「‥ウサちゃん、そろそろ起きない?」というままりんの声がしたのは、朝の9時だった。
ふー、良く寝たー。二日分、良く眠った。
ままりんもよく眠れたらしく、元気だ。
うさぎは手早く顔を洗い、さっそく朝食を食べに行くことにした。 昨日の朝は『さんご』で和食だったから、今日は別のレストラン『アリゼ』。 朝食を取るレストランを選べるなんて嬉しい。しかもミールクーポンがあるし♪
『アリゼ』はプール前にある大きなレストランで、ロビーから階段を下りたところにあった。
朝食はバイキング形式である。朝食には勿体ないくらいの品数が並んでいる。
洋食だけかと思いきや、みそ汁やお粥まである。
それに、充実しているのが、果物とジュース類。
果物は、生のカットフルーツが10種類以上あるし、ジュースもなんと7種類!
しかも、珍しいものもあるぞー! これは試してみなくっちゃ!
「あなたは食事をするにもビデオだカメラだ、って大変なのねえ」
朝っぱら張り切るうさぎを見て、ままりんが言った。
そう、大変なんです。特に今回はきりんがいないものだから、ビデオとカメラと両方。
ホントに大変なんです。でも、撮らないと後悔するから。
「おまけにメモまで取るのね」とこれまたままりん。そう。ホントーに大変なの。でも、書かないと後悔するから。
で、初めて見た果物、それは"chiko"(チコ) という名の実であった。
ビワくらいの大きさで、赤いような、緑っぽいような、黄色っぽいような、腐った肉のような(?)皮色。
果肉も鈍い橙色のような、茶色のような色をしている。見かけはホントに冴えないヤツなのだ。
ところが、これがなかなか美味しい!! まるでザラメみたいにザラザラした不思議な食感で、味も砂糖のような甘さ。
ちょっと果物じゃないみたいな感じ。皮も柔らかくて甘い。
日本に持って帰ってみんなにも食べさせてあげたいくらいだ。
それにジュース。 フレッシュジュースだけでもパパイヤ、グアバ、オレンジと3種類もあるのも珍しいが、 もっと珍しいのが「カラマンシー」。英語だと「レモンライム」と呼ぶらしいが、レモンでもライムでもないらしい。 見た目はきんかんみたいな感じで、あらかじめ用意されたハチミツ水の中に、実を自分で絞って飲む。 皮からしてとても柔らかいので、強く押すと実が壊れてしまい、絞るのにちょっと難儀した。 味は、まさに柑橘系で「マイルドなハチミツレモン」という感じだった。 すっぱいけれど、レモンほど味がとがっていない。
料理は特に変わったものはなかったが、お粥がとても美味しかった。
プレーンなお粥に、ゴマ油、ネギ、生姜の千切り、パリパリのガーリックチップをお好みでトッピングするのだが、
うさぎは更に、西京漬けっぽい焼き魚を乗っけてみた。これが絶品!
これまでの人生、特にお粥に興味を持ったことはなかったけれど、いっぺんに好きになってしまった。
ゴマ油を垂らす、ってところがミソ。もしかして、これって和食ではなく中華なのかもしれない。
だれかが「お粥を食べに香港に行ってきた」と言ってたことがある。
そのときは「はあ〜?」と思ったけれど、そのお粥って、こういうののことだったのかも。それなら分かる。
さて。写真を取って、メモも書き、「ところでままりんの皿は」と見ると‥。
なーんだ。チコの実もカラマンシーも、かる〜く無視して和食でまとめている。
きっと世界中どこの国に行っても、いつもと変わらぬ朝食を食べるんだろうな、このお方は。
おせっかいとは知りつつ、ままりんにチコの実を勧め、
ビデオを回しながら「お味はいかが?」とインタビューしてみた。
「ザラザラしてるわね」とさほど嫌そうではないままりん。
「変わったものは一切口にしない」と決めているわけではないらしい。
ただ、うさぎのように貪欲に「話の種」を追い求めはしないだけなのだ。
何を見なくても食べなくても、
楽しければ、美味しければ、それでいいじゃないの
多分、ままりんはそういう気分で旅をするのだ。
こうして一緒に旅をしても、うさぎとはきっと全く異なる時間を過ごしているのだ。
うさぎにとって、旅にいる間はいわば「仕入れ」の時で、忙しいばっかりだ。
後からビデオやアルバムを見たり、旅行記を読んでいる時が一番楽しい。
でもままりんは、旅行に来ている間こそが楽しいんだろうな。――ま、ままりんに限らず、フツーはそうかな。