シンガポールのことを"星国"と呼ぶのだということを教えてくれたのは、 たしかエイミーだった。 次の旅行はどこへ行こうかと考えているとき、 彼女がうちの掲示板にその呼び名を書き込んだのだった。
それまでシンガポールに行きたいと思ったことはなかった。 東南アジアの近代都市国家。 写真で見るその摩天楼の様はさして東京と変わらず、エキゾチックとは言いがたかった。
	けれど、
	"星国"と呼ぶのだということを知った瞬間、シンガポールへの興味が急に涌きだした。
	"星国"というロマンチックな名前に大した意味があるわけではない。
	お米が主食でもないのにアメリカを"米国"、
	仏さまを信じているわけでもないのにフランスを"仏国"と呼ぶのと同じ、
	ただの当て字表現だということはすぐ分かった。
	でも、どういうわけだか急にシンガポールという国を知りたくなり、
	図書館で何冊か本を借りてきた。
	
	シンガポールという国は、広さ600平方キロあまり、人口350万人程度。
	この数字は、どこかほかの国と比べても意味がない。都市と比べるべきである。
	たとえば、広さは横浜市の1.5倍、人口はほぼ同じ。
	もしくは、東京23区と同じ広さ、約半分の人口である。
	道路にゴミを捨てたら罰金、公共の場でタバコを吸ったら罰金、
	などと法律の細かさにおいては世界でも類をみない国であるが、
	それも、シンガポールが一つの「国」ではなく「都市」なのだと考えれば納得がいく。
	小国であるがゆえ、要するに地方行政と中央行政が一体となった国なのである。
	
◆◆◆
ところで。今年もゴールデンウィークがあけると、夏のツアーのディスカウントが始まった。 我が家は待ってましたとばかり夏の旅行に向けて準備を始め、 そこで手ごろなシンガポール行きのツアーを見つけた。
	宿泊はシャングリラ・ラサ・セントーサに3泊、ANAホテルに2泊。
	いつものように、惚れに惚れこんだホテルではない。
	世界中から観光客の押し寄せるシンガポールにはそれこそ星の数ほどホテルがあるが、
	もともとがビーチリゾートではないため、
	ビーチに面したリゾートホテルがたった一軒しかない。
	それが、シャングリラ・ラサ・セントーサというわけだ。
	ANAホテルの方は、価格の割に評判が良いことが決め手となった。
	まあ、うさぎにしてみれば、今回はホテルはそう重要でなかったのだ。
	ただ"星国"でさえあれば――。
	
	そんなこんなで、もともといつもとは違った動機から始まったシンガポール旅行であったが、
	更にいつもの旅とは違ったファクターが生まれた。
	「7月18日からシンガポールに行くんだー」と掲示板に書き込むと、
	まずAliceさんが「うちも同じ日からシンガポールよ」とレスをくれ、
	更に、大ちゃんことdaijiroさんも19日からシンガポール、
	しかも同じラサ・セントーサに宿泊予定であることが分かった。
	
	シンガポールを"星国"と呼ぶことを教えてくれたエイミーも、Aliceさんも大ちゃんも、
	みんな旅行サイトの管理人。インターネット上で知り合い、
	実際にお会いしたことはないものの、互いにリンクを張り合い、
	手に手をとって共に歩んできた仲間だ。
	また、ハナままさんが、シンガポールに嫁いで住んでいるMarkyさんを紹介してくれて、
	これを機会にMarkyさんとのお付き合いも始まった。
	そんな仲間に囲まれて、シンガポールの旅は始まった。