Malaysia  ペナン島

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【 メインプール 】

メインプール

ここラササヤンリゾートには、二つの棟と二つのプールエリアがある。 一つは、ロビーの近くのメインウィングとメインプール。もう一つは、新しい棟であるガーデンウィングとそのプール。 うさぎたちはまず、部屋から近いメインプールに行ってみることにした。

暗く落ちついたロビーを抜けて屋外へ出ると、広い階段の下に、一転して明るい南国が広がっていた。
視界の中心に水色のプール。プールの脇には、マレー風のそりかえった三角屋根をのせたメインウィング。 そしてあちこちに明るい緑の植え込み。 プールに掛かった橋や、そのたもとにある茶色の壺が、メインウィングの屋根と呼応してエキゾチックさを醸しだしている。 プールの向こうには芝生が広がり、さらにその向こうには海。解放的でありながら、どこか整然とした優等生的な景色だ。 コンパスと定規を使って描いたような幾何学的な形のプールのせいかもしれない。

この景色を見下ろすやいなや、うさぎは早くもカメラを取り出し、写真撮影を開始した。 ネネとチャアはさっさと階段を降り、下から叫ぶ。
「ママー! マーマ! プールに入ってもいい? 入ってもいーい?!」と。
「いいわよー。でも、ここはまだは掃除してるみたいじゃない?」と、子供用のプールに差し込んであるホースを見て、 うさぎは答えた。
けれど、「いいわよ」という返答を聞くが早いか、ネネもチャアも子供用プールには目もくれず、大きなプールに飛び込んだ。 それを見てうさぎはちょっとびっくり。――おやま、もうチャアも大人用のプールで遊べるとはね‥。

さて。うさぎも自分の巣を作らなきゃ。
うさぎはビーチの方を向いているデッキチェアを二つばかり見繕い、プールサイドの大木の木陰まで、 芝生の上をずるずると運んだ。
それからタオル。ビーチタオルの貸出所で、色の褪めたラズベリー色のタオルを貰った。 監視員がいないので、サインと部屋番号、タオルの枚数を書いて勝手に持っていく。
タオル貸出所の脇にはオレンジ色の旗がたくさん入った壺が置いてあった。 旗を振ると、レストランのボーイが自転車で(!)オーダーを取りにくるのだそうだ。

デッキチェアにタオルをかけてその上に横たわると、うさぎはもう二度とここから動けないような気がした。 でも写真をとらなくちゃ! ネネとチャアはプールに飛び込んだ瞬間が一番いい顔をしている。 髪もまだくちゃくちゃになっていないし。
うさぎはかなり努力して、デッキチェアから体を引き剥がした。 こうなると、写真撮影は趣味の領域を越え、義務か、ほとんど苦行ですらある。 将来この旅行をアルバム上で楽しく振り返る、その時の為に、今はひたすら体に鞭打って頑張るのみ。

30分くらい遅れて、ようやくきりんがやってきた。あー、もう限界‥。
「パパ、いーい? 写真も撮ってね」ビデオ係のきりんにそう言い置いて、うさぎはデッキチェアに引退した。

デッキチェアに横たわって上を見上げると、大木が見事な枝を四方に広げていた。 ここだけでなく、この広い芝生エリアのそここちらに大木があり、 その見事な枝をわあっと四方に広げてデッキチェアの上に木陰を作っている。それは椰子の木ではない。 椰子の木もあるにはあるのだが、他の大木の威厳に圧倒されて目立たない。 背の高い椰子の木が目立たないほどに、ここの大木の枝振りは見事なのだ。

威風堂々とした大木の木陰、それは初めての体験だった。 これまでに訪れたリゾートは、ほんの数年前に出来た新しいホテルばかりだったから、こんな大木にはお目にかからなかった。 これぞ今年25周年を迎えた老舗リゾートの風格というべきもの。 ビーチサイドで木々のつくる木陰は、遠来の客にとって何よりのもてなしだ、とうさぎは思った。 この見事な枝振りを見れば、このホテルがどんなにこの木を大切にしてきたか、ひいては、 どんなにお客を大事にしているかが分かる。

のちに気付いたことだが、これらの木の一本一本には小さなプレートがかけられていて、そこに学名と種目、通称、 そして原産国が英語で書かれていた。
白だけでなく赤と黄のツートンや、あわいピンクの花をつけているプルメリア。
それに似た葉をつけた大木は"Sea Almond" (海のアーモンド) という名だ。
細かい葉が無数についている別の大木は"Rain Tree"(雨の木) といい、わんさとシダ類の寄生を許している。
"Dwarf Poincia"(ドワーフポインシア) という灌木は、ネムの木の一種。
細い根っこが地上3メートルくらいまであり、どこからが根でどこからが枝(細い幹?) なんだかさっぱり分からないバンヤンツリーは、 ここがリゾートとして開発される前からここに立っているのではないだろうか。 まるで長老のような風格を具えている。その雄姿を讃えてか、根元に祠があった。

「ママ、ビデオ撮って」というきりんの声でふと気がついた。いつの間にやら眠っていたらしい。 子供たちはまだプールの中だ。きりんにしがみついて深い方まで探検に行ったりしている。 うさぎはビデオを携え、プールに足の先をちょっとつけてみた。‥なま暖かい。 これだけ水温が高ければ、何時間でも遊んでいられるだろう。

しばらくすると、3人がデッキチェアへと小休止に戻ってきた。 さっきは満員御礼だったプールサイドのデッキチェアがどこも空っぽになっている。 どうしてかな? ――そうか、お昼の時間だからだ。みんなきっと、食事を取りに帰ったのだ。 そう思ったとたん、うさぎも自分のお腹がすいているのに気付いた。

うさぎはテーブルの上のメニューを取り上げ、お昼の算段をした。 これまでの経験では、昼食はプールサイドで取るのが正解である。 海外のリゾートのプールサイドは、日本のプールと違って美味しいものが出てくるし、値段も法外ではない。 何といっても時間のロスがないし、リゾート気分が途切れないまま食事にありつけるのが有り難い。 第一、今日のうさぎはこのデッキチェアにホネを埋めるっきゃない。

と、きりんが言った。
「ママはここで食べたいの? さっき屋台村を見つけてきたんだけど、そっちに行ってみない?」
ああ、そうだ。思い出した。なるべく屋台で食べるのが、今回の計画だったっけ。 今となってはもう、だるいし、そんなのどうでもよくなってるんだけど。でも、昨夜も屋台で食べられなかったしな――。 うさぎは重い腰を上げ、皆で屋台村へ行くことにした。

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