フィジーに行きたいと最初に言いだしたのは、きりんだった。 いつの頃からか、フィジーはきりんの憧れの地となっていて、 中でもシャングリラ系のフィジアンリゾートがお気に入りらしかった。
フィジアンはヤヌサ島という島全体を使った大きなリゾートである。 その敷地は44万平米。それがどういう広さか知りたければ、一辺が約1キロの正三角形を思い浮かべるといい。 確かに広大と言うほかはない広さではある。
だが、うさぎには、どうしてきりんがここまでフィジアンにこだわるのかが、もう一つ理解できなかった。
広大なホテルは他にもあるし、『島』といっても本土とは橋で繋がれた半島のような島だ。
「どこがそんなにいいの?」ときりんに尋ねても、
「『島』だからいいんだ。回りが全部海、っていうのがいいんだ」と言うだけで、さっぱり要領を得ない。
更に最近、きりんの憧れに突如としてマナ島が加わった。これまたうさぎにはその理由が分からない。 一体どこで何を聞いてきたんだか‥?
ある日、きりんは"Welcome to Mana Island"(ようこそ! マナ島へ)という個人のホームページを見せてくれ、
それでやっとうさぎにも合点がいった。
それは、マナ島唯一のリゾートであるマナ・アイランド・リゾートに泊まった人・
これから泊まる人たちのお手紙紹介サイトで、ものすごい盛り上がりを見せていた。
どんなにマナ島が素敵なところか、そこで過ごす日々がどんなに楽しいかが様々な人々の手によって切々と綴られ、
「これなら是非行ってみたい」とうさぎにも思わせたのだった。
こうして、永い間きりんの憧れだったフィジアンは二次的な目的と化し、マナに滞在することこそが、
我々の主目的となった。
だがそれはマナに素晴らしいプールがあるからでも、広くて贅沢な部屋に泊まれるからでもなかった。
莫大な情報量を持つこのサイトを二週間ほどかけて読むと、日本にいながら、
マナを隅から隅まで知ってしまったような気分になったが、そこで得た情報は、
客観的には決して『良い情報』ばかりではなかった。
部屋にアリだのヤモリだのが入ってくるとか、レストランの給仕はなかなか注文を取りにこないとか、
屋外は蚊が多く虫除けを携帯する必要があるとか‥。
ツーリストが逃げだしてしまいそうな情報も多く、部屋のグレードとか施設の充実という点となると、
みな一様に言葉少なになる。
けれど、それでも「マナは良かった、また行きたい」と皆が口を揃えるのには負けてしまった。 『プール命』の子供たちが楽しめるのだろうかという一抹の不安を抱えつつも、 「ここに行ってみたい!!」という強烈な熱望に突き動かされ、きりんとうさぎはマナ島行きを決めた。
「○○をしたい」といった具体的な目的もなく、
ただただ「マナで時を過ごしたい」がために――。