら、自分の部屋は散らかし放題なのに、突然そんなところを掃除しはじめるとはね。
――うちに小人を二人も飼っているんじゃあ、この先が思いやられます。