来年の2月、マルタに行くことにしました。そう、あの猫で有名なマルタ島です。
早速マルタ語を始めました。
マルタの言語事情
マルタは地中海はシチリア島の沖合いに浮かぶ小さな島です。周辺のほかの島と共にマルタ共和国を形成しています。地理的にはヨーロッパ。宗教的には国民の98%がローマンカソリックというバリバリのキリスト教国。なにしろマルタ騎士団の本拠地だったところですから。
マルタの公用語は英語とマルタ語。 地中海の島で英語が 公用語 というのはちょっと意外な感じがしますが、半世紀前まで英領だったからです。
でももっと意外なのはマルタ語のほう。 実はアラビア語によく似ているのです。いや似ているどころかアラビア語の方言の一種とも言われています(Wikipedia「マルタ語」参照)。
実際 Utalkで聞いてみましたが、本当によく似ています。特に文法はまんまアラビア語。定冠詞もアラビア語のノリです。
ところが単語は英語やイタリア語っぽいのが多い。アラビア語の文法の上に英語とイタリア語の単語が載ってる感じです。
ごく簡単な挨拶だけ見ても、様々な言語が混ざり合っています。
万国旗みたいな挨拶
英語
マルタ語の挨拶はまず英語っぽく始まります。
こんにちは Hello. ハロー
発音はまんま英語です。まあもう一つの公用語は英語ですからね、驚くにはあたらない。
フランス語
でも「おはよう」とか「こんばんわ」って言いたいときもあるじゃないですか。するとなぜかこれはフランス語っぽい。
おはよう Bongu . ボンジュ
こんばんは Bonswa. ボンスワ
正書法が違うので、フランス語とスペルは違いますが、Bonjour、Bonsoirと音は似ています。
アラビア語
そして「元気?」と言おうとするといきなりアラビア語になります。
元気? Kif inti? キフ インティ?
元気です Tajjeb(男性)タイェブ
元気です Tajba(女性)タイバ
話者の性別により答え方が違うところもアラビア語っぽいですね。
イタリア語
「元気です」のあとに「ありがとう」と付け加えようとすると、今度はイタリア語になります。
ありがとう Grazzi グラッツィ
波乱に満ちた歴史
なぜこんな万国旗のような言語になったのでしょうか。それは歴史をひもとくと分かります。マルタ島は地中海の要衝にある島。それゆえ様々な民族が侵入を繰り返してきたのです。
5900 BC | シチリア人渡来 |
1000 BC | フェニキア人植民 |
700 BC | ギリシャ人定住 |
332 BC | カルタゴが征服 |
218 BC | ローマが征服 |
870 | アラブが征服 |
1127 | ノルマン人が征服 |
1479 | スペインが征服 |
1530 | マルタ騎士団の所領に |
1565 | オスマン・トルコを撃退 |
1795 | ナポレオン軍が征服 |
1814 | イギリス植民地化 |
1964 | イギリスから独立 |
2004 | EU加盟 |
まさにヨーロッパ史の縮図。それぞれの時代の覇者が勢ぞろい。ノルマン・コンクエストってこんなところまで来ていたんですね。
しかしそれにしてもベースがなぜアラビア語なのでしょうね? アラブ人が住み着いてから後1000年以上も様々な民族の支配が交代し、街並みとか宗教とか、写真を見る限りではどこもアラブっぽくないのに、言葉だけがアラビア語。不思議ですね。
楽しい語源さがし
マルタ語で面白いのは、語源探しです。
たとえば数字や疑問詞はアラビア語にそっくりです。彼がhuwaなんて、思わず嬉しくなってしまいますね。男性(irġiel)や女性(nisa)、女性や、水(ilma)とかパン(ħobż)、牛乳(ħalib)、ワイン(inbid)・・・。「はい(Iva イーヴァ)」とか「いいえ(Le レー)」は、口語に近いですね。主語が一人称単数のときの動詞活用がnの音で始まるところもチュニジア方言に似ています。
「すみません(Skużani)」はイタリア語のscusamiに似ています。歌(kanzunetta)、宮殿(palazz)、国(pajjiż)もイタリア語のcanzone、palazzo、paeseにそれぞれ似ています。イタリア語を知っていたら、もっといろいろ分かって面白いでしょうね・・・。
単語や短いフレーズのルーツは割と分かりやすいのですが、それでも時々全く分からないのがあります。たとえば
お願いします jekk jogħġbok ヤク ヨージボック
これ、最初は全く分かりませんでした。
でも何度も自分で言ってみたら閃きました。これは正則アラビア語でいえばこんな感じかなと:
إذا كان يعجبك (もしよかったら)
実際試しにjekkの部分だけをgoogle翻訳にかけてみたらifの意味でした。
面白いのは、それまで何度聞いても全く覚えられなかったこの表現、構造が分かったらすぐ覚えてしまったことです。言葉というのは、納得がいくと覚えられるのかもしれません。
あともう一つ、なかなか分からなかったのが
バス xarabank シャラバンク
なぜバスが「シャラバンク」なのか。
かなり頑張って調べたところ、これはどうやら「馬車」を意味する古い英語のcharabanc、もしくはその語源にあたる同じ意味のフランス語char à bancsから来ているようです。古風な響きが素敵ですね。
文字と発音
マルタ語がアラビア語と違うのは、文字と発音です。
文字はラテン文字ベース。但しアラビア語特有の音を表すため、英語やイタリア語にはない、見慣れない形の文字がいくつかあります。上に点があるċ ġ żや横棒のあるħとgħ、それにie。最後の二つはいずれも一つの文字です。
マルタ語ではアラビア語特有の音がいくつか退化し、類似の音と区別しなくなっています。「ح خ」「ع غ」「ت ث ط」「ذ ظ」「س ص」「د ض」。これは日本人学習者には朗報ですね。
その代わりマルタ語にはアラビア語にない西洋言語の音があります。たとえばċ(cheezeのch)やp(pizzaのp)、z(pizzaのzz)g(gameのg)です。これは日本人にも馴染みのある音ばかりなので、ノープロブレム。また母音は、アラビア語は3つだけですが、マルタ語は6つ。そのうち5つは日本語のアイウエオに似ており、残る一つieも、正式にはiɛですが、i:と発音しても良いそうです。
ħはアラビア語のح 、għはع にあたるようです。いずれもアラビア語ほど喉をこすらないで発音しているように聞こえます。
マルタでは英語も公用語なので、現地でマルタ語を話そうとは思っていません。ヤクヨージボクとシャラバンクを覚えただけで、もう達成感。ただ面白いので、覚えようとはせず、気楽に楽しみたいと思います。
マルタ語の教材
マルタでは英語も公用語なので、マルタ語ができなくても困ることはないと踏んでいます。そもそも、マルタ語を学びたくても、教材がほとんど見つからないのが現状です。
日本語で読めるものとして、 大学書林のマルタ語基礎1500語があるようです。
ネットで学べるものとしては、前述のUtalkアプリのほか、Langufocusのポールさんがyoutubeで解説しておられます。あと、Google翻訳がマルタ語をカバーしているのはありがたいことです。