Essay  うさぎの旅ヒント

【 ラーメン 】

海外旅行から帰ってくると、無性に食べたくなるものがある。それはラーメン。 とくにしょうゆラーメンが食べたい。 だから、家に帰りつくと、まず近所のスーパーにラーメンを買いに走る。 そしてこの時ばかりは金に糸目をつけず、一番良さそうな生麺を買ってきて茹でる。

うさぎはラーメンが好きだが、だからといって、日常的に食すほどではない。 普段は一月に一度か、せいぜい二度食べる程度である。 しかも一番好きなのはとんこつで、しょうゆラーメンはさほどでもない。
ところが海外に1週間も行ってくると、日本に帰り着くのを待ちかねたように、 しょうゆラーメンを買いに走ってしまう。――これはいったいどうしてなのだろうか。

まず、海外から帰ってくればラーメン、というパターンができてしまっていて、 それでパブロフ状態になるのかな、と思った。 でも、そもそもいつどこでどうして、そんなパターンができてしまったのだろう。

次に、特定の栄養素が、海外での慣れない食生活のなかで不足してきて、 それを補うために体がラーメンを欲しているのかもしれない、と考えてみた。 もともとうさぎの体は栄養素の不足に敏感で、 どんな食品にどんな栄養素が豊富に含まれているのか、頭よりも体の方がよく知っている。 何かが不足すれば、その栄養を豊富に含む食品が食べたくなるようにできているのだ。 たとえば妊娠中、なぜか赤飯が無性に食べたくて、毎日飽きずに食べ続けた。 ある日、さすがに不思議に思って食品成分表を開いてみると、 小豆には鉄分が豊富であることが分かり、なるほどと思ったものだ。

では、海外ではどんな栄養が不足するのだろうか。 しょうゆラーメン――醤油――大豆とルーツをたどり、食品成分表で大豆の項を見ると、 その成分で突出しているのはカルシウムであった。
カルシウム。う〜ん、いまいちピンとこない。 確かに大豆はカルシウムが豊富だけれど、でもチーズなんかには敵わない。 乳製品の摂取量は、日本でも海外でも変わらないか、 むしろ西洋文化圏なんかでは多いような気がするから、 カルシウムが不足するとは考えにくい。

だったら一体なにが不足なのだろう? アルバムを見ながら食事内容を思い出してみると、塩分が少ないような気がした。 日頃とりたてて塩分の多い食事をしているつもりはないが、 日本は島国だから、昔から塩が簡単に手に入る。 そのせいか、味噌汁やら漬物やら煮物やら、日本食はけっこうしょっぱいものが多い。 諸外国の食事よりも、確かに塩分が多いかもしれない。

‥と、あれこれごちゃごちゃ考えながら夕飯を作っていて、はたと気付いた。 体が求めているのは、栄養素ではなくて、味の方かもしれない、と。 だって日本にいて食事を作るとき、醤油を使わない日があるだろうか。 煮物に醤油を使い、焼き魚に醤油を掛け、炒め物にも入れ、蒸し物にさえ添える。 まさに醤油なしではやっていけない食生活だ。 それが、一週間、醤油とは無縁の生活をしたら‥。 やっぱり禁断症状が起こっても、仕方がないのかもしれない。

2002年3月2日 うさぎ

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