少し前のことになりますが、以下の動画を見ました。
アメリカの旅系ユーチューバーが、東京とソウル、シンガポールの魅力を比べた動画です。
見どころの多さ、食事の美味しさ、交通機関・タクシーの便利さ、物価の安さ、英語の通じやすさといった観点でそれぞれ比較しており、たとえば食事の美味しさや物価の安さでは東京が一番、シンガポールは移動がしやすくて見どころが多く、景色の美しさではソウルが一番といった評価でした。
この動画で一番わたしが関心を持ったのは、英語の通じやすさです。英語圏であるシンガポールは別格として、ソウルと東京はほぼ同等、東京のほうが若干英語が通じやすいという評価でした。わたしは韓国人のほうが英語が得意だと思っていたので、ちょっと意外でした。
ただこの話には続きがあります。
Even though people speak English a little bit better in Tokyo, they don’t generally want to talk to you that much. They just keep to themselves, which is totally fine.(中略)
But everyone in South Korea is so friendly and so willing to talk to, even though a lot of them didn’t speak English, they would gesture to us and when we were having a hard time, they were so willing to help us out.
東京の人の英語のほうが多少マシだけれども、概して東京の人はあんまり話したがりません。東京の人は人と関わらない。まあそれは別に悪いことじゃないんですけどね。
でも韓国ではみんなすごくフレンドリーで、喜んで話しかけてくるんです。英語が話せない人も多いけれど、身振り手振りを使って、わたしたちが困っているときも喜んで手を差し伸べてくれました。
Seoul vs Tokyo vs Singapore (Finding the GREATEST CITY!)
親切にしてもらったという印象があったからか、この二人のソウルの印象は爆上がり。他の動画でも何を見ても「ビューティフォー!」の連発でした。
それに比べ、東京に関して、彼らはどんな印象を持ったでしょうか。わたしはこの動画を見て、外国人の友人が言っていたことを思い出しました。彼女が東京にやってきたとき、ホテルから駅までの道が分からなくて、英語で三回道を聞こうとして、三回とも、口を開きかけた途端、避けられてしまったと。さすがに四度目はチャレンジする気になれず、なんとか自力で駅にたどり着いたそうですが、しょんぼりしていました。
道を聞かれた方にもそれぞれいろんな理由があったのかもしれませんが、やはり一番は「英語が話せないから」ということだと思います。あと「ろくに英語が話せないクセに、出しゃばってる」と周りの人に思われるのが怖いのかもしれない。
「外国人とみると英語で話しかける日本人がいるけど、外国人にはいい迷惑」なんて言う人までいますから、それで余計萎縮してしまうのでしょう。
でもそれは考えすぎだとわたしは思います。その証拠に、そういうことを言うのは日本人であって、「しょっちゅう日本で話しかけられて辟易している」と言っている外国人に直接会ったことはない。「外国人にみだりに話しかけるな」というのは一種のけん制で、出る杭を打ちたくなる悪しき日本人の習性じゃないかと思います。いやもう、英語で道を聞かれて答えるなんて、実際は「出る杭」ですらないんですけどね。
そういえば、前述の彼女と渋谷で100均に行ったとき、英語で喋りながら店内を見ていたら、次から次へと外国人に英語で話しかけられました。「英語が話せる人がいる!」と思うと、ああ助かったとばかり、パッと顔を輝かせて近づいてくるんですね。「〇〇はどこにありますか?」とか、「これって本当に全部100円なの?」とか「このマーカーってブラックボードにも使えますか?」とか。わたしは店員じゃないから、全ての質問に適切に答えられるわけではない。英語だって完璧じゃない。でもそれでいいじゃないですか。できる範囲で最善を尽くせば。完璧な対応ができないからと避けるよりはずっといいとわたしは思います。
まあ海外では、道を知りもしないのに、でたらめな道を教えてくれる自称親切な人がけっこうな頻度でいて、それはそれで困りものなので、程度問題だとは思いますが、少なくとも、日本人に英語で話しかけられて困る外国人より、日本人に英語で話しかけたいと思っている外国人のほうが、数的にははるかに多いんじゃないでしょうか。
5月に行ったニュージーランドで、道端で地図を見ていると、遠ーくのほうからやってきて「何かお困りですか?」と話しかけてくれる人に何度も出会いました。そういうとき、たとえ助けを必要としていなくても「話しかけられて迷惑」などとは思わず、「この国の人って親切だなあ」と好感を持ちました。だからたぶん日本を訪れる外国人も同じ気持ちだと思う。
英国の慈善団体が毎年公表している「世界人助け指数」において、2023年、日本は世界142か国中「見知らぬ人への人助け」が最下位に輝いた(?)そうです。
まあわたしはこのデータに関してはわたしはけっこう懐疑的で、日本人が世界一薄情だとは思っていないんですけどね。だってこのアンケートって自己申告なんですよ。「あなたは最近、困っている見知らぬ人に手を貸しましたか」と聞くんです。そんなの、電車で席を譲ったとか、道を聞かれて答えたくらいのことをしていたとしても、謙虚な日本人が素直に「はい」にチェックを入れるわけがないじゃないですか。
また、言語によって言葉のニュアンスや重みが違う可能性もあります。たとえば日本語の「人助け」という言葉は、英語の「help」よりも重い気がする。そうした翻訳による齟齬や国民性を勘案していないのだから、数字のお遊びに過ぎない気がします。
そういう、一見客観的に見えるけど当てにならないデータよりも、わたしは冒頭の動画のような個人の実体験と感想のほうがむしろ気になります。
ただまあ、だからといって「韓国人のほうが日本人より親切」とは思いませんけどね。わたしは懐疑的ですから「もしも彼らが白人でなかったら」という「IF」を考えてしまいます。
日本でも西洋人への憧れはありますが、西洋人の容姿を理想とするルッキズムが明確な韓国はもっと極端。自分よりも肌の色が明るいか暗いかで、韓国人は明確に態度を変えると聞いたこともあります。自分よりも肌の色が明るければ尊重し、暗ければ見下すというのです。日本ではそこまで容姿で人を差別する風潮はないので、西洋系ではない別の人種がソウルと東京を訪れたら、また違った評価になるかもしれません。
つまり、わたしが言いたいのは「日本と韓国、どっちが上」とか「日本は世界何位」とかいう話ではないのです。
わたしが言いたいのはひとえに「英語に自信がないという理由で外国人は避けるのはもったいない」ということです。「おもてなし」の看板に偽りありというのが、まず日本のインバウンドにとって勿体ない。そしてそれ以上に、自分にとって貴重な経験を逃すのはもっと勿体ないと思います。
ニュージーランドの人々のように、自分から近づいて行って話しかけるほど積極的でなくても構いませんが、でも実際多くの日本人がそうであるように、外国人とうっかり目が合って英語で話しかけられたりしないよう、できるだけうつむいている、っていうのもどうかなと思います。
万が一外国人から英語で話しかけられてもいいじゃないですか。ちょっとばかり冷や汗をかくかもしれないけれど、それもいい経験。こうした経験は自分に新しい風を吹き込み、時に新境地を開くきっかけになります。