英語スペイン語

単数形としてのthey them

 つい先日、DMM英会話で性転換をした人の話をしたとき、その人のことを「彼」と呼べばいいのか「彼女」と言えばいいのか分からなくて困りました。

 現在は女性なのだから「she」で統一するべきだったかもしれない。でも性転換をする前は男性だったのだからその頃の話をするときは「he」にするべき?と思って混乱し、「he」を「she」に言い直したり、逆に「her」を「him」に言い直したりして、めちゃくちゃな英語になりました。

 英語って不便ですよねえ、いちいち性別を気にしなくちゃならなくて。日本語なら普通に「その人」って言えばいいから問題ないのにね。

性差を区別しない英語表現

 同一人物に対してhe と she、him と her を混用したメチャクチャな英語を聞いて、先生が助け船を出して教えてくれたのは

性別に言及したくないとき、もしくは性別不明の場合、一人(単数)であっても、he, she 、him, her の代わりに they, them を使う

ということでした。

 初めて知りました。そんなこと、今まで読んだどの英語テキストにも載っていなかった。でもジェンダーのあり方が多様化する昨今、そのうち高校の英語の文法書にも載るかもしれませんね。

 そういう用法を知った上でネット検索をかけてみると、けっこう解説ページが見つかりました。ウィキペディアにもありました。

単数のthey - Wikipedia

 さて、気になるのは、単数として they を使ったとき、動詞活用はどうなるか、です。「もしかして動詞に三人称単数のsをつけるかな?」と思ったのですが、動詞活用は they のままのようです。

 たとえば「その人は男性だった」と言いたいときは「*They was a man」じゃなく「They were a man」。文法的には複数扱いのまま、ただ意味だけが単数になるわけです。

 LGBTに関する話題に限らず、この「単数のthey」、使えそうです。ちょこっと言及したい人の性別が不明なときってあるじゃないですか。そういうとき、これまでは勝手にどちらかの性別に決めて話していましたが、今後は中立的な「単数の they」を使おうと思います。

スペイン語の elle

 ちなみに、これもDMM英会話の先生から聞いた話ですが、スペイン語にも英語の「単数のthey」のような用法があるそうです。

スペイン語で性別を伏せたい場合、él, ella の代わりに elle、複数形 ellos / ellas の代わりに elles、直接目的語の la, lo の代わりに le を使う。形容詞の最後の -o、-a も -e に替える

のだそうです。

 調べたらスペイン語のwikipedia にもありました。

https://en.wikipedia.org/wiki/Elle_(Spanish_pronoun) 

 ただこの言い方はまだ一般的とは言えず、人の反発を買う可能性があるので、使用には注意が必要とのことです。

 しかし将来、もしこの使い方が一般化したら、今までスペイン語で言えなかったことが言えるようになります。

 たとえば

  • She was the first doctor in the history.
    (彼女は歴史上最初の医師であった)

をスペイン語で言おうとすると

  • Ella fue la primera doctora en la historia.

となります。しかしスペイン語ネイティブによれば「この文を見たら、ほとんどの人が『彼女は歴史上最初の女医であった』と受け取るだろう」とのこと。では「彼女は歴史上最初の医師(性別関係なく)」であることを明示する言い方があるかと問うと「難しい」とのこと。誤解されると分かっていても、上のような言い方にならざるを得ないそうです。

 しかしもしここで elle が使えれば

  • Elle fue le primer doctor en la historia.
    (その人は歴史上最初の医師であった)

とかなんとか言うことができ(医師の部分がこれでいいのか不明ですが)、ジェンダーの呪いからこの文を解き放つことができるわけです。

中立的な表現

 性別にかかわらず使える表現を英語で gender-neutral language と呼びます。たとえば

  • steward / stewardess ⇒ flight attendant, cabin crew
  • businessman ⇒ businessperson

などが、英語におけるジェンダー中立化の例です。日本語にもあります。

  • 看護婦 ⇒ 看護師
  • ガードマン ⇒ 警備員

 こうした変化は職業名に多く見られるものの、人間関係にもあります。たとえば

  • brother / sister ⇒ sibling
  • husband / wife ⇒ partner

 二番目の例 partnerという単語は gender-neutral(性別により区別しない)であると同時に marital-status neutral(既婚か否かを区別しない)でもあります。husband / wifeとは異なり、婚姻関係にないカップルでも使えるからです。ちなみに marital-status neutral化の代表例は以下のとおり:

  • Miss. / Mrs. ⇒ Ms.

 スペイン語で英語の partner にあたる単語は pareja です。ただスペイン語の pareja は「カップルのどちらか一方」(一人)だけでなく、「カップルの両方」(二人)を示すこともあるので、ちょっと紛らわしい。でも元は「カップル」から来ているだけに気軽なデート相手に対しても使うようです。

 日本でも若い世代を中心に、配偶者のことを「相方」「連れ合い」「連れ」などと呼ぶ人が増えました。事実婚や同棲カップル間でも使い、日本ではジェンダーニュートラルであることより、むしろ婚姻に関する中立性が好まれているようにも思えます。

 とまれ、国を問わずこうした中立的な表現が好まれる背景には、自分を規定する様々な概念から自由になりたい人が増えているということがあるのかもしれません。

 

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