Singapore  セントーサ島と動物園

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【 海の見える部屋 】

朝食

ベッドに入ったのは12時半を回っていたというのに、朝はいつもの時間にやってきた。 みんな、8時前には腹時計の鳴ったチャアに叩き起こされてしまったのだ。

そんなわけで、うさぎが起きて最初にやった仕事といえば、 ルームサービスを頼むことだった。 朝食メニューは洋食、中華、マレー料理と3種類あり、 今朝は洋食にすることにした。
電話で注文してしばらくすると、 白無地のテーブルクロスにタータンチェックのセンタークロスを敷いたテーブルの上に、 菓子パンが4人分どっさり盛られたかごやら、色とりどりのジュースやジャム類の載った 素敵な朝食が、折り目正しい従業員の手によって運ばれてきた。 よく見れば簡素なコンチネンタルだけれど、 そのきちんとした感じが素敵で、みんな大喜びした。

食事が来る前、ベランダに出て外の景色を眺めていると、 いつものリゾートとは一味違った光景が広がっていた。 まず下の方を見下ろすと、下の階のルーフバルコニーが段々に見えた。 1階には庭があり、その上の3つの階にはルーフバルコニーがある。

それを見たチャアが文句を言った。
「なんで下の階のベランダは広いのに、この部屋のベランダはこんなに狭いの?」と。
うーん、そうくると思った。うさぎは説明する。
「まず、1階の部屋のコネクティングルームは、空きがなくて取れなかったの。 それから、バルコニーの広い下の方の階は、ママも最初いいな、と思ったんだけど、 バルコニーが広い分、部屋が狭いらしいの。 で、バルコニーより部屋がちょっとでも広いほうがいいかな、と思って、 リクエストを上げなかった。第一、上の階の方が室料が高いのよ。海が見えるから」

けれど、チャアはそれでもまだ浮かない顔をしていた。

高い部屋だから何なんだ。
部屋がちょっとばかり広いより、
デッキチェアーを広げられるバルコニーがあった方がいいじゃないか。
海なんか見えなくったっていいよ。

そう考えているのが表情で分かる。
まあ確かに「上階の方が景色がいい」という図式は、 ことこのリゾートに関する限り、成り立たない。 なぜって、余計なものが見えすぎるから。 海を見渡せることが、あまり長所にならない。 その沖に停泊する、 あまり美しいとはいえないタンカーやら漁船やらまでが目に入ってしまうからだ。

海を見続けていると、サビサビでボロボロになった小さな漁船が、 ビーチ近くを横切っていくのが見えた。
「ちょっと! みんな、あれを見てごらんな!」というと、どれどれと皆が集まってきた。 そして、今にも沈みそうなその船を見て、大笑い。
その船が可笑しかったというより、そういう船が平気な顔をして走っていくという、 このリゾートの環境が可笑しかったのだ。 リゾートというものは、俗世間から完全に乖離した空間だと思っていたのに、 ここではまだ俗世間が幅を利かせている。

うさぎは広いバルコニーを諦めても、やっぱり上階にしてよかったと思った。
だって、この景色がシンガポールの現実であり、 上階だからこそ、この「シンガポールらしさ」が見られたのだから――。

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