ビチレブ島内のホテルに泊まる人や、 離島へ飛行機で行く人々はまだしばらくナンディタウンでゆっくりできるようだが、 船でマナ島へ向かううさぎたちはトップバッターでマリーナへ向かわねばならない。 デナラウ・マリーナまでは10分と近いとはいえ、わが家専用の車に専用ガイド・専用運転手を従えた、 いつもの『儲かってまっか、JTB』スタイルとなった。
マリーナの桟橋でうさぎたちを待っていたのは、「サウス・シー・クルーズ」社の近代的なフェリー。 お隣にはデッキの床板がピカピカに磨かれたアンティーク調の素敵な帆船が停まっていた。 こんなのちょっと乗ってみたいかも。
さあて、ここからは日本語で喋るガイドもいない。 ちらほらと日本人乗客の姿もあるが、基本的には英語しか通じない世界だ。自力でマナ島にたどり着かなければ。 ――ということに気づいたのは、マヌケもいいところ、船が最初の島に着いた時になってからだった。
チャアと一緒にがら空きの船室に横になり、しばらくうとうとしてからふと目を覚ますと、
船はどこか小さな島近くに停泊しており、小さなボートに乗客を乗せ、島に向かう準備をしていた。
「ここ、どこの島だと思う? まさかマナじゃないよね」きりんがそわそわと言った。
「違うわよ。マナ島はこんなに小さくないはずだもの」とうさぎは落ちついた素振りで答えたが、
実はたった今初めて気がついた。船の中で寝てりゃマナに着く、ってものではないことに。
どれがマナ島なのかを判断して降りるのは自分なのだ。
「巡回航路だから、たとえ降り損なっても平気だよね」
と自分に言い聞かせるようにきりんが言う。
うさぎはこれまでガイドブックやらインターネットやらで得たマナに関する知識を記憶の底から呼び戻し、
遅ればせながら、準備体制に入った。
最初の島に停泊したあと、船は別の小さな島の前を通り過ぎた。お、今の島は知っている。たぶんビーチカマーだ。 写真を見た覚えがある。よその島の形を覚えているくらいだから、多分マナに関しても大丈夫なはずだ。 それに、船に預けた荷物には「マナ」のタッグが付いている。 この荷物を船のスタッフが下ろしはじめたら、そこがマナだってことだ。荷物と一緒に降りればいい。 さっきカーディガンが欲しくてスタッフに頼んで荷物を開けさせてもらったから、 どこに自分のが積んであるかも知ってるし。
次の停泊地は大きな島であった。
こんもりとした山を連ねた島が海上に姿を表すと、きりんとうさぎは「これがマナかもしれない」とささやき合った。 横から見る島の姿は上空から撮った写真とはまるっきり異なり、いまいち確証が持てなかったが、
そうこうしているうちに船内放送が入った。
「なんかマナがどうのこうの、って言ってるような気がする。
やっぱりこれがマナなんじゃない?」とうさぎは言い、島の様子に目を凝らした。
船が環礁に入り、長い桟橋目指して進みはじめると、にわかに船の中が慌ただしくなり、
上の甲板から人が沢山降りてきて列を作った。
船が桟橋に近づくと、桟橋の先端に大勢の人がいるのが見えた。
ひしめき合っている人々はこちらに向かって歌を歌っているようだ。
船が近づくと、その歌声が次第に大きくなってきた。
マナではこうした歓迎で新しい客を迎えると、ホームページで読んでいた。
歌を歌っているのはリゾートのスタッフ。今日は20名近くものスタッフが船を出迎えに来てくれているようだ。
「やっぱりここがマナだよ」、マナのタッグを付けた荷物が船から降ろされるのを確認しつつ、
盛大な歓迎の中、うさぎたちは船を下りた。