Malaysia  ペナン島

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【 フードコート 】

フードコート

きりんが見つけてきた"屋台村"は、ホテルロードを挟んだ向こう側にあった。ちょうどゴールデンサンズの向かいあたり。 ホテルロードから脇道(とはいってもホテルロードよりもよほど広い) に入ったその突き当たりに瀟洒なマンション群が見える。 きりんが言うところの"屋台村"とは、その一階にあるフードコートのことらしい。
脇道沿いには「エデンフェリンギ・リゾートホームズ」と書かれた紋章型の旗が規則的に並んでいた。 ディズニーランドとかでよく見かけるやつ。そうか、ここが昨夜の不動産屋が売っていた1000万円のマンションだな。 ピンクと白に塗り分けられた壁がお洒落だ。

少し歩いてエデンフェリンギ・リゾートホームズの建物にたどり着いてまず見たのは、住宅設備のショールームだった。 美しいタイル張りの浴室や、立派なキッチンキャビネットが、ウインドウの中に並んでいる。 イタリア製らしき色とりどりの大判タイルやら、大理石の浴室壁やら、無垢材の扉‥。 日頃うさぎが憧れているような素材ばかり! バブル時以来、日本ではあまり見かけなくなった高級素材である。 うさぎは思わずウィンドーに張り付いた。

"エデン〜"の一階には、他にも店が10軒ほど入っていた。 面白いのはその雑居性で、 豪華なショールームの隣りは「ギンザ・フットマッサージ」というカタカナの看板を掲げた怪しげなマッサージ屋で、 その奥にはみすぼらしい大衆食堂が見えた。庶民的な小さなパーラーや、紙おむつを積み上げた薬屋などもある。

ショッピングアーケードを通りすぎると、どっしりとした白い手すりのついた、立派な階段があった。 一段一段に白い大判タイルが張ってあり、そこに灰色縞の子猫が寝そべってあくびをしている。 造りが立派なワリには、なんとなく埃っぽく、白い壁には汚れが目立つ。 こんな立派な建物を建てておきながら、なぜ掃除をしない?!

階段の脇には無機的な暗い間口がぽっかりと開いていて、そこが目指すフードコートの入口だった。 広いフロアを囲むように食べ物屋のブースが並び、労働者風の屈強な男たちが、 コンクリート剥き出しの床に並べられた粗末な丸いテーブルで定食を食べている。 これまた建物の立派さとのギャップがすごい。うさぎたち子連れの観光客もちょっと場違いな感じ。 それでも一つのテーブルに陣取ると、感じのいい若い女性が「何になさいますか?」と英語で言いながら、 にこにことテーブルを拭いてくれた。うさぎが「一通り見てから決めます」と言うと、彼女は頷いて立ち去った。

ここには、皿に好きなものを自分で膳える定食屋が2軒、ラクサ(マレーシアの大衆麺料理)の店、汁そばの店、 炒めものの店、海南鶏飯(ハイナニーズチキンライス)の店、中華まんの店、そしてフレッシュジュースの店が2軒あった。 それぞれの看板にはメニューが漢字とアルファベットで書いてある。

最初に見た中華まんのコーナーでは、ガラスのケースには10種類もの中華まんが並んでいた。 けれどこれはまだ蒸していないもの。蒸しあがるまでに15分ほどかかるというので、うさぎたちは他を見て回ることにした。

定食屋は、白米と10種類ほどのおかずを自由に皿に盛る仕組みらしく、行列ができていた。 魚、野菜などを使った料理はどれも一様に赤褐色に煮込まれていて、辛そうだ。

麺の店は二軒並んでいて、右側が汁もの (ラーメンみたいな麺) 、左側が炒めもの (焼きそばみたいな麺) と分かれていた。 汁もののブースにいるおじさんは調理に余念がなかったので、うさぎたちは、炒めもの屋のおじさんに声をかけた。
炒めものの店だけあって、この店のメニューは殆どが「炒○○」であった。ちなみにお隣りの汁もの屋は「○○汁」ばかり。 似たような漢字名を並べられても、どこがどう違うのか、「炒飯(FRIED RICE)」以外はまるっきり分からなかったが、 うさぎはガイドブックで見た覚えのある「福建麺」を選んでみた。ところが、店のおじさんは麺を指さす。 どうやら、どの麺で「福建麺」を作るのか、4〜5種類のうちから選ばなくてはならないらしい。 うさぎは広島風お好み焼きに入っているような太い麺を選んだ。 きりんは、きしめん状に平たく、ぷりぷりと透き通った麺を指さした。 おじさんは、ネギだかニラだかのような野菜を取り上げ「これと一緒に炒めるけどそれでいいか」というようなことを言い、 きりんが頷くと、うさぎたちに背を向けて調理を始めた。

次にフレッシュジュースのコーナーを物色しに行くと、そこにはさっきテーブルを拭いてくれた感じのいいお姉さんがいた。 ここのメニューは絵入りで、価格も書いてある。 うさぎたちは、スターフルーツのジュースと、グアバジュース、それに「アイスチェンドル」を頼んだ。 スターフルーツのジュースは青リンゴのように爽やかな味、グアバも癖がなく、とてもおいしかった。
「アイスチェンドル」は緑色の半透明の麺にアズキ豆と黒蜜がかかったデザートで、うさぎ好みの味だったが、 いまいち冷えていないのと、ポリバケツブルーのプラスチックの深皿に、どことなく衛生的な不安を感じた。

しばらくして、炒め物が次々と出来上がった。 うさぎが注文した麺は、見た目といい味といい、広島風お好み焼きの世界だった。 きりんの麺の方は、白く透き通っていたのが、調理されると調味料を吸って褐色に変わっており、 見た目がちょうどクラゲのようだが食感はそれよりもずっと柔らかく、見た目ほどプリプリではなかった。 味も、卵と一緒に炒めてあるところが面白いが、違和感はない。

さて、そろそろ中華まんが蒸し上がったかな。子供たちとうさぎは中華まんを見に行き、3人でそれぞれ好きなのを選んだ。 チャアは「大包」という一番大きな肉まん、ネネは黄色っぽいの、うさぎは小さなシュウマイが3つ乗った皿を選んだ。
そしてその代金を支払おうと「ハウマッチ?」と尋ねると、太った中華まん屋のおじさんはやにわに目を天井に向け、 腕組したまま銅像のように動かなくなった。 電算機ならぬおじさんの頭の中では今、3つの数字が足し合わされているところらしい。

しばーらくして、ようやくおじさんは答えを吐き出した。「RM3.20」= 100円ちょっと。 うさぎはRM5.20を、5ドル札と小銭でおじさんに渡した。 おじさんはうさぎたちの皿をテーブルまで運んで行き、そこでポケットを探ると1RMコインを返してきた。 1RM足りない。
「もう1ドル」と、うさぎがにっこりして言うと、彼は黙ってもう一枚差し出した。 うさぎは「サンキュ」と言ってそれを受け取った。今のはわざとだろうか、それともミスだろうか、と考えながら。

中華まんは食べ慣れた味だった。 チャアの選んだ「大包」は、大きさこそ立派だったが、味は普通の肉まんだったし、 うさぎがシュウマイと思って頼んだものは、何とエビ餃子だった。 大好物! ちょっと珍しかったのはネネの黄色いので、それはネネが言うところの「砂糖まん」だった。 中にはざらっとした舌触りの黒糖が詰まっていたのだ。

うさぎたちは食事を終えると、外に出た。 本当は「ラクサ」や「海南鶏飯」も食べてみたかったのだが、もうお腹にはいらなかった。 500円足らずで4人のお腹がいっぱいになったのだ。

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