Palau  パラオ

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【 パラワン 】

WCTCショッピングセンター

午前中は近所にある大リゾート、パラオパシフィックリゾートへ行き、 カヤックツアーの申し込みをし、おみやげを買った。 午後は街に行って食料でも買い出してこようか。 うさぎは「今日はもう疲れた。午後はこのままベッドで寝ている」と主張する皆を説得し、 レセプションに電話して車の手配を頼んだ。

ところが。 ホテルのドライバーはちょうど空港に出かけてしまっていて、しばらく帰ってこないという。 「タクシーを呼びましょうか」と電話の向こうでジニーが言った。 フロント業務を一手に引き受けている女性である。
「うーん、そうねえ‥」こちらが考えていると、受話器から話し声がごちゃごちゃと聞こえてきた。
「あっ、ちょっと待って。 今ちょうど近所の人が来ているのだけれど、彼女が街まで送ってくれますって。 5ドルくらいのお礼をするってことで、彼女の車に乗っていくというのはいかが?」

「チャンス到来!」 うさぎはニンマリした。 こういうのが小さなリゾートの醍醐味だ。 キャパが小さい分、ハプニングが起こりやすい。 地元の人と知り合えるなんて、願ってもないチャンスではないか!
「ええぜひ!」 とうさぎは答え、 「いいわよジニー、お礼だなんて」などと言い合う声がなおも聞こえる受話器を置き、 このチャンスが消えてしまわぬうちにと、早速出かける準備を始めた。

フロントデスクのジニーの隣で待っていたのは、愛想の良い大柄なおばちゃんだった。 お名前をジェニファーさんとおっしゃる。 ジェニファーさんは、握手を済ませたあと、 泥跳ね跡のいっぱいついた車のドアを開け、うさぎたちを招き入れた。

見た目はともかく、車の内側はどうしてどうして、快適だった。 エアコンはきっちり効くし、ラジオも入っている。 車は向きを変えると、狭い坂道を下り、公道に出た。

ジェニファーさんは気さくな人だった。
「パラオの外に出たことがありますか?」と尋ねると、 「ええ、高校、大学はグアムだったわ」と彼女は答えた。 「ここがわたしの家」と指差す家は、まだ新しくてきれい。 「ほら、こっちは私のおばあちゃんち」という家も同様だ。

パラオは諸外国からの援助で成り立っている国だが、 国民の生活レベルはあんがい高いと本で読んだ。 大国から援助を引き出す都合上、表向きは貧しいということになっているが、 実際はちっとも貧しくなんかないのだ、と。 瀟洒な家、高い教育。 ジェニファーさんの暮らしぶりはそれを裏付けているような気がする。 車がドロだらけなのは、単にここが雨の多い気候だからだろう。 今朝にしてからが、早速ひと雨きていた。 乾季真っ只中だっていうのに。

リゾートアイランドであるアラカベサン島から橋を渡り、首都のあるコロール島へ入ると、 急に交通量が増え、車の巻き上げる土ぼこりと排気ガスで埃っぽくなってきた。 空港のあるバベルダオブ島とコロール島を結ぶ橋は先進国顔負けの立派なものだったが、 アラカベサン島とコロールを結ぶ橋は、橋とも呼べぬコンクリのガタガタ道。 この国のインフラ整備はピンポイント的だ。

「ほら、ここが観光案内所、そこはシニア・シチズンセンターよ。 そっちのビルの二階にはカプリチョーザ」 過ぎ去る風景を前に、ジェニファーさんが口早に説明してくれる。
お勧めのレストランを尋ねると、彼女は 「そりゃあエマイメレイよ」と答えた。
「それは何料理のレストランなんですか? ローカルフード?」と尋ねると、
「何でも。ローカルフードもあれば、西洋料理もあるし、日本料理も中華もね。 何でもあって何でも美味しい。しかも安い!」とジェニファーさんは太鼓判を押した。 「あとで場所を教えてあげるわ。 買い物がしたいんでしょう? WCTCの前で降ろしてあげる。 エマイメレイはWCTCの裏よ」

説明するそばから、また新たな景色が過ぎ去ってゆく。 ジェニファーさんは大忙しだ。
「右手の広場を見て。ここには市がたつのよ」
「市?! それはいつ?」
うさぎは思わず身を乗り出して尋ねた。 市なんて、そんなの地球の歩き方にだって載っていなかった!
「毎日"アフタヌーン"にね」
「1時頃だったらやってるかしら」今は閑散とした広場を眺めつつ、うさぎは尋ねた。
「そうね。その頃ね」

ジェニファーさんがWCTCと呼ぶのは、 ショッピングセンターのことだった。 なんでも、パラオ最大のショッピングスポットなのだそう。 車はギューンと左折してその駐車場を一旦通り抜け、 裏手にあるエマイメレイレストランの前でUターンして戻ってきた。 うさぎたちはジェニファーさんにお礼を言い、5ドル札を渡した。 ホワイトカラー相手にはした金を渡す気まずさったらありゃしない。 まるで対等でないみたいだ。 金銭のやり取りを最後に別れるのはどうも落ち着かないので、 うさぎは手帳を渡して名前を書いてもらうことにした。 我ながら、いいアイデアだ。

そして彼女の車を見送ると、その手帳に忘れないうちに書きとめた。 「市」という文字を。

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