部屋に帰りつくと早速、夕食の準備だ。肉入りパスタ・トルテリーニを鍋で茹で、 粉チーズをたっぷり掛ける。 ドレッシングまでがセットになった生野菜のパックを開けて皿に盛り、 キャンベルの野菜スープ缶を開けて、電子レンジで温める。 キッチン付きの部屋はやっぱり便利だ。
でも難を言えば、この部屋はちと狭い。
50平米以上もあると聞けばホテルの部屋としては恵まれている気がするけれど、
なにしろその中に、
洗面所がありバスルームがあり、キッチンがあり、テーブルと椅子が4脚、
どっしりとしたソファ、ベッドが二つ、それに暖炉まであるのだから、せせこましい。
他にも、テレビやらサイドテーブルやらティーテーブルやらひじ掛け椅子やら何やらで、
部屋じゅう家具だらけだ。
一体どうしてこんなにたくさんの家具が必要なのやら‥。
「テーブル」と名のつくものだけで、3つもあるんですけど。それに6、7人分の椅子類。
実は、うさぎたちにはこれと同じ部屋がもう一つある。
いまいる北側の部屋の、廊下を挟んだ斜め向かいにも、左右対称の部屋があるのだ。
つまりうさぎたちはにわかに6つのテーブル、14人分の椅子を所有するに到ったというわけ。
4人で100平米以上の面積を使えるのは贅沢だけれど、問題は使い勝手。
二つの部屋を行き来するのに、いちいち相手方の部屋のキーを持って、
公共の場である廊下にいちいち出なければならないのは、考えただけで面倒くさい。
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本当は、1ベッドルームスイートを二つもらうより、 2ベッドルームスイート一つの方がありがたかったのだけれど‥。
なんて文句を言ってみても仕方がない。
実はツアーの係員さんにそうお願いをしてみたのだけれど、断られてしまったのだ。
――まあ、いいや。もう一方の部屋はオマケだとでも思えば‥。
うさぎは、この北側の部屋だけで4人で生活するという方針を立て、
リビングにあるソファベッドを広げようとした。
もともと一つでも4人まで泊れる部屋なのだ。
ティーテーブルやひじ掛け椅子などを部屋の隅に片付け、ソファの背もたれを取り去り、
シート部分をパカッと開き、中に折り畳まれたベッド部分の把手を引っ張る‥引っ張る。
‥だけど、出てこない。
「う〜〜〜っ」っと唸りながら、なおも鉄の把手を引っ張る――が、把手が曲がっただけ。 一向に動いてくれる様子がない。 うさぎは把手を反対方向に曲げて直し、この仕事を諦めてきりんに任せることにした。
その後、ちょっとうさぎが留守にしている間に、
きりんがこの任務を無事完了してくれたらしい。
ソファは立派にベッドになっていた。
だけど、そのベッドの場所を取ること‥!
せっかくすてきな暖炉があるのに、それが見えなくなってしまう。
薪が燃えているようにみえるのはみせかけで、本当に薪が燃えているわけではないから、
ベッドがすぐ側に迫っていたからといって火事になる心配はないけれど。
それに、元からぎりぎりのスペースにベッドを作ってしまうと、まるで足の踏み場がない。
せっかくきりんが引き出してくれたベッドだけれど、邪魔なのでしまうことにした。
けれどそれがまた一苦労。
ネネとうさぎの二人掛かりで把手に体重をかけ、やっとソファの中に納まって頂いた。
そして結局、寝る時だけは、こちらの部屋と向こうの部屋に二手に別れることにした。
ベッドを作るために移動した家具は隅に寄せたままにしたので、 暖炉の前になんとか4人が寝そべるだけのスペースが生まれた。 やっぱり日本人、心から寛げるのは床の上。 ソファや椅子の上では落ち着かない。我々には何も置いてない地べたが必要なのだ。 床に寝転べる状態になって初めて、この部屋がわが家らしくなったような気がした。