今をさかのぼること約2ヶ月前。わたしは書店で一冊の辞書に出会いました。
簡明ウズベク語辞典(現在品切れ)です。
運命の出会い
見出し語総数13000、用例あり。もちろん糸かがり綴じ。薄くてコンパクト。なのに文字が小さすぎず、適度に余白もあり、読みやすい。紙も薄くなく、めくりやすい。まるで使いやすい辞書作りのお手本みたいな辞書です。
見出し語も少なくなく、用例もある辞書を、文字の大きさや余白を犠牲にすることもなく、なぜこんなにコンパクトに作れるのか。まるで魔法みたい。
たぶんドラえもんのポケットがあるんだと思います。頻度の低い単語は四次元ポケットに格納。引いたときだけポケットから出てくる仕組み。そうだとしか思えない。
またこの辞書は見た目もエレガント。ビニール製の紺色の表紙に金色の文字。クリーム色がかった紙にくっきりした黒い文字。軽くて小さいから、小さなバッグにも収まりそうだし、出先で広げても場所をとらず、絵になる。外国語学習者であることが嬉しくなる辞書です。
もう一目惚れ。どうしても欲しくなりました。ウズベク語なんてやったことないし、これからもやるかどうかわからない。でも欲しい~~~っ!
思い募って
しかし問題はその価格。消費税を入れると8000円以上。使うかどうかも分からないマイナー言語の辞書に8000円はどう考えても贅沢すぎと思い、ひとまずブレイク。空身でその場を離れました。
でもやっぱり気になる。しかもアマゾンで確かめたら品切れ。こんなマイナー言語の辞書、増刷されるとは限らない。紀伊国屋にだっていつまで残っているか・・・。これが一期一会かもしれないと思ったら、いてもたってもいられなくなりました。
そこでスルタンさんに相談。相談といいつつ、「背中押してね」感が言葉の端々から滲み出ていたかもしれない。ご自分の役割を察してくださったスルタンさんから「最後の一押し」を頂き、その返信を読んだ次の瞬間、わたしは財布を掴んでいました。そして書店まで買いに走り、首尾よくゲット。スルタンさん、その節はありがとうございました<(_ _)>
なぜそこまでこの辞書が欲しかったかというと、たぶん一票を投じたかったのだと思います。こういう辞書のあり方に賛成票を投じたかった。軽くてコンパクト、文字は小さすぎず、余白もあり、糸かがり綴じでビニールカバー。そんな理想の辞書があれば、ちょっとやそっと高くたって学習者は買うんだってことを、身をもって示したかった。自分自身にも、周囲にも。なぜなら他の言語でももっとこういう辞書が出て欲しいからです。
新品の辞書を下ろすとき
しかしながらこの辞書を買ってから本格的に使い出すまでには1ヶ月半以上の間がありました。当時はまだロシア語検定の前だったし、いざ試験が終わってさあ使うぞ!と棚から取り出してみたものの、もったいなくて使えなかった。新品の辞書が汚れるのが怖くて、そーっと外箱から取り出してはおそるおそる触り、また箱に戻す、というのを3週間も繰り返していました。
しかし辞書に書き込みもできないようでは買った意味がない。先日ついに思い切って一箇所書き込みました。すると急に気持ちがラクになり、そこからはもう全く気にせずガンガン書き込めるように。モノは一度中古になってしまったら、どう頑張っても新品には戻りませんから。
快適! 楽しい! やはり辞書は使ってナンボですね。書き込みをする前は「やはりこんな高価な新品の辞書は自分には贅沢すぎたのでは・・・?」とチラリと後悔したりもしていましたが、今はもう「買って正解!」と心から思います。
ウズベク語の辞書で別言語の復習
しかしじゃあウズベク語を始めたのかといえば、答えは「否」です。わたしはこれをトルコ語とロシア語とアラビア語の復習に使っています。書き込みもほとんどこの3言語。この3言語は使用文字がそれぞれ異なるので、何語の書き込みか、書かなくても分かります。
最初は同じテュルク諸語であるトルコ語を思い出したくて始めたのですが、ロシア語からの借用語が意外と多く、ロシア語の復習にもなっています。
使い始めて初めて気づいたのですが、この辞書、由来が載っているんですね。そこが大変便利。
例えば単語の後ろに小さく[ru]と書いてあったらその単語はロシア語由来。[ar]ならアラビア語、[pe]ならペルシャ語。[ru+uz]と書かれている単語はロシア語にテュルク諸語ならではの接尾辞をつけたもの。
由来表記があると便利なのは、たとえば「この単語、ロシア語に似てるけど、ロシア語からウズベク語に入ったのか、それとも逆にウズベク語からロシア語に入ったのか?」と迷ったとき、どちらが元か分かることです。
また、ロシア語からの借用語には力点までふってあります。これが大変ありがたい。この丁寧な仕事ぶりには感嘆のため息を禁じえません。
わたしは多言語学習者
わたしはロシア語を学んでいるときは自分はロシア語学習者、アラビア語で喋っているときはアラビア語学習者だと思っていて、通常は多言語学習者であるという自覚はあまりありません。
でもこの辞書に書き込みをしていると、つくづく自分は多言語学習者だなあ、と思います。
ロシア語、トルコ語、アラビア語という全く系統の異なる言語がこの辞書では一堂に会し、そのどの言語をも知っている自分が嬉しい。
ただペルシャ語を知らないのがちょっと悔しいですね。やはりこれはペルシャ語をやらねばなるまいよ、と思いました。
周辺の言語をいくつか知っていると、ますます楽しめるウズベク語の辞書。日本に何人いるか分からないウズベク語学習者だけでなく、この辞書の購買層は意外と広いかもしれません。
増刷が待たれます。