Essay  うさぎの旅ヒント

【 ガイドブックのマニアックな活用法 】

わが家では、旅行に行くことが決まると、まず図書館でガイドブックを借りる。 そして行き先が完全に固まると、同じガイドブックを本屋で購入する。

もっとも、「同じ」と言っても、全く同じではない。 購入するのはもちろん最新版のガイドブックだが、 図書館にあるのはたいてい一年ほど古い版だからである。

うさぎの密かな楽しみは、この二冊のガイドブックの比較である。 借りてきた旧版を左手に構え、買ってきた最新版を右手に構え、 左右の手で一ページづつ繰って、どこが変わったか丹念にチェックするのである。

――えっ? なんてヒマなヤツなんだ、ですって?

まあ、たしかにヒマだからこんなことをやっていられるのである。

でも、一見くだらないこの作業も、どうしてどうして役に立つ。

たとえば。
昨年行ったフィジーの「地球の歩き方」の00-01年度版には、 ナンディタウンにあるカレー店が紹介されていた。 ところがこれが01-02年度版にはない。店の名が地図からも消えている。 一体どうして削ったのだろうと訝っていると、 別のページのコラムに、こんな記述が載っていた。

始めは普通の店だったのに、「歩き方」で紹介した途端、
日本語メニューの料金だけ倍に書き換えた悪徳レストランもある。(中略)
例えばナンディ・タウンのメインストリートにある、
日本語で呼び込みしているカレーのレストラン‥(後略)

ようするに、紹介したレストランがぼったくりに豹変したから、 紹介するのをやめたというわけ。 このコラムには、さすがに店の名までは書いていなかったが、 旧版と付き合わせれば、どこの店かは一目瞭然。 旅行中はもちろん避けて通った。

また今回、「地球の歩き方・リゾート」のセブ島・ボラカイ島編でも、 新版と旧版との間に興味深い違いを見つけた。
まず最も大きな違いは、 旧版では見開きで紹介されていたとある高級リゾートがきれいさっぱり削除されていたこと。 インターネットで調べて見ると、どうやらこのホテル、 オーナーが倒産して閉鎖の憂き目にあったらしい。
またもう一つの違いは、セブ・マクタン島の両雄といってよい二大リゾートの室料が、 一方は1割値上がりし、もう一方はなんと6割も値下がりしていたことである。 そのおかげで、この2リゾート間の室料の序列が完全に逆転してしまった。
実はわが家は、値下がりした方のリゾートに宿泊予定だったので、 その値下げが戦略的なものなのか、 それともやむにやまれぬ事情からなのかと、かなり気を揉んだ。 実際に宿泊した際には、この室料でこのサービスかと思ったら、 そのコストパフォーマンスの良さに、しみじみありがたさ、 それどころか申し訳なさすら感じた。
もっとも事の真相は、いまだ定かではないが、 どうやらネット予約の際の優待料金が正規料金として表に出ただけのことらしい。 もしそうだとすると、このホテル固有の事情というより、 世相の変遷による変化が紙面に反映されたということになる。 それはそれで興味深いではないか。

ガイドブックというのは「最新情報」を載せることが使命である。 そしてそれを読む我々は、どうしても、その記述が全て、と思いがちである。
けれど、こうして異なる版数を比べているうちに気付く。
「『最新情報』とは、ある時点で時間を輪切りにしたものであるに過ぎない」ということに。 その『最新情報』の前には長い歴史があり、 またその『最新情報』から現在の間にも時間が存在することに気付くのだ。 CDの円盤のように薄くて平たい情報の輪切りが厚みを持ちはじめ、 「時間」という縦軸が見えてくるのである。

2002年6月8日 うさぎ

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