「今回はどこへ行ってきたの?」と人に尋ねられ、
「カナダにスキーに行ってきたの」と答えると、みな一様に感心したような顔をする。
海外まで滑りにいくなんて、さぞかしすばらしいスキーの腕前なのだろう、と思うらしい。
そういう顔を見てしまったら、
あの200本以上のコースを有する大ウィスラーに行って「3日間で2本しか滑りませんでした」とは、
恥ずかしくてちょっと言えない。
「いえね、まだ子どもたちはスキーを始めたばかりなんですけどね‥」と語尾をあいまいにぼかしつつ、
実は去年初めて一度スキーに連れていっただけとは、口が裂けても言えない。
「カナダでスキー」という言葉には、「グアムで海水浴」というのとはどこか一線を画した響きがある。 グアムに泳ぎに行くからといって、よほど水泳が好きなのだろう、とは誰も思わないが、 カナダにスキーに行くというと、よほどスキーが好きなのだろうと、人は思うらしい。 そして、そんなたった一つの趣味をやるために海を渡るなんて、リッチだなあ、と思うらしい。 みな「カナダ」という地名よりも、「スキー」という単語が耳に残るらしいのだ。
けれど実は、うさぎたちにとって大事だったのは、「スキー」をしに行くことよりも、 「カナダ」に行くことの方だった。 旅行先を決める際に競合したのは、苗場や蔵王やツェルマットではなく、 バリやフィジーやニュージーランドだった。「ウィスラーだったらスキーができるね」くらいのノリだった。 うさぎたちの意識下では、「カナダでスキー」も「グアムで海水浴」となんら変わりがなかったわけだ。
実際、子供たちにウィスラーでの思い出を尋ねると、まず開口一番の出てくるのが、 今回も「プールとジャグジー」。 それに、メイプルシロップで遊んだのも楽しかったね、ホテルのロビーの暖炉とクリスマスツリーが素敵だったね、 最後に空港で買った色とりどりのキャンディも良かったね――と続き、どうもスキーの話題が後回しになる。
でも、それで全然構わないと思う。 6日間、カナダという国の空気を吸い、ウィスラーという街で暮らし、いつもの生活とは違うおとぎ話の中にいた。 ――それだけでもう、充分ではないか。