Palau  パラオ

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【 われらが巣 】

朝食

トイレのカギが直ってまた眠り呆けていると、玄関のドアを叩く音がした。 「グッモーニン!」という声もする。 開けると、それは朝食のルームサービスだった。 ゆうべのうちに頼んでおいたのだ。

「外のテーブルに置いてちょうだいね」 そう言ってうさぎはベランダのドアを開けた。 にこやかな女性たちはハイビスカスの花が飾られた朝食を置くと、愛想良く帰っていった。

うさぎがベランダのドアを押さえる手を離すと、ドアはバタンと勢い良く閉まった。 きりんが言った。
「もしかしてそこにもカギがついているんじゃ‥」
「うん、ついているわねえ」
「じゃあ、ベランダに出ているときもしカギがかかったりしたら、ベランダに閉じ込められるかも?」
「そうかも」
「気をつけなくちゃね」
「うん、気をつけなくちゃね」

相槌を打ちつつ、うさぎはドアを開けたり閉めたりし、 そのあとベランダで景色を眺めながら考えた。 ここに閉じ込められたら――いや、「閉め出されたら」というべきか――どうなるんだろう? ベランダは心地よい狭さで、外の雄大な景色と見事な対比をなしている。 外であって、外ではないそこから出られないとしたら、 それはやっぱり「閉じ込められる」だろうか。

うさぎは下を見下ろした。 はるか下のほうにレセプションへと通じる道が見える。 このコテージは、山の斜面に張り出すように建てられていて、ベランダの下は4〜5メートルの高さになっている。 ちょっとここから飛び降りる気にはなれない。

とりあえず「ヘ〜ルプ!」とでも叫ぶんだろうな。 でもその声を誰か聞きつけてくれるだろうか。 キャロラインリゾートはアラカベサン島の山のてっぺんにたっている。 更に我らがコテージはリゾートの中で一番奥、一番高いところにたっている。 レセプションから最も遠く、そこまで声を届かせるには、一体どんな声を出せばいいのやら。 赤いハイビスカスに囲まれ、青い海を見下ろすこんな楽園で すっとんきょうな声を張り上げている自分。 想像するだに情けない。

考えてみれば、今朝の事件は起きて正解だった。 カギに気をつけろ、という教訓になったもんな。

よろしい、答えは一つだ。 家族全員でバルコニーに出ているときには念のため、ドアに何か挟んでおく。 それで決まりだ。 さあ朝食にしよう。

「みんな、早く来なさい。ご飯よ〜!」
うさぎはベランダに皆を呼び集めようと、部屋を覗き込んだ。

‥あっ、暗い‥!

部屋はやけに暗かった。 ほんのちょっとの間に、外の明るさに目が慣れてしまったからだろう。 数秒して目が慣れると、いいアメ色をした壁や床や、吹き抜けになった天井の様子がはっきりしてきた。 その目でまたベランダのほうに向き直ると、その明るさに頭がクラッとした。 ひんやりとした床でちょっと頭を冷やしたい気分。

部屋の床にうつぶせに寝そべると、羽目板と羽目板との間にわずかな隙間があって、 下のほうに山の斜面が見えた。

なんだかここって鳥の巣みたい。
地面から遠い、枝の上。
4人家族にちょうどいい、楽しい巣。
この巣で我らは一週間を過ごすのだ。

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