夕闇に沈んでおどろおどろしい陰を落とす木々の下を抜け、バギー車はイグアスロッジの前に到着した。 うさぎたちは白い欄干が両脇に付いた階段を上り、部屋の鍵を開けた。 荷物を運んでくれたスタッフににっこりして「ありがとう」と言うと、向こうもにっこりして帰っていった。 チップは不要。プランテーションベイは徹底したノーチップポリシーなのだ。 ちょっとしたサービスも無料なら、スマイルも無料。それが嬉しい。
さて、ドアを開けると、そこは広々としたオープンエアの居間だった。
バルコニー側の壁がなく、一方の寝室のベランダとつながっている。ドアはあるのに、窓はない。屋内だけれど、屋外。
空気はすがすがしい外のものなのに、床は掃除が行き届いていてすべすべしているし、蚊などの虫もいない。
ヤモリが1匹2匹チョロチョロしているのがご愛嬌。
ベランダのすぐ近くに置いてある大きなテーブルやリゾートチェアは風雨に晒されて少々傷んでいるものの、
ベランダから離れた籐のソファセットはまったくきれいなものだ。
外気温と同じだから蒸し暑いと思いきや、天井のファンが回っているせいか、
あんがい快適。赤茶色のレンガ風タイルを貼った床や、あちこちに置かれた大きな素焼きの壺が、
どことなくラテンっぽいなと思ったら、道理で。
棟の名前の由来となっている「イグアス」というのは、南米にある滝の名なのだと後で知った。
プランテーションベイでは、同じ間取りの部屋でも、棟によってインテリアの仕上げを変えてあるのだ。
居間の左右には寝室が一つづつあり、それらは天井の仕上げ以外、全く左右対称のつくりだった。 けれど、右側の部屋のバルコニーはリビングに繋がっており、左側の部屋のバルコニーは別になっている。 きっとふつう主寝室にするのは左の部屋の方なのだろうけど、 ネネが左側の部屋をさっさと自分たちの部屋に決めてしまったので、きりんとうさぎの部屋は右側ということになった。 あとで見たら、左側の部屋のアンティークな机のアールヌーボーっぽいランプの脇には早速、 日本から持ってきた筆記用具やらマスコットやらが並べられていた。
ベッドルームはエキゾチックな香水の香りがした。 ベッドはグリーンっぽいアイアン製で、それにかかった真っ白な刺繍入りの真っ白なベッドカバーが目に新鮮。 白は汚れが目立つから、ホテルのベッドカバーには使用されないものだと思っていたけれど。
洗面所はかなり広々としていて、トイレ、バスタブ、シャワー室、
それにダブルシンクのついた3メートルくらいありそうな長いカウンターがあった。
壁はベージュっぽい大谷石張りで、そこにカウンターとバスタブの黒が映える。
あちこちに設えられたブランケットの灯りの色が暖かい。
バスタブはティアドロップ型とでも言えばよいのだろうか、変わった形をしており、決して広くはないのだが、
日本の湯船くらいの深さがあった。しかも底には段がついている。
ちょっと見には「ヘンな形」だが、あとで入浴してみると、これはなかなかどうして具合がよかった。
底についた段は腰掛けるのに都合がよく、狭くなった部分に足がきて、ふっくらと広くなった部分にお尻がくる。
細身の二人ならば、いっしょにお尻を並べて入れるくらいの広さ。体にフィットしたその形がなんとも心地よかった。
さて、荷物の整理が終わると、お腹が空いた。そこで、日本から持ってきたカロリーメイトと、 部屋に置いてあったドライフルーツを食べて夕食の代わりにした。 部屋の隅の籠にはドライマンゴーやら干しグアバなど、数種類のドライフルーツが取り合わせて入っており、 これが「ウェルカムフルーツ」というわけらしかった。最初はおっかなびっくり口に入れたものの、干しあんずの好きなネネと うさぎにとっては大喜びの味だった。わが家の好き嫌いコンビ・きりんとチャアにとっては苦手もいくつかあるみたい。 きりんがダメなものはチャアもダメ、この二人の味覚は呆れるほど同じなのであった。
食事のあと軽い散歩に出かけ、帰ってくるともう10時を回っていたので、子供たちは寝支度開始。 ところがここでトラブル発生! なんと、チャアが歯磨きついでに、生水を飲んでしまったのだ!
が〜〜〜ん! 明日下痢になってプールに入れなくなったらどうしよう?
チャアが歯みがきのときに水を飲むという習慣を、9年間育てた今、初めて知ったうさぎであった。