英語の通訳案内士に合格して何が嬉しいって、英語の発音にお墨付きがもらえたことです。合格したということは、少なくとも「通じる英語」と認定されたということ。発音が「良い」とまでは言わずとも、「悪くはない」のかな、と。
近年の通訳案内士試験は合格率が比較的高く、特に2次試験の合格率は70%ほどです。つまり受かる人のほうが多い。
ネット上の合格体験記などを見ても、「落ちると覚悟していたら受かった」という人が多いです。通訳がダメダメでも、プレゼンがいまいちでも、意外と受かる。おそらく受験者が思っているほど要求水準が高くはないのでしょう。
ところがその一方で、「受かると思っていたのに落ちた」という人もいます。中には「通訳もプレゼンも、それなりにスラスラ言えた」「試験官をお客さんだと思って、本物のガイドになったつもりで話した」というような感想を抱いていたにも関わらず、不合格の憂き目を見た人も。
今回の発表前、そういう体験記にいくつか出くわし、その敗因は何だろうと考えました。そして「発音だろう」という結論に到りました。だってそうでしょう? 通訳もプレゼンもできたのに落とされるのなら、発音以外、ほかにどんな理由が考えられるでしょうか?
怖かったです。わたしの場合は通訳にもプレゼンにもアラはたくさんある。でもスペイン語のときだって受かったのだから、きっと今回も、そこはなんとか見逃してもらえるんじゃないかと期待していました。でも発音は・・・。
これまで発音が悪いせいで英語が通じなかったという経験はありませんが、なにしろ日々のオンライン英会話を除くと、英語を話すチャンスは寡少。日本人英語に慣れている英会話の先生方には通じても、試験官の目で見て、通訳ガイドに足るだけの発音ができているとは限らないと警戒しました。
この不安は、2年前スペイン語で通訳案内士を受けたときにはなかったものです。
なぜならスペイン語の発音は、日本人にとってはラクだから。スペイン語は発音が日本語に似ており、LとRさえ発音しわけさえすれば、あとはローマ字読みでオッケー。そりゃ細かく言えば違うところもありますが、ローマ字読みでも通じないことはないでしょう。
ところが英語の場合は、発音が悪いと通じないということが、まま起こりうる。
しかも恐ろしいのは、多くの場合、そのことに本人は気づかないという事実です。
なぜなら発音の悪さというのは、意外と人に指摘してもらえないからです。言われた本人が傷つくと分かっているから、誰もあえて指摘しない。
発音というのは、どうやらすごくメンタルに近い部分にあるようで、発音の難点を指摘されるのは非常にバツが悪く、文法の誤りや単語の不備を指摘されるより、はるかに大きなダメージがある。それが分かっているから、指摘するほうも「この発音じゃ通じない」と思っても、口には出しづらいのでしょう。
英会話レッスンでさえそう。発音にこだわりすぎると喋れなくなるから、よっぽど「発音を厳しく見てください」と特別にお願いしない限り、かなり変な発音でも先生は指摘してくれません。海外の先生は「褒めて伸ばす」が基本だし、第一、英語教師も客商売だから、生徒の不興を買うようなことはわざわざやらない。
だから発音は怖いのです。自覚症状がないから。
これはあくまでわたし自身の考えですが、通訳案内士の二次は、通訳がダメでもプレゼンがいまいちでも、諦めるのはまだ早い。でも、こと発音に関しては、他の出来がどんなに良くても、通じないレベルだったらゲームオーバー。起死回生のチャンスはないのではないか。
なぜなら、ガイドという職業は、言葉が通じてナンボだからです。どれほど日本文化に精通していようと、おもてなしの精神があろうと、また文法的に完ぺきだろうと、言葉が伝わらなかったら意味がない。総合力を測る検定試験なら発音の悪さも他のスキルで補えるかもしれませんが、通訳案内士は資格試験なのですから。
なぜか巷では、通訳案内士試験における発音の重要性は叫ばれていません。プレゼンのネタ作りや、通訳のメモの取り方はみんな頑張って練習するし、人によっては「笑顔」や「おもてなしの心」まで磨くのに、「発音を磨いた」という話は合格体験記でもトンと見ない。
でも通訳案内士の二次は、けっこう発音が合格の肝なんじゃないか。わたしはそんな気がします。
わたしは帰国子女でもなければ、留学経験もありません。発音に自信があるはずもなく、だから今回の合格は本当に嬉しかったです。
2年前、DMM英会話に入会したとき、英語に関して最初にやったのは発音のチェックと矯正でした。soldierのジャーとmeasureのジャーの違い、roadsとroseの発音仕分けなど、けっこう真面目に取り組みました。
以来、発音にはわたしなりに気を使ってきました。正しい舌の位置や口の形を気をつけ、耳ではなく口で、一つ一つの音をなるべく正確に発音するよう、心がけています。
決して「ネイティブっぽいカッコイイ発音」ではありませんが、それが「通じる発音」に繋がったのかな、と思っています。