日本時間夜中の2時半という真夜中にシンガポールに到着した。 夜中だというのに、広いフロアには煌々とあかりがつき、人通りも絶えてはいなかった。 まさに不夜城だ。
案内板を頼りにトランジットホテル・アンバサダーを目指す。
それは免税店の居並ぶフロアの上階にあるらしい。
キャンセル空きに滑り込むのだから、少しでも早い方がいい。
飛行機を降りたあとトイレに行ったりしていたので出遅れてしまったが、
上階へのエスカレータを急いで探し、飛び乗った。
アンバサダーホテルにつくと、中華系の男性がテキパキとフロントでお客をさばいていた。
前に並んでいた西洋人のお客が「あいにく部屋はあいておりません」
と追い返されていたのを見て不安になったけれど、
「ウェイトリストに入れていただいているのですが」と切り出すと、
分厚いリストの中からうさぎたちの名前を探し出し、トリプルの部屋を一つ用意してくれた。
おっと、なーんだ。トリプルが取れるんだー!
実を言うと、そもそも予約を取り損ねたのは、トリプルの部屋を予約しようとしたら、 「部屋の空きはありますが、四名様をトリプル一つにお泊めするわけにはまいりません」 という主旨の返答が返ってきて、 やり取りしているうちに申し込みが遅れてしまったせいだ。
だから、フロントで当初の希望であったトリプルをあてがわれたときには、ヘーンなの! と思った。でも、まあいいや。 建前が前提の本部と本音が前提の現場の対応が食い違うというのは どこの世界でもよくある話。 とにもかくにもありがたい。 空港のフロアにレジャーシートを敷いて夜を明かすなんてことにならなくて本当によかった。
部屋はまだ清掃中とのことで、ロビーのソファで15分ほど待機した後、キーを渡された。
ロビーから、部屋の並ぶカテゴリに足を踏み入れると、そこは、
ちょっと他ではお目にかかれない独特の雰囲気。
空港の中に突然現れたホテルのロビーも物珍しく感じたけれど、
ここもまた、どことなく珍しい感じがした。
何列ものクシ状に並んだ廊下の両脇に、ドアがずらりと並んでいる空間。
どこがどうとはうまく説明できないのだけれど、とにかくどこかが異様なのだ。
部屋はこざっぱりとして、想像していたよりもはるかにきれいだった。
清潔なのはもちろん、チープな感じでも無機的な感じでもなく、
壁には絵さえかけられている。
ベッドは、ダブルが一つとシングルが一つ。
ダブルにきりんとうさぎとチャアの3人が寝、シングルにネネ。
うさぎたち4人には充分な広さだ。
ちなみに、シャワーばかりかバスタブまでついていて、
お湯やお茶のセットもあり、ルームサービスすら頼める。
部屋が密集している割には遮音性能が高いらしく、とても静か。
これで6時間83ドル(6000円)とは。
なんて安いのだろう!
だけどこの部屋はどこかいつもと違う。 部屋の広さの割に、やけに絵の数が多いな――とふと思い、そこで初めて気付いた。
この部屋には窓がない!
って。窓がないから壁の部分が多い。だから額絵の数も多いのだ。
なるほど、クジ状の廊下の両側に部屋がびっしり並んでいたのがどうして
異様に映ったかも分かった。
ホテルにせよマンションにせよ、普通はこんな風に部屋を並べることはできないのだ。
窓がある部屋ならば。
普通なら有り得ない光景だったから、異様に感じられたのだ。
同時に室料が安い理由も分かった。
空港ターミナルビルの上階の遊んでいるスペースを使い、
しかもそのスペースを最大限に効率よく使えるのだもの、
安く供給できるわけだ。
さあ、チェックアウトまではかっきり6時間。 超過すると追加料金をとられる上、飛行機に乗り遅れる心配もある。 なので、とにかく睡眠を優先することにした。 いつまでもゴチャゴチャとしゃべっている子ども達を黙らせ、うさぎは率先して目を閉じた。