Hawaii  大家族でバケーション

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【 検疫犬 】

ノースウェスト機

ホノルル行きのノースウェスト10便は順調に航行し、無事空港に着陸した。 一行はごく当たり前に飛行機を降り、ごく当たり前に入国審査を済ませ、 バゲージクレームに向かった。

‥と、一人足りない。 どうやら入国審査に引っかかったようだ。 まあいいや。とりあえず荷物を引き上げてしまおう。 えらく乱暴に吐き出され、ターンテーブルの上でもんどりを打つ荷物をかき集め、 隅にあるベンチに腰掛け、欠けた一人を待った。

‥だがしかし。 待てど暮らせど、入国審査でとっ捕まったその人、源三郎は帰ってこない。 荷物番を交代し、代わる代わる皆がトイレを済ませても、まだ帰ってこない。

そのうち、犬がやってきた。 ビーグル犬か何か、割と小型のかわいいワンコだ。 ところがコイツが人の荷物をやたらと嗅ぎまわる。 ‥ま、しょうがないか。この子は検疫犬。これが職務なのだから。

犬を連れた検疫官が何が英語で言っている。 なになに? 「食べ物をもっているだろう」とな?
「これのことですかね?」 うさぎはカバンの中から成田で買ったおせんべを取り出してみた。
「いやいや、そんなのじゃない」と検疫官は首を横にふる。
「じゃ、コレ?」今度はキャンディを取り出してみた。
「いや、違う。生ものだ」と、検疫官は言っているようだ。
うさぎは次から次へとカバンの中から食べ物を取り出した。 機内で食べかけたパン、マーガリン、塩、砂糖、ケチャップ‥。 アハハ、我ながら溜め込んでるなあ‥。 でもそのたびに検疫官は首を振る。ついには 「果物を持っているのでは?」とつっこんできた。

「果物?」リス子とうさぎは顔を見合わせた。 もしかしてあれじゃあ‥。 成田で食べたぶどう、あの匂いが袋に残っているのではっ?!

そこでとりあえず言ってみた。 「ゼア"ワズ"プレンティオブグレイプスインディスバッグ、バッ、ウィー"エイト"ゼムオールアトナリタエアポート」 この袋の中にぶどうが入っていたんですが、成田で全部食べてしまいました。 過去形部分を強調し、ぶどうの入っていた袋を指さして熱弁を振るった。 ‥って、ワズじゃなくてワーだったかも? ‥ま、いっか。

その一言で検疫官は納得したようだ。 犬に褒美をやり、行ってしまった。

それから更に、帰ってこない源三郎を、皆は待った。 だがしかし、彼は帰ってこなかった。 そうこうするうち、またどこからともなく別の検疫官と別の犬のセットがやってきた。 また荷物を嗅ぎまわる。

「食べ物を持っているか?」と、犬のお付きが尋ねた。 ‥いや、お付きなのは犬のほうか。 ‥って、そんなことはどうでもいい。 犬はフガフガと声にならない声を出してそこいらをクンクンしているだけなのに、 一体どうして食べ物の匂いを検出したことが検疫官に分かるのだろう? 不思議だ。

またか、とうさぎはウンザリし、こう言った。
「ほんの数分前、別の犬が来て、同じことを言いました(別に犬が言ってたわけじゃないけどさ)。 そこでわたしはこう答えたんです。 ゼア"ワズ"プレンティオブグレイプスインディスバッグ、バッ、ウィー"エイト"ゼムオールアトナリタエアポート、と」

それで検疫官は納得したらしい。 犬に褒美をやって行ってしまった。 エヘ♪ このフレーズ、使えるなあ〜! 検疫で捕まったときに使える英会話なので、覚えとこ♪

検疫官が行ってしまうと、ままりんがおもむろに言った。
「いやあねえ。ここって落ち着かないわ。また犬に寄ってこられたら面倒よ。どこかに避難するところはないの?」
「そうねえ。でも移動するにしても、源三郎に一度会えないことには、はぐれちゃうかもしれないし‥」

‥と、広いフロアの向こうに源三郎の姿を発見! 制服姿の人の後ろを歩いている。なんだかうつむいているように見えるのは、うさぎの気のせい〜?

「源三郎〜! ちょっとどうなってるのよ?」 うさぎは広いフロアを横切り、見失わないうちにと急いで駆け寄りつつ、叫んだ。
「ああ、おねえちゃん、前米国に来たときの出国審査がうまくいってなかったらしい。 書類を作り直すのに1時間半ほどかかるって」
「えっ、1時間半も?! ここにいると犬がくるから、外で待ってるね」
「わかった」

荷物番のところに戻ってみると、遠くからまた犬がやってくるのが見えた。 こりゃ大変! 痛くもない腹をそう何度も探られてたまるか! 野郎ども、とっととこっからずらかるぜ!

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